第37話 収録中止
私は難なく収録スタジオに潜入した。
スタッフたちの邪魔にならない場所に陣取り、他の歌手たちが揃うのを待つ。
ランドールは若手らしく一番にスタジオに入ったようだ。その後に続々とテレビで見たことのある歌手たちが入ってくる。
おっ、アレは!? 私は大御所と言える歌手を目にして驚いた。蔵野壮介さんだ。私が拉致された年にメジャーデビューされた筈だ。デビュー時の年齢が確か20歳だったから…… 今はまだ、45歳か!
そこまで考えた時に私は
子供の頃に感じた事も大人になると違ってくるんだなと思いながら次々に入ってくる歌手の方を興味深く見ていた。そして、若手の筈の
「はーい、俺たちが最後っすかー? どうもスミマセーン」
明らかに悪いと思ってないその言い草に他の歌手の人たちがムッとした顔をしているが、誰も意見は言わないみたいだな……
と思っていたら蔵野さんが
「君たちはまだ若手だ。本来ならば先にスタジオに入り先輩を出迎えるのが当然なんだよ。コレは君たちの為に言うんだが、今からそんな態度で他の方に接していてはこの業界では、いずれやって行けなくなるよ。事務所が大きいからスタッフなどから咎められる事は無いだろうが、この業界は事務所の大きさだけでは乗りきってはいけないよ。それだけはココで伝えておこう」
蔵野さんの真摯な苦言にあからさまに苛ついた顔をする5人。そして、リーダーのシバタケが【洗脳】を使うミッチーを見る。がっ、ミッチーは首を横に振ってこの場で力を使うのを拒絶した。
まあ、私が思考支配でそうさせたのだが。それに更に苛ついた顔をするシバタケだが、他の歌手も居るので、反省してない口調ではあるが、
「はーい、ご忠告ありがとうございまーす。以後、気をつけまーす」
と言ってペコッと頭を下げた。それを見た蔵野さんは頭を振り呆れながらその場を後にする。
それにより、緊張していた現場も仕事モードに入り、司会進行役のタレント2人が所定の位置について、遂に番組収録が始まった。
さてと、それでは私も仕事をしよう。
私はシバタケのスキルから無効にする事にした。今も観覧席に座るファンの見目良い娘たちに無意識に使用している【魅了】からだ。
この【魅了】で今まで何人の娘が犠牲になったのかは分からない…… だから私は無効にするのではなく、【反転】させる事にした。ついでにもう一つのスキル【剛腕】も【反転】させる。
まあ、どちらも無意識下でしか使用してなかったので練度が低いから、劇的な【反転】にはならないが、それでもこれまで【魅了】されていたシバタケの笑顔をファンが見ると、【幻滅】まではいかないが、【嫌悪】を感じるようにはなる。コレはアイドルとしては致命的な欠陥になるだろうと私は思う。
【剛腕】もそうだ。力づくで事を成してきたであろうシバタケがここぞという時に力を込めると逆に力が抜けるという事になった。コレでシバタケのスキルにやられる人は居なくなったと思う。
次はアカシだな…… 【追従】と【隠蔽】か…… 【追従】とは自分よりも力の強い者に上手く取り入るスキルだが、人に対して使用するとかけられた人がかけたアカシに追従するようになる。ある意味、洗脳に似たスキルでもある。
【隠蔽】はその名のとおり、バレたくない事を隠すスキルだ。どちらも練度が低いがスキルを知らない人は簡単に引っかかってしまうだろう。私はアカシのスキルは封じ込める事にした。
【闇魔法】と【空間魔法】を合成して出来た【封印魔法】を使用して完全にスキルが発動しないようにしたのだ。コレでアカシは今までのようにシバタケから
私はカガミの【性技】とムトウの【快楽】もアカシと同じように封じこめた。どちらも反転させてもさほど意味が無いからだ。
そして、思考支配しているミッチーだが、【洗脳】は封じ込め、【無抵抗】は反転させてやった。【無抵抗】については意識せずに発動していたようだが、コレで発動した場合には必ず相手から【抵抗】されるようになる。
まあ、そんな事になる前に警察に引き渡すつもりではあるが。
そして、収録が始まって30分が過ぎ、初めはシバタケの笑顔に反応していた観覧席にいるファンが、シバタケから顔を背けだしている。
シバタケ自身はまだその事に気がついて無いようだ。
それは突如として起こった。
プロデューサーと思わしき男性が叫ぶ。
「はい! ストップ! ストップ!! カメラと音楽を止めて!!」
そう叫んだ後に続けて
「
意外にも冷静な声音でリーダーのシバタケにそう言うともう用事は無いとばかりに次々とADに指示を出し始めた。
シバタケはギリギリと悔しげな顔をして、ミッチーに向かって何かを言っている。
どうやらこのスタジオに居る全員を洗脳しろと言ってるようだ。
ミッチーはそのつもりでみんなと目線を合わせるが誰も洗脳されたりしないので大いに戸惑っている。
「き、効かない! シバタケくん、僕の洗脳が効かない!?」
「何っ! この役立たず! お前は洗脳が使えなきゃただの陰キャだろうがっ!!」
スタジオに設置された舞台上で内輪もめしている
コレで第一段階は終わりだな。後はマサシに連絡を入れて生活安全課の課長に知らせて貰おう。刑事さんが張り付いてくれる筈だ。
そして、ADが他の歌手の人たちにこの後の段取りを説明している。
「今までに撮影した分の撮り直しはしません。編集でどうにか出来そうなので。それで、申し訳ありませんが30分ほどお時間をいただけますか? ダニーズ事務所に代わりのグループを打診中で、来れるなら今日中に撮影を再開したいと思いますので。もしも来れないようなら、後日にまた皆さんの所属事務所と打合せを行い撮影の日取りをお知らせしたいと思います」
その言葉でみんなは一度楽屋に戻る事になったようだ。私もランドールの楽屋へと向かう。
幸いトイレには誰も居なかったのでそこでスキルを解除してからランドールの楽屋にノックしてから入った。
「あ、鴉さん。どちらに居たんですか?」
楽屋に入った私にヒヤマさんがそう聞いてきたが、
「企業秘密です」
と言って私は躱した。ムーッと少し頬を膨らませて見せるヒヤマさんはとても可愛い。
ソコにヒナちゃんがやって来て私の耳元で囁いた。
「タケフミさんが何かしたんでしょ? 途中からシバタケ見たら物凄くイヤな気持ちにヒナとナミちゃん以外がなったそうだから」
おう、そうだった。腕時計に付与した状態異常無効の効果で、反転された魅了にヒナちゃんとナミちゃんは影響されないんだった。
仕方なく私もヒナちゃんに囁いた。
「その事は誰にも言わないでくれるかな? ヒナちゃん」
「うん、ヒナとタケフミさんだけの秘密だね!」
そう言って笑顔になったヒナちゃんは私から離れていった。ヒヤマさんに、
「鴉さん、だからウチのアイドルを
って言われたのには参ってしまったが……
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