第24話 非日常2
「何かあった?」
我ながら、ここの方が落ち着くなんてどうかしていると思う。
響紀さんの所に逃げるように遊びに来て、すっかり慣れたその場所でのんびりだらけている。
「おれにだって色々あるし」
そう言えば、深くは聞いて来ない。ただ、どうでも良い話題を振ってくれる。こういうのを友達と言うのだろうか?
「響紀さん、村を襲った犯人って本当?」
そのことを聞いて怒るような人柄では無いと思っているから尋ねた。
奏さんからそうとは聞いていたものの、聞くに聞けず、今まで放置していた。
「襲ったつもりはないけど、・・うっかり火事にしちゃったのは本当。村は大丈夫?」
「ちょっと怪我した人が数人いただけ」
襲ったつもりが無いのは本当なのだろう。人間目線とは大きな違いも出てくる。
「ならよかった」
「響紀さんって、もしかして人間の姿にもなれたりする?」
「うん。一応? このご時世、まあまあ大変だから時々するけど」
奏さんが言っていた、一番怖いタイプの人外だ。能力を隠して、人に紛れることができる。
「しようと思えば結理もできるんじゃない? 力量は変わらない、いや私以上かも?」
そう言われてもピンとは来ない。能力の使い道は火おこし一択。それ以外に使おうなんて思ったことは無い。
「そしたら、普通の中に紛れられる?」
「動きさえ普通に出来れば。目立たないように、みんなと同じようにって、こちらの人外社会とは考え方が真逆だから難しい点も多いけど」
「今さら、来られたって」
葉や陸だって心配してくれていたのは伝わった。
探すことが今まで無理だったのも頭では理解しているけれど、どうしても思ってしまう。
「若いって大変だね」
「でも、今まで放置されてたのに、今更戻って来いなんて言われても、あんなところに戻りたくないし」
どんな風に陸や葉と接したらいいのかわからない。幼い頃は何とも思わずに甘えていたけれど、彼らは貴族。平民の暮らしが板についている今は、どうしても距離を取りたくなる。
「そういえば、最初の時に一緒にいた・・彩夜って子はどうしてる?」
「家に帰った。多分、また来るけど、いつ会えるかわからない」
今まで何度かここに遊びに来ているけれど、彩夜の話題が出たのは今日が初めてだった。
「あの子も色々素質あるね。それに、かなり特殊。誰かに、こう・・ぐるぐる巻にして抑えられてる感じもするし」
能力に関する独特な表現は説明されてもイマイチピンと来ない。
「見つけやすいように?何か印がつけてある気がするんだ。あれがあれば人外はすぐにあの子がいるのを分かる」
「目立っちゃうってこと? それって良いけど悪くない?」
「逆に結理には何も付いてないし、隠すような何かが付いているような気がする」
奏さんが勝手にやっていることだろう。
何のつもりで人に色々やってくれているのか。無害ならば良いけれど、有害になるようなことはやめて欲しい。
「なにー? 私のこと呼んだ?」
にゅっとどこからかお面の顔を出す奏さん。見慣れているけれど、この登場の仕方には慣れない。
「呼んでない。それに勝手に入って来ないで」
「え? 結理、もしかして反抗期? この間まであんなに小さくて可愛かったのに、お姉さん悲しい!」
芝居がかった動きも、その言葉も色々煩い。
「出てって。ここ人の家だから」
「私だって、用事があって来たのになー」
「じゃあ、さっさとその用事済ませて帰って」
ここには息抜きに来ているのに奏さんが来ては意味がない。
「ふーん。じゃあ、君は昔いた所に帰るつもりはあるの?」
「・・・奏さんもそれ聞く? 昔からおれのこと知ってたの?」
確か、村に馴染めない頃に森でばったり出会ったのが初め。その時に奏さんは昔会ったことがあると言っていた。年齢を教えてくれたのも、奏さん。
「知ってたよ? こう見えても私、とっても長生きだからね。あの村に君を連れて行ったのも私。今まで悪くない暮らしだったでしょ」
「どうしてこの村?」
良い暮らしとは言えなくても、悪いものではなかった。あのまま生活していたよりも良かったとは思う。
「だって、あそこは窮屈すぎるでしょう? 君には広い世界を見て、色んな可能性を感じて欲しかったの。でも、思ったよりも窮屈でしょう? 滅多に他の人と関わろうとしないしねー」
つんっと額を細い指先で押される。
「悪い?」
「せっかくだから、あちらに取り込まれる前に色々な見方をできるようになって欲しいなーって。だからーーーーーー。ね? どう?」
「行く」
勢いで返事をしてしまったけれどどうしよう? 色々考えてしまうと不安が次から次へと湧いてくる。
「そんなクヨクヨしてたらカッコ悪いよ! 男の子なら一度決めたことは、女の子を見習って腹を括ること」
「女の子を見習うの?」
「そう。そんなのだから男はいざって時に頼りにならないって言われるんだよ。ねー、響紀くん」
急に話を振られた響紀はああ・・とおれと奏さんを見比べる。
「それはそうだと思います」
「じゃあ、結理は借りていくから。戻ってきたらまた可愛がってあげて?」
どこにそんな力があるのか分からないが女性らしい細腕で肩をしっかりと掴まれる。
「もちろんです」
やうやうしく響紀は頭を下げる。奏さんは有名な人なのだろうか?
「響紀さん、奏さんと知り合い?」
「すごく有名な人。君の裏にこの方が付いているなら、まあ・・納得だよ」
詳しくは教えてくれないらしい。二人とも笑みを張り付けているだけ。どちらもとても人外らしい。
「行ってらっしゃい」
「・・行ってきます」
手を振って見送られ、奏さんに連れられて、響紀さんの家を後にした。
「どこまで行くの?」
「こっちだよ」
目の前は深い霧の中。どこか近くに川があるのか水の音も聞こえる。
水が肌に張り付くような感覚に包まれながら、二人は霧の中に吸い込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます