冬の空
第36話 曇り空
季節は冬。比較的温暖なこの土地でも、その土地に住む人達からすれば十分に寒い。
雪でも降れば気分も上がり寒さも気にならないが、雪など積もることは数年に一度あるかどうかで年が明けなければ降ることはない。
「先生ー、寒いよー」
「そう?」
暑さに弱い燈依先生は寒さにはとても強い。なんでも東北に暮らしていたことがあるんだとか。
「そろそろ始まるわね。撮影」
「・・ですね。だんだん緊張してきました」
夏に誘われた部活の劇に出た。それが県でも努力賞に選ばれて、一番では無かったのに何故か出演依頼が来た。
それは素人の中学生を全国から集めて一本の画像作品を作るというもの。部活としてやっている子たちだけで作り、そんな中になぜが私もみーちゃん達も選ばれた。
「でもちょっと楽しみじゃない? そんな機会滅多に無いわよ」
「・・でも、舞台よりやり直しがきくから気が楽かもしれないです」
夏に先生と一緒の舞台は楽しかった。けれど、今回は子供だけだからと先生はいない。
幸い、少子化で教室が沢山余っているこの学校での撮影になったから離れなくていいところは大きい。
「数ヶ月だけ転校して来て寮で生活する子達がいるじゃない? 彩夜ちゃんも混ざるの?」
「まさか、家だって学校まで徒歩10分もかからないんですよ? 放課後には今まで通り先生の家に遊びにいくし、家から通った方が自由です」
「それもそうね」
メンバーの大半が一年生で3割ほどが2年生らしい。受験があるからと断った2年生が多くてそうなってしまったらしい。
「最近、顔色悪いけれど大丈夫?」
「・・なんか眠れなくて。変な夢ばっかり見るんです」
元々睡眠時間は長い方。だからひどい寝不足にはならないものの、寝足りない感じはある。
「っ」
頭が急にキーンとなって押さえる。痛くはないけれど、どうかなりそうな感覚で。
「彩夜ちゃん?」
「これも、最近よくこうなるようになって」
頭の中に幼い子供の泣き声がガンガンと響く。多分2人。うるさくて耳を塞いでもどうしようもない。
「どうしたの?」
「声が・・」
こうなると短くて数分、長いと十数分は声が頭に響き続ける。
「どんな声なの?」
「ちっちゃい子供。2人なの。・・青と黄色で・・」
脳裏にぼやけた映像が浮かぶ。色となんとなくの形しか見えない。
「横になって」
ソファーに寝かせられて毛布に包まれる。うっすらと目を開ければ燈依先生が電話をかけているのが見えた。
「先生・・」
声の重さに耐えられず、意識が深いところに沈んでいった。
・ ・ ・
慌てて携帯を取り出して家への番号を押した。
繋がるまでのわずかな時間ももどかしい。留守番の面々には電話の取り方は教えている。誰かしら繋がるはずだけれど。
「燈依? どうした? こっちは今・・」
成雨の声に被り、電話の奥から幼児の泣く声が聞こえる。やっぱりそうなのか。
「もしもし、ねえ、そっちって」
「2人が急に泣いて大変なんだ。どうにか機嫌取ろうとしてるけど、何言ってもダメで」
「成雨が決めたんでしょ?! 責任持って面倒見てちょうだい。彩夜ちゃんは声が聞こえるって倒れたんだから」
ただの子供の彩夜には何もできない。無理にこちらの世界に引きづりこむのもしたくない。
せめてもう少し彼女が大人になってからでないと、この状況を飲み込むのは厳しい。
「燈依、そろそろ・・」
「私は反対だから。何かするようなら氷漬けにするわよ」
いくら仲間で、家族のような存在であっても許容できないことはある。
「怖いなー。・・こっちだってちゃんと考えた上でやってる。でも時間が無いんだ」
「そんなのわかってるわよ。・・本当に世の中って理不尽よね」
何か成雨が言葉を返した気もしたけれど、伝わる前に通話をきった。
「はあー・・、あの人達は何考えてるか分からないし、どうしろって言うの?」
1人愚痴を溢したところで何も解決しない。けれど、頼れる知人なのほぼいない。
大事な子が眠っているソファーに目を向けて・・
「彩夜ちゃん?」
掛けた布団はそのままに、彩夜の姿はどこにも見当たらない。部屋を出て行った音もしなかった。
「先生ー、どうしたのー」
「・・こんにちは、光月ちゃん」
いつの間にか笑顔でベットに腰掛けている少女に擬態した何か。
彼女は紛れもなく本当の少女だけれど、中身はとてもそうとは言えないだろう。
「心配しなくても大丈夫。でも、そろそろ限界だと思うから覚悟しておいてね?」
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