第31話 同級生だった

 女性警官が署長室の扉をノックする。中からハイという声が聞こえた。


「署長、お約束のあった鴉さんが見えられました」


 女性警官がそう言うと、


「ああ、来ましたか。入って貰って下さい」


 との言葉が返ってきた。女性警官が扉を開けてくれ、どうぞと言うので私は中に入った。


「失礼します。お忙しいところ、お邪魔して申し訳ありま…… せ、ん? ひょっとして間違ってたら失礼ですが、田中雅史たなかまさしくんじゃないですか?」


 私は小学、中学と一緒だったが、中学2年の時に転校した同級生の名を言っていた。すると署長は笑いながら


「ハハハ、フミくんには直ぐにバレたようだね」


 中学の時に呼んでいたように言ってきた。タケフミと言う名であった私がフミくんなのは、タケシがいたからだ。タケシはタケくんと呼ばれていた。そんな事を思い出してたら更にマサシが言う。


「タケくんから連絡があってね。フミくんを助けてやってくれって言われてるんだけど、一つ教えてほしいんだ。タケくんは教えてくれなかったから、直接フミくんに聞くよ。今まで隠れてたのはどうしてなのかな?」


 いきなりの質問に私は動揺してしまった。どうする? 正直に答えるか、それとも黙ったままでいるか…… 私はマサシの目の前で悩んでしまった。


「答えられないかい? それなら僕としては協力は出来ないなぁ…… 犯罪者かも知れない相手に協力したとあっては警察官として生きていけなくなるからね」


 マサシがそう言ってくる。私は考えた末にこう答えた。


「マサシ、私は何も犯罪は犯してない。コレだけは間違いなく言える。それと、今まで隠れていた訳でもない。とある場所に拉致されていたが、やっとその場所から帰ってきたんだ……」


 何度も言うが私は嘘は吐けない。だから真実を話した。異世界というワードを言ってないだけで嘘はついてないので、私の体には痛みはうまれなかった。が、やはり警察署の署長をするマサシは私の答えに満足出来なかったようだ。


「うん、そうだね…… 僕もフミくんが犯罪者だとは思ってはないよ。だけどそのある場所が気になるんだ…… その場所を教えてくれないかな? こんな事を言いたくはないけど、あのぼう北の国だったらばフミくんの思考テストをしなければいけないしね……」


 そうか、あの国に拉致されていたとマサシは思っているのか…… コレは困ったぞ。タケシは直ぐに信じてくれたが、マサシはどうだろうか? それに私の秘密をそんなに多くの人には知られたくないのもある。だけど、ココでマサシの協力があった方がいいのも事実だ。私は悩んだ。けれども、マサシも忙しい筈だ。私は決意してマサシに言った。


「マサシ、今から言うことは全て真実だ。だから笑わずに聞いて欲しい。私の頭が狂った訳でないことはタケシが私と友のままで居てくれてる事が証明になると思う……」 


 私はそう前置きをして頷くマサシを見ながらこの部屋を【風魔法】で囲んで遮音した。誰か他の人に話を聞かれる訳にはいかないからな。


「マサシ、私が拉致されていたのはこの星ではないんだ…… 地球ではない星、異世界に神のような存在によって拉致されていたんだ……」


 私はそう言って異世界に拉致された事を話し始めた。時間はかかったが、話し終えた私をジッと見つめるマサシ。そして……


「フミくん、僕は信じるよ。タケくんにも言われたけどそれだけじゃない。今までの僕の経験から、フミくんが狂った訳でも嘘を言ってるのでもないと分かるから」


 マサシはそう言って微笑んでくれた。私はホッと肩に入っていた力を抜いた。良かった、信じて貰えたようだ。けれどもマサシには力がそのまま残っている事は黙っておいた。聞かれなかったからな。


「フミくん、それで僕は何を協力すればいいのかな?」


 マサシが本題に入ってくれた。私はそこで部屋にかかっていた魔法を解除して話を始めた。


 芸能事務所スターフェス所属のタレントがダニーズ事務所所属のタレントに狙われている事。その際に私が阻止した際に警察とのスムーズな連携をお願いしたいとマサシに言うと、マサシが真剣な顔で悩み始めた。何か問題があるのだろうか?


「う〜ん、実はねフミくん。生活安全課からの報告で今まさにそのグループを監視してるそうなんだ。以前からきな臭い話が出ていてね、内偵を進めている所らしいんだよ。まあ、それで言えばウチとしては好都合でもあるんだけど、出来ればクスリの売人まで一網打尽いちもうだじんにしたいのが本音なんだよね」


 そうか、既に警察は目をつけていたのか…… けれども私としても引く訳にはいかない。ランドールの2人を守る為にもここは言っておくべきだろう。


「マサシ、私は犯罪を未然に防ぐのも警察の仕事だと思っていたが、私の認識が間違っているのか?」


 私の言葉にマサシの顔が苦笑を浮かべた。


「変わらないね、フミくんは…… 勿論、フミくんの言うとおりだよ。犯罪を未然に防ぐのも警察の仕事だよ。分かった、コレは僕からの通達事項として生活安全課の課長に伝えておくよ。それでいいかな?」


 これでもタケシが口をきいてくれたからここまで言ってくれてるのだろう。ましてや、私一個人が頼んでここまで動いてくれるだけでも有り難い事だと思う。

 私はマサシの言葉に頷いて了承した。そして、用件が終わったので私が挨拶をして部屋を出ていこうとしたらマサシが話しかけてきた。


「フミくん、良かったら今晩、再会を祝してウチで飲まないかい? ああ、僕は単身赴任だから家には僕しか居ないから気を使う事はないよ。まあ、だから洒落た料理は期待しないで欲しいけど……」


「いいのか? 警察の署長ともなればあまり2人だけで飲んだりしたら変な噂になったりしないのか?」


 私はそう聞いたがマサシからの返事は


「流石に同級生を家に呼んで飲んではいけないっていう規定は無いよ。ただ、純粋に再会を祝おうってだけだから大丈夫だよ」


 と笑いながら言ったので、私は了承して午後6時に赤坂駅で待合せする事にした。


 それから私はタカフミさんと弥生がいるマンションに向かい、2人にこれまでの経緯を説明した。


「そうですか、警察が協力きてくれるなら大丈夫ですね」


「タケにい、潜入なんかして大丈夫だったの? でも有難う、ウチの為にそこまでしてくれて」


 私は2人にランドールに渡した時計なら物理的には何も問題が無いから暫くは心配はしないでくれと伝えて、何とか早めに解決すると約束して、マンションを出た。

 さて、ダニーズ事務所の社長室にあった拳銃の件をどうマサシに言ったものか…… 私は今日、マサシの家に行った時にどうその事を伝えようか頭を悩ますのだった…… 


   

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