第40話 羊雲2

ぐいぐいと無言のまま何処かの部屋へ押し込まれた。


「奥様、いけないこと私やっちゃいましたか?」


「大丈夫よ。それより問題は結理様の方かしら?」


出口を塞ぐように立っている陸様に、仮面を外した結を追い詰めていく奥様。


「あっちの方が年上だろう? 2人でいっつもくっついて妹だから兄上よろしくって。絶対わざと出してるあの甘ったるい声とか本当うるさい」


「女の子はそんな感じじゃない? お姫様なんだろうし、そんな感じの人は多いと思うよ?」


キラキラを好み、自分の使い方をわかっている女子はかなりの量がいると思っている。


「桜も友梨も違ったし、彩夜も光月ちゃんも」


「結理様、それは珍しいのですよ? ねえ、彩夜ちゃん」


「私だって・・お兄ちゃんにはたまーに可愛く見えるように言うよ? そんなものじゃない?」


結の機嫌がすごく悪い。今のは言わないほうがよかったのかもしれない。


「彩夜、おれの母様の話した時、彩夜はまだ生まれてなくておれ達は小さくて母様はもう1人を産む前って言ってたよな?」


「うん。お母さんの記憶が間違ってなければ」


謎の空間に呼び出されて着物の女の人と話たことがあると言うのを夏休みに会いに来てくれた母が話してくれた。


「もう1人弟がいるんだ。それが彩夜と同い年。ならおれは彩夜の1・2歳上ってことになるんだ」


あれ?と首を傾げる。元々お兄ちゃんと同い年のはず。それは年齢の数え方で生まれる誤差ともわかった。


「元からそんな話じゃなかったっけ?」


「知らないけど、こっちだと16・7歳ってことになってるの」


お姫様たちが14・5歳ということか。意味不明だけれど兄と妹の年齢がおかしいことになっていると言いたいのはわかった。


「・・よくわからないけど貴族って大変だね」


「ちびだなんだって言われるけど、当然だし。だって、葉と流と同年代ってことにされてるんだよ?」


誰だかわからないけれど・・・年上の設定に勝手にされて困っていると言うことかな?


「結理、あまり話すのは・・」


「結局別人だって言っても良いんだから。本物はどうしてるのか知らないけど」


「それは結理に罪があることになってしまう」


これは聞かない方がいいやつだと感じる。聞けばきっと巻き込まれる。


「あ、奥様そろそろ帰った方がいいのでは? 菜乃花ちゃんが寂しがるかも」


「逸らすのも大事だけれど、今回はよくないかもしれないわ」


一見ふわふわしている奥様かと思いきや、さすが貴族の跡取りの奥様だけあってしっかりしているらしい。

けれど、ただの子供の私に何を求めているのかわからない。


「ちょっと待ったー!」


懐かしい聞き覚えのある声。でも、声を聞いて喜ぶことはほぼなかった気がする。


「奏さん、何?」


「うわぁー、ちゃんと反抗期やってるねー。そういうところがまだまだお子様かなー」


煽るようなとてもイラッとくる言い方。これでお面がなければもっとイラッとくるだろう。


「君がどれだけ嫌って言っても君は大人扱いされてしまうんだよ。それくらいわかってるよね?」


「わかってる」


ちょっと結が成長したけれど、靴のせいもあるかもしれないが奏さんの方が大きい。

そんな奏さんに詰め寄られ、結は逃げるように後ろへ下がる。


「これはいい機会だと思うよ。私的にももう少し彩夜ちゃんと仲良くなってくれないと困るんだよー。それに最近夢見が悪いでしょう?」


「それも奏さんが? 悪趣味・・」


「流石にそんなことしないよ。でもその夢は現実だからね? だーい好きな人にこれ以上苦労させたらダメだよ?」


どうしてなのかわからないけれど結の顔が青くなる。


「さて、彩夜ちゃん、どう思う?」


どのあたりの事を言っているのか不明だけれど。


「結に好きな人がいるならよかったなーと。どんな人か・・ちょっと見てみたいかも」


「そう来たかー。道のりは遠そうだね」


「だって、奏さんちょっと耳かして」


奏さんは現代を知っている人。だからちょっとくらい情報をこぼしてもいいだろう。


「結は奥さんととっても仲良しで、記録には子供が6人とか8人9人って書いてあったから・・そこまでラブラブになる人って気になりませんか? それとか子供達はとっても可愛い顔だったとか書いてあったので、奥さんも綺麗なんだろうなーって」 


「うわぁ・・・それは大変そう・・」


若干引いている奏さんになんとも言えない顔の陸様がこちらに近づいてきて・・


「少し、聞こえてしまったのだが・・、それを知って嬉しそうなのか?」


「人の恋バナって楽しいですよ? 友達の恋愛話とか、うまく言ってるって話を聞くと嬉しいですし・・どんな人か気になるってのはみんな思う事じゃないんですか?」


知っている人が嬉しそうな時はは私も嬉しい。


「私が何か影響与えるかもって事はわかっているので、そんなに動き回るつもりはないですよ」


「奏様、これは・・ーーーーーーーーー・ことでしょうか?」


「後で説明してあげる。ちょーっと思ったよりも複雑なことになってるし」


陸様と奏さんの大人の会話といった感じのが目の前で繰り広げられている。


「ダメなこと言いましたか?」


「いや、人の喜びを一緒に喜ぶのはとっても良いと思うよ! その・・なんというか・・」


「あのね、彩夜ちゃん」


奥様に肩を掴まれてくるりと壁の方を向けられる。


「これくらいの年の男の子って結構面倒なのよ。年上に言われるのも年下に言われるのも嫌でしょうし、多感なお年頃っていうか・・わからないわよね。とにかく、そっち方面の事はあんまり聞かないであげて?」


「わかりました」


なんとなく理解した私はとりあえず余計なことを言わないようにしておいた




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