第45話 静けさ

「彩夜ちゃん、表情固いわよ」


「だって知らない子がいっぱいいる・・」


いよいよ撮影関係の顔合わせの日がやってきた。先生も先生として付き添ってくれることになったけれどそれでも緊張する。


「それに休日なのに学校に来るなんて」


「まあね・・、仕方ないんじゃないかしら?」


初めての場所はとても苦手。できるだけ近づきたくない場所。

でも先生もみーちゃん達もいるから来てみようと思った。


「同じ空間にいるから、何かあったら私のところに来ればいいわ」


「途中でどっかに行ったりしないでくださいね」


「ちょっと物を取りに離れるくらいは許してよ?」


そこは教室のような雰囲気だった。制服こそ違うもののみんな同年代でたくさんの人がいる。


基本同じ学校の人達どうしで固まっているけれど、あいにくみーちゃん達は席を外していて側にはいない。


「はあ・・」


ため息をつくと・・バサバサバサと上から紙が降ってきて・・。


「ごめんなさい! 大丈夫?」


「はい。大丈夫です」


とてもびっくりしたけれどなんともない。辺りに散らばったプリントらしき物を拾い集め・・


「どうぞ」


どこか親近感のある男の子だった。まだ身長も私と変わらない程度。誰かに似てるような・・。


「結・・理?」


「え?」


「あ、いや、知り合いに似てるなと思っただけで・・」


多分この人も能力者だ。結に近づいた時と同じような雰囲気を感じる。

その人は目を丸くして私を見つめ・・


「あなたの知り合い、結理って名前ですか? 僕より一つ年上で・・」


知らない男子に急に手を握られ、私は呆然とするしかない。


「すみません。でも、ずっと探している人なんです。髪が水色で、瞳が赤で」


「陸様とか?」


もし本当に結の知り合いならばきっと陸様の名前を出せばわかるだろう。


「陸と会ったことあるの? 怖めの顔で・・今は20歳くらいかな」


「陸様、奥様がいて・・お子さんもいたよ」


私だって経験したのだから、彼もその体験をしていないとは言えない。


「ねえ、終わったら少し話す時間って取れたりする?」


「・・うん」






「ごめんね。あんまり人には話せない事だから・・こっちでもいい?」


人がほとんど来ない場所に移動する。顔合わせはつつがなく終わった。

彼の名前は和泉優斗。年齢は私と同い年。


「あの・・名字って・・」


「あー、親切な人が僕のことを養子にしてくれたからこの名字なの。本当は色葉だったと思うんだけど・・」


「私は、偶然結とは出会って・・」


知っていることの表面をざっくり話した。この前まで一人で暮らしていたこと。最近やっと本来の立場に戻ったこと。


「あのさ、兄上は元気?」


「健康ではあるかと。・・でもゴタゴタに巻き込まれて元気ではないかもしれないです」


私が拒絶してしまったから落ち込んでいたように見えた。

時間が解決してくれるのか、陸様がどうにかするのか。


「・・優斗くんは、帰りたいんですか?」


「それは、別なんです。こっちにも大事な人達がたくさんいるので。・・でも家族のことは気になるから」


会えれば十分というところか。


「多分、5歳前後でこっちに来て・・それっきりなので」


多分結理が陸様達のところを離れる前に優斗はこちらに来てしまっている。それっきりで会えていないのならば・・。


「兄弟の仲がいいんですね。そんな小さい時のことを覚えているなんてすごい」


「あの家は家族が薄っぺらくて、兄は一番それに戸惑っていたんです。今でも陸にべったりだったりしない?」


「・・言われてみればそうかもしれませんね」


優斗が何を言いたいのか掴めない。


「まあ・・当時幼かった僕にはさほどわかりませんが、一番の理解者が陸なんですよ。それと兄は不器用なのでそこはわかってあげてください。もう一人の兄に世渡り上手なところは全部持っていかれたらしくて」


「・・三人兄弟ですか?」


「どうでしょう? 兄弟が増えている可能性もあるので・・」


結から母親を探しているのようなことは聞いたけれど、父親の話題はそこまで出てこなかった。


「優斗くんはお母さんの事を覚えてるんですか? 結はわからないからって探していて・・でもお父さんのことを知っているなら・・」


「僕だって父親のことは知りません。兄もあまり教えてくれなかったので・・でも母は僕の父親か別の男のところにいるのは確実かと」


「なんか・・すみません」


うちも複雑な家庭だけれど、ここもなかなかだ。


「いや、この時代よりも離婚再婚ってよくある時代なので。多分若かったのに僕らのことは大事に育ててくれましたから・・良い人と一緒にいるならば僕もそれが良いと思っています」


どうして時間を移動できるのか。ここで優斗と私が出会ったことも偶然ではないのだろう。


「・・わからないな・・」


「どうかしました?」


「いえ、なんでもありません」


この日を境に確実に何かが動き出した。まるで誰かが意図してそうしているように。


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