第18話 幼い夢4
「ひっさしぶり!」
やたら明るい女の人の声。それが洞窟の中に反響する。
「!!」
「怖がらないでよ」
突然現れたことだけでなくて見た目でも驚いてしまい、つい結の後ろに隠れる。
「・・・・よく見て。変わった人だけどそんなに怖い人じゃないから」
確かにお面がとても怖いだけで他は普通だ。普通と言っても見た目だけで、どうして突然後ろに現れたのだろう?
瞬間移動? それとも気配を消して近づけるとか? 特殊能力?
「なんで後ろからくるの?」
目の前に現れたっていいと思う。わざわざ驚かせるのはやめてほしい。
「いつもそうだから」
「普通その円の中からじゃないの? 光ってでてくるとか、にゅって現れるとか?」
「??」
結は頭の上に?を飛ばしている。
現代の常識?は伝わらないか。そもそも日本には魔法があるはずがない。あれは西洋のものだ。これは魔法ではない別の何かなのだろう。
「私も話に入れてよー」
「今日は聞きたいことがあって」
するとお面のお姉さんは音もなく結に近づいて羽交い絞め?にして頭をくりくりとなでて始めた。お面のお姉さんの方が結よりも背が高いため抵抗しても逃げられないらしい。
「結理は大きくなったね。もうすぐ私より大きくなっちゃう?」
「いつもこんななんだ」
結は遠い目をしている。もう諦めているのだろう。
「はぁ、相変わらず彩夜ちゃんかわいい!」
どうしたらいいかわからない。ノリについていけない。
「彩夜が困ってるから、やめてくれ」
「結理も相変わらずだね」
一人でどんどん話を進めていく。
「でも可愛くなくなっちゃって・・・お姉さん悲しい」
「うるさい!」
「あの、私のこと、知ってるんですか?」
「もちろん! ずーっと昔から彩夜ちゃんのことも結理のことも知ってるよ。それで? なんの用なの? 私も忙しいんだから!」
「時々ふらっと出てきて喋っていくくせに! こっちだってすることは山のようにあるんだからな!」
結がこんな風な言葉を使うのはめずらしい。こっちが素なのかな?
「そうだ! 彩夜ちゃん、色々質問していいかな?」
結が止めようとしてくれるが、私の返事も待つことなく、お面のお姉さんは構わずに続ける。
「まず好きな色は?」
「青、深くて薄い綺麗な青」
頭にその色ははっきりと浮かぶけれど何の色だったのかも覚えていなければ、色の名前も知らない。私の語彙力ではこれくらいしか表現できない。
小さい頃からずっと変わらず好きな色。
その後も意図のよくわからない質問をいくつかされる。それにもただ思ったように返していった。
「じゃあ、最後。二人に聞きたいの。・・今幸せ?」
「多分、幸せ・・です」
この年齢でそんな質問をされた経験はない。考えたことも無かった。それが幸せなことなのかもしれない。
「結理くんは?」
「まあ、・・そうだとおもうけど」
「ならよかった」
年齢不詳で名前も知らない、怪しい要素しかないお姉さんだけれどその声は安心できる気がした。
「もう聞いていい? 彩夜はどうしたら帰れる?」
「それはね・・・教えられない。企業秘密ってやつなの」
この時代にも企業って言葉があるの?
