第11話 ボディガード初日
部屋を出た私はヒナちゃんの部屋の呼び鈴を鳴らす前に扉を映しているカメラを確認する。どうやら今は電源が入ってないようだ。遠隔操作出来るタイプなのだろうが、今ならば大丈夫だと思い、呼び鈴を押した。スピーカーからヒナちゃんの声が響いた。
「あ、タケフミさんだー。何かあった?」
私はスピーカー越しにヒナちゃんに説明しようとしたが、【魔力感知】に背後にカメラを設置した魔力が引っかかったので、咄嗟に違う事を話した。
「ああ、明日の予定の確認をしようと思ったんだ。ナミちゃんと2人で部屋に来て貰えるかな? ナミちゃんは自分の部屋かな?」
私がそう言うとヒナちゃんがナミちゃんも一緒に居るから今から直ぐ部屋を出るねと言うので、私は部屋の前で待つ事にした。背後の魔力は一定の場所まで近づくと、動かずに隠れてコチラを注視していたからだ。更にカメラの電源が入ったのも【電波感知】で察知した。私は自分の顔がカメラに映らないように注意しながら2人を待った。
背後の人物がどんな行動に出るか分からないので、私は用心しながら2人が出てくるのを待っていた。動く気配は無いので様子を見る事にしてるようだな。
「あれ、待っててくれたんだ。有難う、タケフミさん」
そう言ってヒナちゃんが扉を開けて出てきて、その後ろからナミちゃんが続いて出てきた。私は小声でヒナちゃんに鍵を掛けるように伝えた。
「ん、分かった」
私の言葉を素直に聞いて鍵を掛けるヒナちゃん。
使った魔法は【重力魔法】と【空間魔法】だ。【重力魔法】で鍵穴の中の重力を10倍にして、【空間魔法】で鍵穴の鍵の位置をずらしてある。コレで開けられる事は無いだろう。
そして、私は2人を部屋に招いた。私の部屋に2人が入ったのを確認してから、私はこの部屋に結界を張った。そしてまだコチラを注視している魔力を探ると少しずつ私の部屋に近づいて来ているようだ。私は【空間魔法】で
居間に入ると早速ナミちゃんが咬みついてくる。
「で、何よ? オジサン、私とヒナを呼び出して、まさか襲おうって訳じゃないでしょうね?」
私は内心でこの娘の思考回路は大丈夫かと思いながらも口には穏やかな言葉をのせるよう心がけた。オジサン呼びも今は弥生も居ないし、私としては芸能界で生き抜くつもりもないので、その業界の人に舐められても構わないと思っているので訂正はしない。
「魅力的な提案だけど、仕事の話は本当なんだ。と言っても私の仕事の方の報告なんだけどね。2人の部屋をここから調べたんだが、部屋の中には何も仕掛けられてない事が分かったよ」
そこで私はいったん言葉を止める。するとヒナちゃんが気がついたようだ。
「タケフミさん、部屋の中にはって言った。それじゃ、部屋の外には何かあったの?」
どうやらヒナちゃんは私の言外の言葉を読取ってくれたようだ。ナミちゃんはまだ疑わしそうに私を見ているが…… まあ、その内に信頼して貰えるように努力しよう。
「そうなんだよ、ヒナちゃん。2人の部屋のベランダには小型カメラが仕掛けられているんだ。2人とも普段はベランダに出たりしているかな?」
入口を映してるカメラについては敢えて言わなかった。アチラはいつでも取り外し出来るからね。
私は答えを知っているが、2人にベランダに出た事があるのか確認をする。
「ううん、ヒナはベランダに出た事ないよ」
「私もこの部屋に移ってベランダに出た事はないわ」
「それならば今のところは何も撮られてはいないね。安心したよ。それでなんだが、2人に頼みがあるんだ。私が2人の都合の良い時に外で変装して部屋を訪ねるから部屋に入れてくれないかな? それでベランダに仕掛けられたカメラを取り外してしまうから」
本当ならばそんな面倒な事をしなくてもカメラは無効に出来るのだが、ヒナちゃんはともかくナミちゃんに信じて貰う為に実物を見せる必要があると考えたのだ。それに、私が取り外さなければ2人が無謀な行動に出る可能性もあった。
例えばナミちゃんならばベランダに出てカメラに映ってる事を意識して、『何勝手に撮ってるのよ』みたいに言って撮影者を煽ってしまうかも知れない。それは危険な行為なのでそうさせない為にも実物を私が早く取り除く必要があると考えたのだ。
「タケフミさん、変装って何に変装するの? 仮面ライ○ー? スーパー○隊?」
ヒナちゃんの中では特撮ヒーローがマストなのかそう聞いてきたが、そっちは変装ではなく変身だよ…… 私は苦笑いしながら言った。
「ヒナちゃんの期待には応えたいところだけど、残念ながら電気工事の業者に変装するつもりなんだよ」
私の言葉にナミちゃんの辛辣な言葉が飛ぶ。
「そんな変装をする必要は無いでしょ! そのままベランダ伝いに私とヒナの部屋のベランダに行って取り外してくれればいいじゃない」
その言葉に反論したのは私ではなくヒナちゃんだった。
「それはダメだよ、ナミちゃん。誰が仕掛けたのか分からないんだし、取り外す時にタケフミさんが取り外したって相手が認識するよりも、どこかの業者が気がついて取り外したっていう形の方が相手を油断させる事ができるもの」
うーん、ヒナちゃんは17歳にしては洞察力なんかが凄いな。私もその通りだと考えていたので頷いてヒナちゃんに同意した。
「で、でもヒナ、こんなオジサンを部屋に入れるなんて……」
その言葉にヒナちゃんが笑って言う。
「ナミちゃん、今日じゃ無くても良いんだから、お部屋を片付けしようよ。私も手伝うから。ね、良いよね、タケフミさん?」
「ああ、勿論だよ。ナミちゃんの部屋の片付けが終わったら実行する事にしよう」
私の返事にホッとした顔をしたナミちゃん。そして2人にはそれまで絶対にベランダに出ない事を伝え、明日は朝7時に部屋に迎えに行くからと言った。
「えっ! 明日はスタジオ撮影で9時からよ。スタジオにはここからだと20分で着くんだし、8時でいいじゃない!?」
ナミちゃんの言葉に私は弥生の書いたメモの一部を見せた。
【…… それとタケ
それを見たナミちゃんは顔を赤くしながらも強がりを言った。
「フンだ、見てなさい! 明日は6時半には起きて逆にオジサンの部屋の呼び鈴を押してやるんだからっ!! ヒナ、行こう!」
私はその言葉に笑いながら2人を玄関まで送り、外にカメラを仕掛けた人物が居ない事を確認してから2人の部屋の扉に掛けた魔法を解除した。玄関から2人が部屋に入り、施錠したのを確認してから外からは絶対に開かないように鍵に【空間魔法】で細工をしてから、私は自宅に転移したのだった。
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