第39話 地に墜ちた近衛騎士

 それから赤坂署まで連行される近衛騎士ロイヤルガード4人とは別のパトカーに乗り、3人も赤坂署に向かったので、私は一足先に転移で赤坂署に移動した。

 赤坂署の中で【不可視】と【隠密】を解くのは得策じゃないので、近くの公衆トイレの個室に入り、全て解除してから正面から堂々と中に入った。


 すると何処かから1人の制服を着た警察官がやって来て、署長がお待ちですので署長室までお願いしますと言われた。


 こちらから署長がいるか尋ねるつもりがその手間が省けたので、私は素直にマサシの待つ署長室に向かった。


「遅い! 遅いよ! フミくん師匠!!」


 いつから私はマサシの師匠になったのだろう…… それに私はマサシと今日会う約束は無かった筈なんだが……


「マサシ、今日って約束してたかな?」


 私が疑問に思いそう聞くと、ビックリしたような顔でマサシにこう言われた。


「えっ!? 何を言ってるんだい? フミくん師匠。教えたからには毎日修行をつけてくれないと! それが異世界の常識だよね?」


 どこで仕入れた知識だ、それは…… そんな常識は無いぞ。


「いや、マサシ…… 悪いがその常識は初耳だよ。私が拉致された異世界では師匠が手取り足取り教えたりはしない世界だったからね」


 私の言葉にガーンッと効果音が聞こえてきそうな顔で驚くマサシ。


「そ、それじゃ、フミくんはエロフ師匠に手取り足取り腰取り教えて貰ってないって言うのかい?」


 1言、増えてるぞ! 修行に腰取りなんて言葉は無いからなっ!!


「うん、勿論そうだぞ、マサシ。むしろエロフ師匠は基本だけ私に伝えて去って行ったよ」


「くぅー、何て格好いいんだ! それでこそエロフ師匠だっ!!」


 もちろん私はマサシの尊厳の為にこの部屋の会話が外に聞こえないように【風魔法】で遮音している。こんな会話を部下に聞かれたらマサシはその日から疑いの眼差しに晒される事になるだろう。


「分かった! フミくん師匠! 僕も自力で頑張るよ!! それで、今日は何の用?」


 くっ、この切り替えの早さ…… 中学の頃から変わってないな。


「まもなくだと思うが、この署の生活安全課の刑事さんが近衛騎士ロイヤルガードとクスリの売人を逮捕した。それに事情を知るランドールの2人とマネジャーが一緒についてくるんだ。私からの用事は、彼女たちは被害者だから事情を聞いたら速やかに開放してやって欲しいと頼みに来たんだ」


「ああ、そう言えば無線で流れてきていたね。うん、ランドールの2人やマネジャーさんは事情を聞いたら直ぐに開放するよう指示を出すよ。それだけでいいかな?」


 マサシがそう聞いてきたので私はリーダーのシバタケが逃げている事も伝えたがそれも既に知っていた。で、マサシにシバタケの魔力を私が追える事を教えて、現在どこに潜伏しているかも伝えた。


「分かった。それはタレコミがあったとして課長が戻ってきたら伝えるよ。それでそこに踏み込んで貰うよ。令状を持ってね…… っと、令状の申請書を僕が書いておこう。早めに動いた方がいいよね?」


 私はマサシに聞かれたので頷いた。


自棄やけになって何をするか行動が読めないから早めに対処する方がいいと思う」


 私の返事を待たずに何かの書類を取り出して書き始めるマサシ。それを見て私はよろしく頼むと言って署長室を出た。

 そして赤坂署の入口近くで既に到着して事情を聞かれているランドールの2人とヒヤマさんを待った。

 その後ろでは慌ただしく覆面パトカーに乗り込み出ていく刑事さんたちが居た。どうやら令状が出る前に逃げられないように、シバタケの潜伏場所に向かったようだ。

 

 待つこと15分でヒヤマさんと一緒にランドールの2人とミナカミさんが出てきた。署の入口でミナカミさんがヒヤマさんに声をかけている。


「師範、来週のお稽古もよろしくお願いしますね」


「はい、もちろんです。それと、ミナカミさんもそろそろ昇段試験を受けては如何いかがですか? もう初段以上の実力は身についてますよ」


「有難うございます。試験日に休みが取れたら挑戦してみます!!」


 その言葉を合図に振り向く3人と私の目が合った。そして駆け寄ってくるランドールの2人。


「オジサン、何処に居たのよ? 全然守ってくれないじゃない!」


 ナミちゃんがそう言えばヒナちゃんが


「ナミちゃん、何を言ってるの? タケフミさんはずっと一緒に居て守ってくれてたよ。後ろの2人を動けなくしてくれてたのタケフミさんなんだよ」


 と言う。うん、ヒナちゃん、間違っては無いけどナミちゃんには通じないと私は思うんだ……


「ヒナがそう言うなら、そうなのね」


 通じたよ! 私はビックリしているが内心には出さずにコチラに近寄ってきたヒヤマさんを見る。

 私の無言の問い掛けはしかし、ヒヤマさんが首を横に振るので答えは得られなかった。いったい何者なのだろうか? ヒヤマさんの正体を知る為に【魔視】を使おうかとも考えたが、何故かその気になれないので、使用はしてない。私が悶々としていると、


「けど、ヒヤマさん強いねぇ。ヒナびっくりしちゃった」


 ヒナちゃんが雰囲気を察してそう言葉を出す。ヒヤマさんはその言葉に謙遜する。


「いえ、私なんて師匠に比べればまだまだです…… 師匠は御年おんとし71歳ですが一度も勝てた事が無いんです……」


 どうやら謙遜ではなく本当に落ち込んでいるようだ。それもそうか、71歳の方に負けてしまうのは何故だろうと考え込んでしまうだろうなぁ。

 そんな話をしながら今日はもう事務所に行く必要は無いので、そのままマンションまで3人を送る事になった。


 そして、その日の報道番組は近衛騎士ロイヤルガードの5人の逮捕と、辞めダニのコウの逮捕でめられた。シバタケはちゃんと逮捕されたようだ。潜伏場所は都内にあるラブホテルだったが、令状が届き、刑事が突入した時点で直ぐに観念したらしい。マサシから電話でそう連絡があった。


 面白いことに、逮捕の報道が出てもファンの間で激震が走る事も無かった。何故ならシバタケの顔を見ると嫌悪を覚えるのだ。ファンだった人たちも誰も擁護意見をだす事なく、むしろ、やっと捕まったかみたいな雰囲気が漂っていた。


 ダニーズ事務所の社長、レイヤ飛夢酒とびむしは緊急記者会見を開いて監督不行届を謝罪していた。


 警察の公式発表により、薬物使用の疑いもあると出た事により、ダニーズ事務所への風当たりは更に強くなるようだ。


 しかし、コレで近衛騎士ロイヤルガードの面々がテレビなどのメディア関係に出る事は2度と無いだろう。何故なら、これまでダニーズ事務所に忖度そんたくしていた所まで、今まで綿密に調べて裏を取っていた情報を解禁したのだから。その内容はとても言葉に出しては言えないような酷い内容の物ばかりだった……


 私は今回も警察との連携によって、また1つ依頼を遂行し終えた。タカフミさんからは依頼料が振り込まれ、ああ、また国に取られる税金が増えたなぁと思ったのは内緒にしておこうと思う…… 


 


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