第15話 幼い夢1

  

「・・・おはよう」


目を覚ますと結がそこにいてなぜか心配そうな顔で私を見ていた。


「どうしたの?」


なんかぼぅっとする。それに暑い、頭が痛い。


「おはよう。大丈夫か? もう昼だけど」


また遅くまで寝ていたらしい。迷惑かけちゃう。早く起きないと。


「あれっ?」


おきあがったけれどクラっとしてそのまま布団に倒れてしまった。なんかきつい。


「顔赤くなってる。・・・おでこさわっていい?」


「うん」


結の手が冷たくて気持ちいい。


「やっぱり熱がある。今日は寝てて」


「でも」


「病人はおとなしく寝とく。いいな?」


「はーい」


昨日あんなに雨に濡れたからだろうか? お風呂の無いこの時代ではその後に温まることもできなかった。それで冷えたのかもしれない。


「ご飯はどうする? 食べる?」


「お腹すいた」


けれど頭がガンガンと痛む。起き上がれるだろうか?

 

「なら熱もすぐ下がるかな。彩夜、少し外に行ってくるからおとなしく待ってて」


「すぐ帰ってくる?」


「うん。ちょっと材料採ってくるだけだから」

 

「わかった。いってらっしゃい」


一人になった途端さみしくなった。


結のいないこの家はとても広く見える。布団を2枚しか敷けない小さな家なのに。


早く帰ってきて欲しい。


けれど、こういう時間はとても長く感じるもので気分的にはもう何十分も経っている。本当はまだ1・2分くらいしか経っていないのだろう。


だんだん怖くなってきた。


室内がとても広く見えて、とても広い空間にたった一人でポツンといるような感覚になる。


熱いのに寒くて、怖くて布団の中に潜り込んだ。怖いから結が帰ってくるまで眠ってしまおう。




      • • •




しとしとと雨が降っている中、

洞窟のような暗いところで金色の髪の幼い女の子が眠っている。その顔は赤く苦しそうに歪んでいる。


そこへ青い髪の幼い男の子が走ってきた。雨に濡れて、時々足を滑らせ転びそうになりながら。


「ーー」


男の子は女の子の顔を覗き込んだ後、静かに女の子の額の濡れた布を取り替えた。

するとほんの少し動いて目を開けた。


「ーー」


男の子はほっとしたような顔を浮かべ、女の子は少し微笑んだ後また顔を歪めぽろぽろと涙をこぼし始めた。


「ーー、いたい」


「くすりもらってくる」


「いや、いかないで」


女の子は男の子の袖を掴んで余計に涙をこぼした。


「いかないで・・・ここにいて」


男の子はそこから離れることができなくて、すぐそばに座りそっと女の子の手を握った。




    ・  ・



 

ザーザーと雨が降っている。雨がカーテンのようになって遠いところは見えない。


洞窟には男の子と女の子がいて彼女の顔色が少し良くなっていた。


「ーーー・・・もうすぐおわかれなんだって」


「じゃあ、お兄ちゃんに会える?」


「・・・うん」


「ーー、どうしたの?」


嬉しそうな少女とは反対に少年は暗い顔をしていた。


「かえりたくない」


「どうして? かぞくがまってないの?」


「いえにはだれもいないよ。・・・ひとりでくらしているから」


「おともだちは?」


「いるわけないじゃん。・・・へんなみためしてるのに」


男の子はまん丸な目を潤ませ、膝を抱えて小さく座っていた。


「こんなみためはいやだ、みんなとちがう」


「とおいところにはいろいろなみための人がいるんだって。だからせかいならこれもふつうってお兄ちゃんがいってた」


「そうなの?」


「うん。ーーたちみたいな人もせかいのどこかにはいっぱいいるよ」


そう言った女の子はゆっくりと起き上がり、男の子の顔に顔を近づけた。


「ーーのめ、とってもきれいだよ」


「みんな、ちのいろみたいだって・・」


「ちがうよ。きれいなあかだもん。んー、なにににてるかな?」


女の子は首を傾げつつくるくると目を動かして赤い物の名前を上げていく。


「りんごじゃないし、もっとむらさきよりの・・なんかちがう?」


「ーーだってね、おつきさまみたいな色のかみと、めもふかい川みたいないろ、とってもきれい」


男の子は目を擦ってからそう言って笑った。


「ありがとう。ねえーーたちもうあえないの?」


「わからない」


今までは明るい表情だった女の子も表情を曇らせた。


「ひとりはさみしい」


「おおきくなったら・・じゆうにできるかな?」


まだちいさいから遠いところは行ったらダメって言われるの、と女の子は続けた。


「すぐおおきくなるから、そしたらあいにくるね」


「ーーもあいにいく。ひとりでとおくまでいけるようになる」


「ーーはいま5さいだから、10さいはおおきいに入るよね?」


女の子は指を折って数えながらそういった。


「5ねんご?」


「うん!」


「そんなのずっとさきだよ」


「じゃあお兄ちゃんとくるね。でも、お兄ちゃんダメっていうかもしれないから・・ーーもきてね。ーーのほうがはやくおおきくなるでしょ」


子供同士の幼い約束。小さな手を近づけて2人はとても短い小指を絡めた。


「わかった。どれくらい先かわからないけどーーのこと覚えておいてくれる?」


男の子がそう聞けば女の子は自信なさげな顔をした。


「うん。・・・たぶん、あっ! ーー、これもってて」


「なにこれ? きれいな石だね」


「おおきくなったらみためがかわってるかもしれないから・・・そしたらおぼえててもわからないもん」


「・・なら・・・ーーにはこれあげる」


それぞれ、交換した石を手に大事そうに握った。


「ありがとう」


「ーーもーーのこと忘れないから、これはそのやくそくのしるし・・・・またあおうね」


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