第21話 幼い夢7

「お邪魔しました」


靴を履いて外へ出てから結と並んでぺこりと頭を下げる。


「何か用事があったんじゃなかったの?」


もう帰るの?と響紀さんは不思議そうに首を傾げる。


「会ってきて、みたいなことを言われただけだったので。結、だよね?」


「目的はさっぱりわからないけれど、これで良いんじゃない?」


結もそう言ってくれるので頷いておく。今だに奏山さんの目的はわからないけれど、目的は達成されたのだから良いだろう。


「なら良いけど。また遊びにおいで。お茶くらいなら用意しておく」


「はい。楽しみにしています」


響紀さん良い人だし、会話しやすい。それにここは落ち着く。


「気をつけて。道中は危険なところもあるからね」


「はーい」


「次はお土産持ってきます。あ、お使いならよく行くので町で調達してほしいものがあったら言ってくださいね」


「ありがとう」


手を振って別れた後、きた道を戻っていく。けれど、行きとは全く違う道のように見えた。


「結、楽しかったね」


「・・うん。楽しかった」


きっと照れてる。さっきから一向に顔を逸らして目を合わせようとしないから。


「また行こうか。彩夜も、居心地は良かったと思わない?」


「うん」


結は1人では無くなった。響紀にもいつでも会いに行ける。何なら一緒に暮らすことだって出来るだろう。

だから、何も心残り無くこれで安心して帰れる。良かった。きっとそう。


「彩夜? 嫌なことをあった?」


「ううん。奏さん帰る方法教えてくれるかなーって思ってただけ。不思議だよね」


見上げれば葉っぱの奥に空が見える。その空の色は現代と何も変わらない。


「彩夜は遠い未来から来たんでしょ?」


結のいつもとトーンの何も変わらない言葉に足が止まった。


「どうして知ってるの?」


そんなこと、一言も結には話していない。タイムスリップの概念の無いこの時代に思いつきもしないはず。


「知ってたんだ。彩夜のことも・・黙っててごめん」


結理のとても真面目な表情に足がすくむ。


「その・・首に下げてる石、それがここに来た原因なんだ。危ない時は、道が繋がる?とか奏さんが言ってて。帰る方法までは聞いてないから知らないんだけど」


木の根元の方を見ながら結理は淡々と話す。


「覚えてないかもしれないけど、彩夜は昔一回こっちに来たことがあるんだ。その・・覚えてないっぽかったから他人のふりをした」


「覚えてるよ! あのね、はっきりは覚えてないけど、ちゃんと覚えてる」


やっぱりその人だったとわかって嬉しいのと同時に、言いたかったことが吹き飛んで言葉が出てこなくてなった。


「その・・結」


「また会いに来てくれてありがとう」


また会おう。幼さゆえにその言葉の結にとっての重さなんて全くわからずに言った。


私と違って結はずっと覚えていた。3つも年上なのだから覚えていてもおかしく無い。けれど、何年も覚えているのは記憶に強く残っている記憶だけ。


結の笑顔に酷く胸が締め付けられる。


「ごめんなさい。あんな、簡単に言って良い言葉じゃなかった」


「ううん。同じ様な子が居るって思えただけで少し楽になった。それに、本当にまた会えた。すごく嬉しかった」


手を取られてぎゅっと握られる。


「彩夜がお兄さんとか、大事な人が沢山いるのは知ってる。けど、ごめん。奏さんが何のつもりか知らないけど離そうとするかもしれない」


「何の話?」


結はその先は教えてくれようとはしないけれど何処か悲しそうで真剣な表情に怖くなった。


「許して。・・俺にはどうにもできないから」


何が? そう尋ねようとしたけれど、その前にあの明るい声が聞こえてきた。


「お疲れー、どうだった? お話しして、思うことがあったりする?」


「良い人だなってくらいだけど? 奏さん的にはこれで良かった?」


結は先ほどまでの空気は何も無かったかの様に軽く振る舞う。


「ふーん。まあ、すごく間接的だし・・無理もない・・うん。これでいいよ! 道は繋げてあげる」


「奏さんが、私をここに連れてきたんですか?」


きっとそう。でも直接確認したくてそう尋ねる。


「そうだよ? びっくりした?」


「どうして、私なの?」


この容姿を除けば、平凡で、他の人と何も変わらない。


「特別だから。結理もだけどね。私達にとってはとても特別だから連れて来ちゃった」


妙な人に気に入られてしまったと思った。魅入られてしまったと言う方が正しいかもしれない。


仮面越しの瞳に見つめられれば、逃げれる気がしない。見えない鎖が付けられているように思えた。


「そう怖がらないでよ」


「彩夜に何させる気?」


「そんな人聞きの悪い言い方しないで欲しいなー。まだ、何もしないから安心して」


ふわふわと頭を撫でられる。その手はとても暖かくて優しい。

不思議と何も怖くはない。


「大丈夫。私が2人を必ず幸せにしてあげる」




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