第41話 ひだまり
「わあー! かわいい!」
放課後の町のとある古い一軒家。
小さな生き物を前にはしゃぎそうな中学生2人をため息を吐きつつ燈依は止めていた。
「はい、ストップ。光月ちゃん、宙くん。まずは手を洗ってそれからね? 幼い子はすぐに風邪を引きやすいの」
「はーい」
これからどうしたものかとリビングに視線を向けた。幼児2人の面倒を見ている成雨はいつも通りだけれどどこか嘘っぽい笑みを浮かべている。
「まあ、たまたま夏牙がいなくてよかったね。居たら喧嘩というか・・一悶着あってたでしょう?」
「せーう?」
「なんでもないよ」
まだ単語をポツポツ話す程度の小さな子供が成雨の周りで戯れている。しかも双子。
片方は薄い青の髪に海の色の瞳を持つ男の子、
「今はご機嫌みたいね」
一度泣くと手がつけられなくて大変だけれど、基本的にはどちらもあまりわがままも言わない子である。
「ひー、みて」
積み木で作った車を見せてくる。
ちなみに、よく話しかけてくるのは海蘭。活発なのも海蘭の方で、氷音はおとなしくあまり喋らない。
「上手ね。こっちはお家?」
「先生ー、ちゃんと手洗ってきたよー」
「光月、よそのお家なんだから」
「先生、双子ちゃん触らせて? ほっぺ触りたい」
ぐいぐいくる光月に成雨と顔を見合わせて・・。
「触るのはお預けよ。この子たちの両親に許可を取ってからにして。今は見るだけ」
「そろそろだし・・まあいっか」
そろそろ、その言葉は嬉しくもあるけれど、心配の方がとても大きい。
「ちっちゃいけど・・何歳くらい?」
「2・3歳ってところだったかな? なんせ色々ズレてるし数え方がなんともね」
光月は優しい目で子供達を見つめている。宙は一歩引いてそれを眺めて。
「どうしてうちに来たのよ。というか細かいところはどうするつもり?」
「そういうのは私達の得意分野だから任せて。記憶弄ったり、なりすましたり」
「・・でも、そんな簡単にうまくいくか?」
深くは見てこなかったけれど、2人の関係がようやく見えてきた。
「宙くんは反対しているの? それとも中立?」
「・・・生憎、うっすらとしか覚えて無いし、光月に必要な部分を見せられただけだから・・せいぜい歴史が変わらないようにしようかなと思ってるだけ」
「でもね、宙はちゃーんと私のことは覚えててくれたの。とってもいい旦那様でしょう?」
本物の中学生ならばここで揶揄うと面白くなるが、2人には一切効かない。
下手をするとやり返される。恐ろしい子供だ。
「宙くんはモテるって聞いてるわよ。そのうち2人は付き合うの?」
「・・さあ、光月にその気があるなら良いけど、そうでもないみたいだし」
「はい? 記憶にないだろうけど浮気したくせに。その人を探し出して一緒になれば良いじゃない」
かつての2人はとても、とまではいかなくとも良い関係を築いていた。知らない間にさっぱりしていると思ったらそんなことがあったのか。
宙も否定しないあたり本当なのだろう。
「彩夜ちゃんの話だけど、おれは結理より夏牙の方が良いと思うけど? 結理と仮にうまくいったって苦労するのは目に見えてる」
「いや、2人は一緒になるべきだって! 一番相性がいいんだから」
「相性が良くたって、環境の問題があるだろう? 夏牙は年上なんだから、頼りになる優しい男でいれば傾く可能性も大きいと思うね」
「・・・2人だってわかっていると思うけれど、本人が居ないんだからそんな話をしてもどうしようもないと思わない?」
成雨はわざとなのか、双子を連れて隣の部屋に行ってしまった。
「結果も知っているんでしょう?」
「ちゃんといっつも笑ってたよ。2人ともね。山も谷もたくさんあるけど越えられる」
「・・・物事はなるようにしかならないから仕方ない。いくら考えたってどうにもならない時もある」
「それと、財の一部が残ってたからここに置いていくね。双子ちゃん育てるのにでも使って」
そう言って出てきたのは大きな金の塊である。他にも色々。装飾品なんかも出てきた。
「全部?」
「換金してもどれくらいになるかわからないし、どれだけあっても困らないでしょう?」
「・・・後で返せって言われても無理よ?」
正直、今ここに暮らしている面々で働いている者は少ない。困ってはいないが余裕もなかった。
そこに双子が増えたことで、さらに子供特有の別の出費も増える。
「双子ちゃんの服って着物を仕立て直したやつでしょう?」
大人が来ていたもので、袖や裾がダメになったものを縫い直して着せていた。子供の分くらいの布なら綺麗な部分だけ切り出せる。
「もっと動きやすい服着せてあげて。これからもっと動き回るようになるだろうしね?」
「ありがとう。使わせてもらうわ」
「あと、これが私の連絡先。親は知らない携帯だからなんでも連絡して」
メールアドレスに電話番号。きっとまだまだ色々なことを勝手にやっているのだろう。
「よくそんなことまでできるわね。契約とか必要でしょう?」
「住所とかはここを使わせてもらってるから。一回偽造してしまえば意外と簡単だよ」
「ほどほどにしとけよ。燈依先生、光月が夜中にこっそり家に来るんだけどなんか言ってよ」
「夜中に出歩いたらダメってところを?」
「男の部屋にズカズカ入ってくるところ。どうせ甘くも何にもならないけど」
本来、学校の先生としてはそこもいうべきではある。けれど全く心配していない。
宙の今の言葉は期待の裏返しなのかともふと思う。
「あなた達はその辺りの大人よりよっぽど大人じゃない。ちゃんとわきまえているのでしょう? 補導だけはされないようにね」
「恋愛したいなら、クラスの子を引っ掛ければいいじゃない? 宙の腕なら簡単に落ちると思うけど」
光月も光月で素直ではない。きっとそんな事になれば大喧嘩が起きるのが目に見える。
「興味ない。あ、先生とならいいけど? どう? 俺、そこそこ良い物件だと思うよ」
「光月ちゃんに睨まれたくないわ。それに私の好みはもうちょっと大人な人ね」
流石に10歳ほど見た目的に差がある子供にキュンとはしない。
「それは残念」
「十年後なら考えてもいいわ」
「その頃、独身だったらね。あ、離婚してる可能性もあるか」
宙の言葉に苦笑する。二人はどうせ一緒にいる気なのだろう。宙の中では結婚することも確定しているわけで・・
「仲良くね。私の予想だと、十年後はここは託児所状態になっていると思うのよ」
双子は大きくなっているだろうけれど、二人の弟妹達がたくさんいると思う。
「じゃあ私も頼んじゃおうかなー」
叶うならば、幼馴染の3人がずっと仲良く友人でいられますように。
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