「どうして?」
「ま、大人の事情かな?」
大人の事情って面倒くさい。子供からすれば大人の事情なんて知ったことではない。
「帰れるのか?」
「帰れるよ。んー、そうだ! 私のお願い聞いてくれたら帰してあげる」
なんで帰る方法を知ってるの? 私が帰るのは未来なのに。
「安心して。帰っても彩夜ちゃんさえ望めばまた来れるよ」
「そうなんですか?」
「うん。二人ともホッとした?」
帰ってそれでお別れじゃない。結とまた会える、この時間を続けられる。
それが分かれば安心して帰る方法を探すことができる。
「それで? お願いを聞いたら帰れるようになるんだろう。なにを聞けばいい?」
「とりあえず私についてきてくれる? こっちだよ」
お姉さんは袖を揺らして、僅かに明るい外へ進んでいく。あたりは霧が立ち込めていて肌が湿気る。
鮮やかな着物姿で霧の中を軽く進んでいくお姉さんの姿はとても幻想的に見える。現実でないような夢の中に迷い込んだように感じた。
まだまだ上に登るのだろうか? そろそろ疲れてきた。だんだんと進むのは草をかき分けながらになり、高い木と草だらけの薄暗い不気味なところになっていく。
「あの、聞いてもいいですか?」
前を軽い身のこなしですすんでいくお姉さんに声をかけた。
「・・人間、ではないですよね」
「さすが彩夜ちゃん。そうだよ。私は人じゃない」
人ではないのはすぐに気づいていた。でも何なのかまでは見分けられない。ただ、悪いものでないことはわかる。
「特別に私の名前教えてあげる」
「いいんですか?」
人外にはそもそも名前が無かったり、個人情報を漏らさないようにと名乗る物はほとんどいない。
「うん。私は
かなで。奏。奏さん。何度か心の中で繰り返す。
忘れたら次は教えてくれるかわからない。
「二人とも見えるあやかしと見えないあやかしの違いわかる?」
結と顔を見合わせてから、二人で首をかしげる。
「せっかくだから、教えてあげよう! 違いは強さなの」
考えたことが無かった。人と同じように見える景色の中に当たり前のように存在していたから。
「普通の考え方だと弱いと見えない。けど、子供には見えたりするでしょ?」
見えないのに見える? どういうこと? これからすることとなにか関係があるのだろうか?
「つまり・・・見つからないようにしようとしてもできないっていうか・・・・」
「なんで子供には見えるんですか?」
「子供はよーく色々なものを見てるからかな? 虹とか虫、大人は見逃すけれど子どもはよく見つけるでしょ?」
はっきりとは理解できないけれど、なんとなく言いたいことが分かったかもしれない。
「次、見えるやつね」
「見えるくらいになると少し強いの。人は負ける、くらいかな? 考え的には存在感のある人って感じ」
存在感のある人はどうしても目が行く。
「けど、さっきと同じで自分で見えないようにはできないの」
ということは・・・・・自分で見えないようにできる人もいるってこと?
「そう。さすが彩夜ちゃん。優秀だね」
言葉にしてないのにどうして思っていることがわかるんだろう?
「それはね、私がすごいから!」
心を読んでいる? 確かにすごい能力だと思うけれど、私は欲しいとは思わない。
「なにを一人で言ってるんだ?」
「最後、自分で見えないようにできる者達ね」
奏さんは完璧に結を無視して続けた。
「その人達は、そのままなら誰にでも見えるの。けど、同じあやかしにも見えないようにすることだってできるし、人間のように化けることだってできる」
それってとてもすごいことなのでは?
「だからこそ気をつけないといけないの。それだけできるってことはすごく強いんだー。私の知り合いで一番強いのは・・・琵琶湖作れちゃうくらいかな?」
! 琵琶湖って地形変えれるくらいってこと? それだけ大きいのか、力持ちなのか。
「びわこ? なにそれ?」
結が不思議そうにつぶやいた。交通手段は徒歩か馬くらいであろうこの時代に遠い琵琶湖のことなんか聞くこともないのかもしれない。私だって映像や写真でしか見たことが無い。
「湖だよ」
「みずうみ?」
この辺りには湖が無い。考えてみれば私も生で見たことはない気がする。
「結、とっても大きい池?みたいなやつのことなの。えっと・・琵琶湖のそばに住む人はそれを海だって思ってるんだって」
そこで海水浴ならぬ湖水浴もできるんだとか。テレビでやっていた。べたべたしなくて海よりも快適そうに思える。
「え! 海みたいなのが陸の中に?!」
「そうなんだって」
結が驚くのも無理もないだろう。
「私が言いたいのは、そんな化け物な能力をもってるのもたくさんいるから、とにかく気をつけてねってこと」
ならば、今まであったことのあるあやかしは弱い方ってこと?
あれより怖いのがいるなんて・・・・
「ついたよ。ここなの」
「ここは?」
「それでは、お願いを発表します!」
また質問には答えてくれない。一人だけずっとテンションの高い奏さん。年齢は若いのかな?
「二人で、この前村を襲ったあやかしとお話しきてほしいの」
ここまで来て、奏さんにたとえ見えなくても良い笑顔なのが伝わる声で言われれば、『怖いです』『無理です』など言えるはずもなかった。
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