第36話 謎のマネジャーさん、参上

 私はミッチーの思考を支配した。私には【状態異常無効】があるので物理的、精神的な状態異常攻撃も無効に出来るのだ。

 それに、ミッチーの【洗脳】スキルはまだまだ練度れんどが低い。もしも異世界でなら、ミッチーの【洗脳】にかかる人の方が少ないだろう。


 私はミッチーの思考を支配して、ランドールの2人に【洗脳】がかかったままだと思わせる事にした。更には先ほど言っていた指示も出したと思わせた。その方が他の4人も騙せるからだ。そして、私はミッチーを外に出した。


 さてと、私はランドールの2人を見た。【洗脳】により己の意思を奪われている状態だ。私は【洗脳】を解く前に2人の腕時計に状態異常無効の効果を上乗せする事にした。

 魔法の付与は本来ならば【付与魔法】という魔法が必要なのだが、私は【生活魔法】を応用、反転して付与している。

 【生活魔法】の清潔クリーンは指定した場所の菌や汚れを除去する魔法なのだが、それを反転させて、私の指定した魔法を指定した物に付与しているのだ。

 【反転魔法】を開発した利点の一つだと私は思っている。スキル表示されないのは謎だが、それは異世界に居た頃からそうだったので、そういうモノだと認識して考えない事にしているのだ。


 付与が終わったので私はランドールの2人にかけられた【洗脳】を解いた。初級の【光魔法】聖なる光で簡単に解けたので、やはり練度れんどが低いようだ。


 【洗脳】が解けた2人はハッとして目の前に私が立っているのを見て安心したようだ。


「ッ! オ、オジサン!? 大丈夫なのっ?」


「タケフミさん! 大丈夫?」


 自分たちよりも私の事を心配してくれるこの娘たちは本当にいい娘たちだ。私はそう思いながら2人を安心させる為に微笑んだ。


「大丈夫だよ、有難う。それよりも怖い目にあわせてしまってすまない。だけど2人とももう大丈夫だからね。これから近衛騎士ロイヤルガードが何を仕掛けてきても、その腕時計を着けていれば何も問題がないから」

 

 私が2人にそう言うと同時に扉が開く音がした。


「ゴメンねぇ!! 頼まれたジュース局内の自販機に無くて外まで買いに行ったらこんなに時間がかかっ!! だ、誰ですかっ?」


 マネジャーさんがジュースを買って戻ってきたようだ。私はスマートだと私が信じる動きで振り向き、マネジャーさんに自己紹介した。


「はじめまして、スターフェスのタカフミ社長より依頼を受けた【迎撃紳士】の鴉武史からすたけふみと申します。本日よりランドールのボディガードとして、2人につく事になりました。よろしくお願いします」


 私が爽やかと信じる笑顔と共にそう自己紹介すると、マネジャーさんも鞄の中から名刺を取り出しながら自己紹介してくれた。その顔は何故か紅潮しているが。


「あ、あの、はじめまして! ランドールのマネジャーをしております、桧山香織ひやまかおりと申します。ピチピチの20歳ですっ!! 鴉さんの事は社長と弥生さんから聞いておりました。本日から、よろしくお願い致します」


 そう言うと頭を大きく下げてお辞儀して、手にした名刺を私に向かってうやうやしく差し出しているので、私は素直に受け取ったのだが、ピチピチの20歳という情報は必要だったのだろうか?

 だが、私はヒヤマさんに好印象を持った。大きめの眼鏡をかけているが、その顔立ちは若い頃の深野涼子さんに似ている。


「ご丁寧に有難うございます。私はあいにく名刺を持ち合わせておりませんので、申し訳ない」


 そう私が言った時にヒヤマさんと目が合った。その目は何かを期待してるように見えたが、私が何も言葉を続けなかったので不意にそらされた。


「ッ!…… この、鈍感っ」


 ボソッとヒヤマさんが何かを言ったのが聞こえたが、ソコにヒナちゃんから声がかかった。


「ヒヤマさん、ジュースちょうだい。ヒナ、喉が乾いたの」


「はいはい、ヒナちゃん、ゴメンね。コレでいいのよね?」


「うん、コレ。有難う」


 そんな2人のやり取りを見ていたらナミちゃんに声をかけられた。


「オジサン、ヒヤマさんに見とれちゃってるけど、ココに現役のアイドルが2人居るのを忘れてない?」


 なっ! 私はヒヤマさんに見とれていた訳ではないよ、ナミちゃん。まあ、何故か目で追ってしまうのは否定はしないが…… だって、見れば見るほど深野涼子さんに似ているんだから、ソコは勘弁して欲しいと思う。オジサンの数少ない思春期の憧れなのだ。

 なんて開き直りをしながら私はナミちゃんにこう言った。


「ハハハ、勿論、ナミちゃんもヒナちゃんも私の目の保養になってるよ。その衣装も素敵だね、良く似合ってナミちゃんの魅力が引き立てられてるよ」


 私の言葉を聞いた途端に、ボンッ! という音が聞こえてきそうなほど急激に顔を真っ赤にしたナミちゃん。


「なっ、なっ、なっ!! 何を恥ずかしいコト言ってるのよ! オジサン! そんな口説き文句には騙されないんだからねっ!?」


 アレ? 口説き文句になるのかな? 異世界では女性はとにかく褒めろとエロフ師匠に教わったから実践しただけなのだが……

 

 そんな私とナミちゃんをジト目でヒヤマさんが見ていた。


「鴉さん、ウチの大人気のアイドル2人を篭絡ろうらくしないで下さい…… 社長に報告しなくちゃ」


 なんて冗談だろうと思うことを結構な真顔で言われてしまった。


「いや、ヒヤマさん。ナミちゃんが私なんかに篭絡ろうらくされる訳ないでしょう? ナミちゃんにはオジサンって呼ばれてますし」


 私が笑顔でそう言うと、ハァ〜…… と大きくため息を吐いて、何やらボソボソと呟いたヒヤマさん。


「全く、向こうに居た時と変わってないんだから…… もう、本当に正体を明かしたくなるわ」


 それから私を見て仕事の話を始めた。


「鴉さん、どうやってココに入りましたか? それと、楽屋に戻る途中で近衛騎士ロイヤルガードの5人とすれ違いましたけど、何かされてないですか?」


 私はヒヤマさんの質問に答えた。


「テレビ局に入った方法は企業秘密なのでお答え出来ませんが、近衛騎士ロイヤルガードの面々は先ほど楽屋挨拶にやって来ただけで、何もされませんでしたよ。それと、私の姿が見えなくても必ず2人の近くで見守り、何かあれば必ず守りますので安心してください」


 答えになってないが、そうとしか言いようがないので、コレで勘弁してもらおう。


 私の答えを聞いてヒヤマさんの顔には疑問と諦めが浮かぶが、口に出した言葉は了承の返事だった。


「分かりました…… 鴉さん、ランドールはこの収録の後に東京事務所に戻ってインタビューを受ける仕事があります。そこまでお付合いいただけるんですか?」


「はい、勿論です。皆さんが安全な場所に戻るまでが私の仕事ですので、ちゃんとガードさせて下さい」


 そこまで話をした時に収録が始まるとADが楽屋外から声をかけてきたので3人は楽屋を出て行った。

 私は小声で後からついていきますとヒヤマさんに伝えて、3人が出た後に【不可視】と【隠密】を発動して、スタジオに向かった。


 さて、無意識下で使用している近衛騎士ロイヤルガードのスキルを無効にする事から先ずは始めようか……

 私はそう思いながらスタジオに潜入したのだった。 


 

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