第33話 秘密
私はマサシとの待合せである赤坂駅に来ていた。待つこと5分、マサシがやって来た。
「フミくん、悪いね。待たせたようだね」
「いや、私もついさっき来たばかりだ」
私はそう返事をしてマサシについて歩き出した。てっきり電車に乗るのかと思ったらそのまま駅を出て歩き出すマサシ。
「ここから徒歩5分だから、ちょっと歩くけどいいかな?」
「ああ、勿論大丈夫だ。5分ぐらいなら歩いた方がいい」
「ハハハ、ホントにフミくんは変わってないねぇ」
「いや、まあそれはそれで喜んでいいのか……」
中学1年の頃まで良く遊んだマサシにそう言われるという事は私はその頃から成長してないという事になる。それは素直に喜べないぞ。
「ああ、成長してないって意味じゃないよ、フミくん。僕が言ってるのは心持ちってヤツだよ。人を気遣いながら言葉をだすのが変わってないって意味だよ」
私の複雑な心境を読んでマサシがそう言ってくれた。少しホッとしたよ。そこで私は再会して気になっていた事を、思い切ってマサシに聞いてみた。
「立ち入った事を聞くようだが、何で名字が三宅なんだ? 確か転校する時は
私の質問に笑いながらマサシは答えてくれた。
「ああ、そうか、そうだよね。僕は転校して京都に行ったんだけど高校の時に母が再婚してね。義父の名字になったんだよ」
聞いてみれば当たり前の話だった。むしろそこに気づかなった事に恥ずかしくなる私。
「いや、聞けば当たり前の事だったな。すまない」
私は素直に謝った。マサシはいや、謝るようなことじゃないよと言いながらあるマンションに入る。
そのままエレベーターで5階に上がり部屋に案内された。
「さあ、ここだよ。狭いけど気にしないでくれるといいな」
そう言うが中は3LDKで私はこれで狭いなんて言うのは罰当たりだぞとマサシに言った。
「ああ、でも
「そうなのか? 私は十分だと思うぞ」
京間と江戸間は確かに1畳のサイズが違うが、それ程大きな差は無かった筈だ。
「ああ、フミくんは関東圏から出た事が無いんだね。僕は京都に行って部屋の広さを感じたんだ。だから、ここだと僕は1部屋が少し狭いと感じるんだ。さっ、それはいいからソコに座って待っててよ。準備するからさ。飲めない酒はあるかな?」
「いや、よほど癖のある酒じゃなければ飲めると思う」
私の返事に分かったと言いながらキッチンに向かうマサシ。男のひとり暮らしの割にはかなりキレイな部屋だと思う。私は部屋を見回した。ついでに【電波感知】も行う。部屋には何も仕掛けられてないようだ。
「さあ、何もないけどこんな感じでもいいかな? まあ酒だけはあるから」
そう言ってマサシがお盆を手にやって来た。お盆の上にはウィスキー、ジン、日本酒、焼酎のビンと水の入ったペットボトルが乗っている。それらを机に置いてまたキッチンに戻り、今度は炭酸水と氷を持ってきた。更にまた戻り、レンジでチンした焼き鳥、冷蔵庫に入れていたサラダ等を乗せて戻ってくる。
「ツマミはこれぐらいしか無いけどいい? それじゃ、好きな酒を選んでセルフで頼むね。僕はコッチの準備をするから」
そう言うとPCを操作しだすマサシ。すると、ソファの真正面にあるモニター画面に見覚えのある顔が映った。
『おー、タイミングいいな。さすがマサだ』
画面に映るのはタケシだった。そう言えば中学の頃、タケシはマサシの事をマサと呼んでいたな。タケシの前にはツマミと酒がある。というか既に飲んでいるな。
「あー、ちゃんと繋がったよ。さあ、同級生リモート飲み会を始めよう!」
マサシの音頭で乾杯をして久しぶりに同級生の話を聞いた。マサシも途中で京都に転校してしまったので、主にタケシが話をしてくれた。
『ああ、そう言えば2人とも覚えてるか?
