第29話 東京へ向かう
私は今、タカフミさんと一緒に東京に来ている。弥生の自宅から転移してきた訳だが、タカフミさんも急に弥生に呼び出されたようで、理由は分からないと言っていた。
そんな私とタカフミさんがマンションの部屋で待っていたら玄関の鍵が開く音がした。そして、弥生が
「居るの〜?」
と言いながら中に入ってきた。
「ああ、もう着いてるよ。弥生、タケフミさんまで呼んだのは何でだい?」
タカフミさんが返事をしながら質問した。
「あー、ゴメンね。急すぎて連絡をいれられなくて。タケ
ダニーズ事務所とは男性アイドルを世に知らしめたと言っても過言ではない大きな事務所だが、数年前にカリスマ社長が亡くなって、事務所のいう事を聞かないアイドルが多くなっていると雑誌で読んだ事がある。まあ、どこまで真実かは分からないけど。
「何だってっ! どのグループだい?」
タカフミさんが慌てて弥生に聞いている。
「
凄くいい名前のグループだが、何か問題があるのだろうか? 弥生の言葉にタカフミさんが苦虫を噛み潰すような顔になってしまっている。
「あの…… 私はダニーズ事務所所属のタレントさんには詳しくないけど、
私はわからない事は素直に聞いた方がいいと思い、弥生に聞いてみた。
「タケ
ハア〜…… その話を聞いて私は異世界で出会ったいきり立った冒険者たちを思い出してしまった。それなりに実力がある者もいたが、自分が気に入らないという理由だけで他者を攻撃し、手に入れたいと思ったら力ずくというのが同じだと思ってしまったのだ。
「うん、まあ確かに急ぎでどうにかしないといけないが、ランドールの2人は私が渡した時計は身に着けているのかな?」
「ええ、タケ
まあ、そこまで徹底しなくても大丈夫だとは思うのだが…… あの時計を身に着けてる限り物理的な危険は全て防御してくれるから、その点では時間はまだあるだろう。コンドルスターのライブツアーもまだ1ヶ月はあるし。
「それじゃ、私が少しその
私がそう言うとタカフミさんが早速東郷さんに連絡を入れている。東郷さんから返ってきたのは、俺は居ないがタケシならキャリアでもあるから、警視庁にも警察庁にも知合いが居るだろうという話だった。そこで私はタケシに協力をあおぐ事にした。
「おう、タケフミどうした?」
忙しいだろうに私からの電話には直ぐに出てくれる親友に感謝しつつ私は要件を伝える。
「うーん、知合いは居るがソイツが動くと大事になるからなぁ…… どうするか…… あ、そうだ所轄の署長をやってるアイツなら何とかしてくれるかも。タケフミ、連絡を入れておくから赤坂署の署長を訪ねろ。まあ、署長も忙しいが昼飯時なら何とか時間を作ってくれると思う。署の方に行けよ、外で2人だけで会うのはご
何やら含みがある口調でタケシにそう言われたが、取り敢えず言われた通りに私は赤坂署の署長さんを明日の昼飯時を見計らって訪ねる事にした。
「分かった、明日だな。俺から連絡を入れておくから、時間厳守で頼む」
タケシからそう言われて私は必ずそうすると伝えて電話を切った。
「タケシの知合いの赤坂署の署長と会う事になりました。明日、ちょっと訪ねてきます」
私がタカフミさんにそう伝えると、
「それじゃ、僕と弥生は
と返ってきたのでよろしくお願いしますと言って、私はマンションを出た。今日はホテルに泊まる事にしたからだ。そして、念願の1人居酒屋デビューを飾ろうと思う。
私はホテルにチェックインしてからホテルマンに近くでオススメの居酒屋はないか聞いてみた。
「ウチの近くでしたら、アチラの出入り口を出て左に向かいますと、200mほど先に【
と、教えてくれたのでそこに向かう事にした。居酒屋に入ると大人な雰囲気で、私が1人だと言うと和服美人さんが
「カウンターでもよろしいでしょうか?」
と聞いてきたので私は大丈夫ですと答えた。案内されたカウンターは目の前に板前さんが居て、直接注文しても良いとの事だった。私は内心でドキドキしながら注文をした。
「
「へい! 有難うございます! 今日は瀬戸内海産の活きのいい魚介が入っております! そちらの盛合せでよろしいですか? 酒はそうですね…… 珍しい出回ってない酒で、【翡翠の森】っていう酒が合うと思います! 直ぐにご用意しますので、ちょっとお待ちをっ!」
私は内心でホッとしながら刺身と酒をワクワクしながら待つ。何故こんなにドキドキしているかと言うと、異世界には酒場があったが何処か西洋風で、日本の居酒屋の雰囲気を持った酒場とは出会わなかったからだ。そして、私は中学生だった頃にいつか居酒屋にいって格好いい大人のようにスマートな注文をしてみたいという、幼稚な憧れを持っていたのだ。その幼稚な憧れを今日、やっと果たす事ができたのだ。ちょっと嬉しい。
大将が刺身を出してくれた。コレほんとに1人前ですか? 大将。私はその量の多さにビックリした。
「お客さん、それがウチの通常の1人前ですよ。初めて来られたお客さんは大概ビックリされますけどね、ハハハ」
大将が私が感じた疑問を見てとってそう教えてくれた。そして、瀬戸内海の天然鯛を中心に、養殖されてる魚も一緒に盛ってますが、大丈夫ですか? と聞かれたが、
「私は大将にオススメを頼んで、大将はコレがオススメだと選んで出してくれたんです。もちろん、大丈夫ですよ」
香川県小豆島のオリーブハマチ、愛媛県の媛スマ(スマガツオ)、同じく愛媛県のクエが養殖魚だそうだ。
美味い!! そして、オススメの酒は芳醇な香りで魚の旨さを引き立たさせている。
「大将! オススメはすごいね! とても美味しいよ」
思わず大将にそう言った。
「有難うございます。もう1品、刺身じゃなく火を入れた料理でオススメがありますが、いかがでしょう?」
「それは楽しみだ。ぜひお願いします!」
そうして、私の居酒屋デビューは大成功に終わった。値段が少しはるとホテルマンが言ってたが、刺身盛合せと、関あじのフライ、関さばの塩焼き、ぬる燗三合で支払った額は3,500円…… いや、安すぎでしょと私は思ったが、ココには東京に来る度に寄る事を心に誓って、いい気分でホテルに戻って就寝したのだった。
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