第13話 マネジャーの仕事

 それから2人が帰った後に私は東京のマンションに転移で戻ってきた。

 両隣の部屋を気配感知で探ると、2人ともテレビでも見て過ごしているようだ。居ない間に何か問題があったらとは思っていたから、私はホッとした。


 確認した私は2人の安全を確実にする為に、2人の魔力を確認して覚え私自身の魔力と接続した。コレで何処に居ても私には2人の居場所が分かる。

 ただ、ヒナちゃんの魔力はちょっと特殊な感じがしたのだが? まあ今はそれを検証するよりも先ずは2人の安全確保の為に打てる手は打っておこう。

 なお、トイレやお風呂などのプライバシーが大切な場所に入った時には自動的に接続は切れる様にしてある。長年の異世界生活で身につけた技術だ。


 それから私は弥生に渡された2人の予定を確認していく。明日はスタジオ撮影が9時からあるのと、撮影終了後にそのスタジオ内で出版社のインタビュー。

 それから明後日は千葉にある小さなライブ会場で歌フェスに参加して2曲披露する。出演時間は午後2時からだが、会場入りは午前10時だ。

 そこまで確認した時に私のスマホに着信があった。タカフミさんからの着信だ。慌てて私は出る。


「はい、もしもし。タケフミです」


「ああ、タケフミさん。タカフミです。実はランドールの予定表をスマホにお送りしたのですが、まだ見られてないようなので、確認の連絡なのですが、マインに添付てんぷして送ったので見ておいてもらえますか?」


「ああ、申し訳ありません。分かりました。まだ、使い慣れなくて……」


「それもそうですよね。でも使用してたらその内に慣れますよ。では、よろしくお願いします」


「はい、わざわざ有難うございます」


 そして電話を切った私はマインを立ち上げる。確かにタカフミさんから連絡が来ていた。コレからはスマホもちゃんとチェックしないとな。

 私はそう考えて予定表を確認する。そこには明々後日以降の予定が記入されていた。

 

 中々の過密スケジュールになっている。コレは2人と共有しておいた方が良いのか? と私は考えたが、私は2人のスマホの番号も知らなければ、マインで友達にもなっていない…… 意を決して私は今日の夕飯に2人を誘って見る事にした。

 しかし、ヘタレな私はやっぱり最初は嫌われてないだろうヒナちゃんの部屋の呼び鈴を押す。ヒナちゃんからナミちゃんに言って貰おう作戦だ!


 呼び鈴を押すと直ぐにヒナちゃんの声が聞こえる。


「ん〜、どしたの、タケフミさん? ヒナ、今から晩御飯を作ろうかと思ってたんだけど」


 ちゃんとカメラも確認して私だと認識してから声を出すのは現代では当たり前の事なのだろうが、私的にはちょっと寂しく感じている。私が異世界に拉致される前は、呼び鈴を押せば家の人がそのまま玄関を開けながらはーいって言ってたよな……

 ハッ、イカンイカン、物思いに耽ってる場合じゃなかった。インターホンからヒナちゃんがもしもーし、タケフミさーんと呼んでいる。


「あっ、ああ、ゴメンゴメン。実は社長さんから明々後日以降のランドールのスケジュールが届いてね。共有した方がいいかなと思ったんだ。どうだろう? 拙い男料理で良ければご馳走するから、私の部屋で夕飯を食べながらスケジュールについて話をさせて貰えないかな?」