タケシがそう聞いてきた。私は脳内に検索をかけるが記憶に無かったが、マサシが直ぐに頷いているのを見てきっといたのだろうと思う。
『さてはその顔はタケフミは覚えてないな! マサはさすがに覚えてるようだな。まあ、覚えてないなりに聞いてくれ、タケフミ。矢内さんは今は小説家でな、何とあの百万部発行のラノベ【先の太道】の作者なんだ! ペンネーム
何と! 私も好きで読んでいるあの【先の太道】を同級生が書いているだと。私はその話に衝撃を受けていた。マサシもビックリした顔をしている。
「そうなんだね! 矢内さんがあのラノベの作者なんだ…… それを知ってるという事はタケくん、矢内さんと連絡が取れるの? もしもなんだけどサインなんて頼めないかなぁ? 娘が好きで読んでるから、サイン本を渡せたら喜ぶと思うんだ」
『フッフッフッ、マサよ、ソコは抜かりないぞ、見ろっ!!』
そう言って画面に映し出される【先の太道】全5巻。が2部ずつある。
『矢内さんに頼んで、マサの分とタケフミの分を用意してもらったんだ、今度タケフミが地元に戻ってきたら渡すよ』
「おおっ! 持つべきは友だと私は実感したぞ、タケシ!」
思わずテンションが上がった私は大きな声を出してしまった。
「うわーっ、タケくん! 有難う! 郵送してくれるよね?」
マサシもテンションが上がっている。みんな同じ40歳だが、まるで子供のようにはしゃいでしまった。そして、それらの
「さてと、フミくん…… 今から重大な質問を警察官としてフミくんにするよ…… いいかな?」
私は心の中で覚悟した。マサシよお前もか…… と。
「フミくん、君は何かの力を持っているね? 異世界で手に入れた力をひょっとしたら地球でも使えるんじゃないのかい?」
なっ!? ち、違った…… すまないマサシ、疑った私を許してくれと心の中で謝りながら、私は画面に映るタケシをみた。タケシは真剣な顔で頷いている。私は覚悟を決めてマサシに語った。
「マサシ、マサシが何故そう感じたのかを後で教えて欲しい…… だが今は質問に答えよう。そうだ、私は異世界で得た力をコッチでも使用出来る。魔法などのスキルをな……」
私が素直にそう答えるとマサシはフーッと大きく息を吐き出して安心したようだ。
「良かった、正直に言ってくれて。実はね、フミくん、近年地球でも超能力について各国が真剣に研究を始めているんだ。そして、中には本物と認定された人たちも居て、国家の中枢によって囲われているようなんだよ。日本は残念ながらその点については後進国でね…… ただ、不思議な力を持った人はごく
なるほど、スキルを持っているが自覚してないパターンだな。無意識下で発動させてるタイプなんだろう。けれどもソレを
「だからね、フミくんにお願いがあるんだ。
半ば必死な顔でそう言うマサシを止めたのは同じ警察組織に居るタケシだった。
『待て待て、マサ! お前の考えは間違っちゃいない。けどな、タケフミの事を上に言ってみろ! すべての責任をタケフミに押し付けるヤツがきっと出てくるぞ! 俺はそんな事は許せないし、許さない! ココは俺とマサだけの内緒の切り札としてタケフミには
タケシが私にそう聞いてきたので魔法の事だろうと見当がついた私は頷いた。
『コレを見ろ、マサ! そしてタケフミに教えて貰え! お前も使えるようになるから』
そう言って指先に火を灯すタケシ。ソレを見て私とタケシを交互に見てビックリしているマサシ。
「なっ、そ、それは? まさか、魔法? 魔法なのかい?」
『そうだ、マサ。魔法だよ。残念ながら地球だと魔素が少ないから大きな魔法なんて使えないが、ラノベでお決まりの生活魔法ぐらいは出来るようになるんだ。そして、俺はそれを発展させていってる。お前もこの力をタケフミに教わって手に入れろ! そして、タケフミを表舞台に引っぱりださずに済む方法を考えるんだ』
タケシの言葉に真剣な顔で思考するマサシ。そして5分後……
「フミくん、僕でも本当に習得出来るのかな?」
私はその言葉に頷いた。私の頷きを見たマサシは画面に映るタケシを見て
「分かったよ、タケくん。僕が間違っていたよ。僕はフミくんに教わって自分たちの力で事件を解決していくよ。フミくんは巻き込まない」
そう誓いのように言葉を発した。
『そうだ、それで良いんだよ、マサ』
タケシの返事がお開きの合図となった。私は画面上のタケシに有難うと楽しかったと言って別れを告げる。タケシにはコッチに戻った時は連絡をくれよと言われて画面は真っ黒になった。
そして、マサシが
「いや〜、最後はグダグダになっちゃったね、ゴメンよ、フミくん」
と言ってきたので、私は気にするなとマサシに伝えた。
「うん、やっぱり優しいね、フミくんは。それじゃもう一つ質問させてよ」
マサシがそう言うので私は頷いた。
「フミくん…… エロフとヤッたのかい?」
グハッ! じ、時間差か! マサシよ…… しかもお前までエロフなのか!? 私はしょうがなく答えた。
「ああ、ヤッたというよりはヤラれたと言った方が正しいのだが……」
「フミくん…… 僕はフミくんを心の友と書いて
何でそんなに悲しそうに言うのだ…… 私はもうこの手の事には慣れたので、マサシにこう言った。
「マサシ、残念だが地球にはエロフは居ない…… 居ないんだ……」
私の言葉にガックリと膝をつくマサシ。私はマサシの肩に手を置いて言った。
「さあ、魔法を使えるようになろう。私に魔法を教えてくれたのはエロフだ。そのエロフの教えをお前に授けるから、頑張ろう」
「フミくん…… 分かった、僕はエロフ師匠の
いや、違うぞマサシ…… お前が受け継ぐのは魔法だからな…… 私は心の中でため息を盛大に吐きながらも素直に頷いたのだった……
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