第16話 幼い夢2


パチパチと枝の燃える音がする。それと煙の匂い。それに混じる美味しい香り。


目を開けると眠る前よりも部屋がずっと暗いことに気づいた。もしかしたら思ったより長く眠っていたのかもしれない。


ゆっくり起き上がると濡れた布がポタリと膝に降ってきた。額に乗せられていたらしい。


「彩夜、どう? 具合は」


なべの中をかき混ぜながら結が目だけでこちらを見て聞いてきた。


「あ・・・・多分大丈夫」


結の手が私の額に触れる。もうぼーっとするあの感覚もなければ頭も痛くない。


「うん。熱下がってる。よかったー」


「これ、乗っけてくれたんだ。ありがとう」


「うん」


周りを見ると布が広がっていた。昨日買ったものだ。


「もう縫ってるの?」


「うん。まだこれだけしか出来てないけど・・・」


ただの布だった物が服とわかる程度にはくっついている。私には十分速いように見える。


「彩夜、悪い夢でも見た?」


「悪くはないよ」


だけど寂しかった。未来への希望と不安、寂しさが混ざってぐちゃぐちゃだった。あの人に笑って見せるのが苦しかった。本当は泣きたかった。


 あれは夢なの? あれは本当にあったこと?


 一人は私だった。それはわかる。けれどもう一人は誰なのだろう。


 顔は見えなかった。名前もわからない。どうしたら・・・



      あの人に会えるの?



 「彩夜? どうした?」


 「なんでもない」


 また隠してしまった。話してしまえばいいのに。


 「結、お腹すいた」


 こうやってまた話をそらす。無かったことにしようとする。


 「作っといたよ。今日なにも食べてないから結構お腹すいたんじゃない?」


 「うん」


 そして夜にあーすればよかった、こうすればよかったと思うことになる。後悔してもどうしようも無いのに。


 「いい匂い。美味しそう」


 「ほら、水。水分はとらないと」


 「ありがとう」


 わかっているのに一歩踏み出せない。


      それが嫌いだ


 「結」


 「ん?」


 「あとで着物の作り方教えてくれる?」


 自分の分は自分で縫わなくてはいけない。洋服とは作り方も違うだろう。


 「もちろん。でも桜に聞いた方がいいかも。おれはあんまり上手じゃないから」


 「そうなんだ」


 そういえばどうして最近あんな夢ばかり見るのだろう。忘れていたはずの随分幼い頃の夢。あれが現実にあったことなのかどうかも覚えていない。


 「彩夜、・・明日から帰る方法を探そう」


 「え、・・うん。ありがとう」


 「一つ思い出したことがあって、確かかはわからないけど可能性はあると思う」


 「そうなんだ」


 内側にもやもやしたものが溜まってくる気がした。表には出さないように笑顔を作る。


 「どうかした?」


 「すぐに帰る方法見つかったら、これ着れないなって思っただけ」


 せっかくたくさん山菜を売って買ったのにできる前に帰ることになってしまうのかな?


 「いつでもまた来ればいいじゃん。おれはここにいるし」


 「そう、だね。うん」


 どうしてこんなに嬉しくないのだろう。はやく家族に会いたかったはずなのに。


     帰れるかもしれないのに。


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