第14話 帰り道2


「なんか暗くなってきたね」


休憩が長引いてしまい、そろそろ帰ろうかと空を見上げたらさっきまでとは様子が変わっていた。


「雨が降り出す前に着くか?」


木の間から見える空はどんよりと曇っている。朝は光が差し込みきらきらしていた森が今は薄暗い。


「あとどれくらいで家に着くの?」


「ここが半分くらいだから・・・一時間?」


「ねぇ、あの町までどうやったら一時間で着くの?」


時計がないから正確にはわからないけれど多分二時間はかかった。慣れている人だって一時間半はかかりそうなのに結は一時間で着くと言っていた。


「走って行けば一時間もかからない」


「えっ? この距離を?」


「そうだけど?」


「ずっと?」


「うん。歩いていく暇ないから」


それが何か?という様に結は言った。買った荷物を抱えて、どうしてその時間でたどり着いてしまうのだろう? 一体どれだけ体力あるんだろう?


「・・・すごいね」


私にはとても無理だ。


「そうかな?」


そういえば、今で言う郵便を運ぶ様な人は飛脚と呼ばれとても足が早かったと聞いたことがある気がする。文明の力に頼っている現代人はひ弱なのかもしれない。


「!」


後ろに何かの気配を感じ振り返る。


「彩夜、どうした?」


「いや・・・」


後ろには見ても何もいなかった。何かの気配はあったのに。


「なんでもない。大丈夫」


そうだ。大丈夫。何もいないはず。動物なんていないはず。


ガサッ、ガサガサッ


「ひぃっ!!」


横の茂みが揺れている。きっと風で揺れてるんだ。きっと風のせい。そう思いたいけれどこの揺れ方は違う気がして・・


「彩夜」


「!」


つい結の声にまで驚いてしまった。

 

「音が怖い?」


「うん、それになんか見られてる気するし」


どこからか視線を感じる。鋭い視線、それがいくつもあるような・・


「うん。見てる見てる」


はずんだ声で結は言った。ただの笑顔だけれどどこか面白がっている様な・・。


「! やっぱりいるの? え!」


なぜか結は手を茂みの中に突っ込んだ。そのまま腕をガサガサと動かして・・


「あー、いたいた」


「?・・・何が?」


「これ」


茂みから結は手を抜いた。 ?


その手にはなんか 細長い 白っぽい? 紐かな? なんか動いてる? ちゃんと目があってそれが私を・・あれ、この模様は・・。


「きゃー!」


思わず逃げて近くの木の裏に隠れた。


「彩夜、木はこれがたくさんいるけど?」


頭の上の葉でなんかガサガサ・・見上げると、白い紐がぶら下がり・・その紐の先には2つ光るものが・・・


「ぎゃー!!」


走って逃げる。そして結の背にピタッとくっついた。結ならば植物では無いからあれがいるはずがない。


「あの・・・彩夜?」


「・・・なに?」


「そんなに蛇が怖い?」


何度もコクコクと頷く。


「おれも今手に持ってるんだけど」


「それは大丈夫」


私が怖がっているのはその見られる感覚と突然現れるところ。そしてこっちに向かってくることだ。

 

その蛇は結が持っているからこっちにくる事はないし私から見えているから怖くない。


もちろん苦手だけど。


「蛇なんて山の中・・いや、山じゃなくてもどこでもいるけど」

 

そんなの知っている。現代でだって家や学校の庭にいた。けれど苦手だから仕方ない。


「なんで蛇掴めるの? 毒蛇もいるじゃん」


「これは大丈夫なほう。毒蛇と安全な蛇は頭の形が違うんだ」


確かにそんな話どこかで聞いたことがある気がする。


「早くその蛇ポイってして!」


「はいはい」


ヘビさんはリリースされてニョロニョロと茂みの中へ戻っていった。


「ほら、早く帰らないと。雨に濡れたくないだろ」


「うん」


「その・・・だから・・離れてほしい」


すっかり結にくっついたままだったことを忘れていた。


「つい」


「あんまりくっ付いたらダメだからな。おれはともかく他のやつには・・・いや、おれにだってよくないけど・・・・・言ってもできないだろうし・・・」


途中から独り言のようになってぶつぶつ言っている。


全体的に言っていることはくっ付いたらダメってことかな?


「それくらいわかってるよ」


「わかってないからするんだろ」


「ほら・・・・危ない!とか思うと安全なところに逃げようとするでしょ。あれと一緒なの。勝手にそうなっちゃうの」


無意識なのだからどうしようもない。


「・・・出来るだけくっつかないように! 特に他のやつには絶対ダメだ!」


「大丈夫だよ。私大体の人苦手だから」


元々人見知りが激しい。初めて会って自分から話しかけるなんてほとんどない。向こうから話しかけられない限り仲良くならない。近づかない。私の苦手はそういう意味だ。


「あれっ?」


「?」


なぜか手が濡れている。さらに上から水が落ちてきた。


「あ・・」


見上げるとポツポツと雨が・・・・・・


「あー、降ってきたね」


小降りどころではない。本格的に降っている。


「まだ半分・・一時間はかかるか。走って帰れる距離じゃないしな」


今から急いで帰ったってどうせ濡れる。


「なんか楽しいね! こんなに濡れることもないから」

 

「濡れるのが楽しい? 洗濯が大変じゃない?」


「楽しいよ。たまには良くない?」


「・・たまにはいっか」


妙なテンションになっていたのかもしれない。幼い子供のように雨にはしゃぎながら家までの道を歩いた。

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