「えっ、ホント!? 良かった、ヒナご飯作るの面倒くさいって思ってたの。あ、タケフミさんナミちゃんにはもう声はかけた?」


「いや、まだなんだよ。できればヒナちゃんから言ってもらえたらなぁ、なんて思ってるんだけど」


 私がそう言うと、ヒナちゃんがちょっと待っててねと言ったので素直に待つ。


 そして、3分ほどで扉が開きヒナちゃんが出てきたと思ったら、ナミちゃんの部屋の扉も開きナミちゃんも出てきた。私が驚いていると、ヒナちゃんが言う。


「タケフミさん、面白いねぇ。そんなに驚かなくてもいいじゃん。部屋からナミちゃんにスマホで連絡を入れたんだよ」


 それもそうか…… 何もヒナちゃんが出てきてナミちゃんの部屋のインターホンを鳴らす必要は無いよな。私は納得した。


「ちょっと、オジサン。仕事の話なんでしょう? 早く部屋に入りなさいよ!」


 いや、先に入ってくれてもいいんだけどね。そう思った私は素直にそう言ってみた。すると、意外な答えが返ってきた。


「なに言ってるのよ、オジサンが居ない部屋に勝手に入ったら泥棒になるでしょっ!」


 ほう? この娘は私を嫌ってはいるようだが、私に近い常識をもっているんだと、返答を聞いてちょっと嬉しくなってしまった。もちろん、ヒナちゃんも私が先に部屋に入るのを待っていたようだ。2人とも若いけどそういう面ではシッカリとしているようだ。


 私はそれもそうだねと言いながら、先に部屋に入る。そして、2人の部屋の扉をまた魔法で侵入不可にしておいた。


 部屋にはヒナちゃんの部屋を訪れる前に用意しておいた料理を既に並べている。その料理を見て2人は目を大きく開いて驚いてくれている。


「なっ、なっ、なにコレ!?」


 とナミちゃんが言えばヒナちゃんも


「スゴーイッ! これホントにタケフミさんが作ったの?」


 と疑問符を投げかけてくる。


「もちろん、私が作った料理だよ。さあ、冷めない内に先ずは食べよう。それから明々後日からのスケジュールを言うから」


 そう言って私は2人を食卓に促した。椅子に座った2人にさあ、食べてと言うと2人ともいただきますとちゃんと言ってから一口パクリと料理を口にする。


「ウソ!? 美味しい!」


 とはナミちゃん。どうやら見た目はともかく、味は不味いと思ってたようだ。


「美味しいね、タケフミさん。料理人になれるよ!」


 とはヒナちゃん。それは褒めすぎだよ。


「2人とも口に合ったようで良かったよ。遠慮せずに食べてね。それと食べながらでいいから聞いて欲しいんだけど、2人のスマホの番号を教えてくれるかな? 手早く連絡を入れられるように頼むよ」


 私がそう言うとナミちゃんはしぶしぶと、ヒナちゃんはいいよといいながら番号を教えてくれた。ついでにマインの友達登録もやってくれたのはさすが、ヒナちゃんだ。これでスムーズに連絡を取れるようになった。


「いい? マネジャーの仕事もするから教えただけなんだからねっ!? 勘違いしないでよ!?」


 ナミちゃん、オジサンは微塵も下心は無かったよ…… 本当に信用が無いなあ。まあ、ゆっくりと信頼関係を構築していこう。

 私は2人に気になっていた事を聞いてみた。


「2人とも、他の部屋の住人とは挨拶とかしたのかな?」


 私の問いかけにヒナちゃんが答えてくれた。


「ううん、ナミちゃんもヒナも出来るだけ部屋から出ないようにって社長と弥生さんから言われたから、挨拶とかはしてないよ」


「そうなんだね。このマンションに引っ越ししたのはご両親には知らせているのかな?」


 それにはナミちゃんが答えてくれた。


「言ってないわ。事務所に止められたのもあるけど、親がもしも巻き込まれて怪我なんてしたらイヤだもの。元気だって連絡は入れてあるけど……」


 なるほど、そこまで徹底しているのか。それではこのマンションはまだストーカーに知られていない可能性は高いな。明日からの仕事には私が細心の注意を払うようにしよう。

 それと、先ずはナミちゃんの上の階の住人を調べないとな。

 私はそう思いながら、明々後日以降の仕事のスケジュールを2人に伝えたのだった。



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