第13話 帰り道
「早く帰らないと」
なんだかんだ遅くなって多分午後1時にはなっているらしい。
時計がないから不便だ。結は時計がなくてもある程度の時間はわかるらしいけど私にはわからない。
行きに通った鳥の声がたくさん聞こえる山道を進んでいく。
「彩夜、大丈夫か?」
「少し疲れた」
私も少しは成長した。心配される時はだいたい顔に出ているらしい。だから隠さず言うようにした。
「休む?」
まだ家まで1時間以上かかるだろう。そこまで休憩なしに歩くなんて私にはできない。もちろん帰り道も山道だ。何も動物とかと遭遇しないといいけれど。
「もう少し行ったところにいいとこあるからそこで休もうか」
「うん」
ここは山道だし靴も服も違う。そして荷物が重い。現代の鋪装されている道がどれほど歩きやすかったのか身をもって実感していた。
「雨降り出す前に着くかな?」
「?」
生い茂る木の間からチラチラ見える空は雲は少しあるものの晴れている。
「どうしてわかるの?」
「なんとなく」
なんとなくって何? そういえば、朝にも雨がなんとかと言っていた気がする。
続きを話してくれないところを見ると教えてくれる気はないらしい。まあいいか。
「そういえば最初の店で姫とか妃の話があったけどこの辺にもいるの?」
「山をいくつか越えたところにいるらしい」
現代にも残るお城がそのあたりにあった気がする。それは戦国時代のものだけれどこの時代にもあったのかな?
「そこにはお城があって王様がいるんだって」
王様? なんか言い方が外国っぽい。
「その人がこの国を治めてるんだ」
国? 日本のこと? 日本を治めてるのってこの時代、天皇か幕府の方かはわからないけどどっちもこの辺にはいない。
「えっと・・・この国ってなんて言うの?」
「藍(あい)」
結は枝を拾い、地面に字を書いて見せてくれた。
日本じゃない。現代で言う県のことも国って言うのかな? でもそうだとして、そこを治めてる人を王様って言うのかな?
「・・・日本は?」
「あー。それが複雑で・・ここも一応日本なんだけど」
一応? 複雑というのも気になるところだ。
「ほら。日本の端っこだし、都から遠いからとか色々な理由でほぼ独立状態なんだ。この辺の国々はほとんどそう」
この辺の国々ということは、いくつか同じ様に独立状態の国があるということだろう。なんか学校で習った歴史とは違う。ここは過去じゃないの? 違うように現代に伝わっているとか?
「なんか・・・・難しい」
「本当に面倒なんだよなー」
結は物知りらしい。ちゃんと歴史を習っている私よりもたくさんのことを知っている気がする。
「藍、植物の藍の字なんだ」
変わってる。国の名前ってこんなものなのかな?
「王の一族、王家の名字が
「他にはどんな国があるの?」
「えっと・・・
「どこの国も葉の付く人が治めてるんだね」
家の始まりが一緒だったりするのだろうか? それとも別の理由?
「なんでだろう? 今はどこの国とも交流がないけど・・・それもいつまで続くか」
「ないほうがいいの?」
「戦になったら困るから?らしいよ。困ってないならわざわざご近所付き合いなんて面倒臭いってことじゃない?」
関わる人が増えるほどトラブルは増えていくものだ。学校くらいの社会しか知らない私でもそれくらいなんとなく感じている。
「ねえ、王族がいるなら貴族もいるの?」
「うん。20家くらいあって中でも権力があるのが十貴族と呼ばれる人たち。この辺まとめてるのは上から十番目にえらい貴族だったかな?」
「順番とかあるんだね」
身分社会はめんどくさそうだ。
「えっと・・・1から10までの数字が家名に入っているのが十貴族。数字が小さいほど位が高い家なんだ」
「うん。なんとなく・・多分わかった」
身分の話は難しい。社会で少し習った気もするけど小学校程度だ。中学校にはまだ通っていないし、歴史は二年生にならないと習わない。
「えっと・・・私たちは身分のピラミッドの一番下ってことだよね?」
「ぴらみっどって?」
「あー・・三角形?・・の底辺て事?」
つい言ってしまった。あれ外国の物だった。ここにきて実感するのが日常にあるカタカナ語の多さだ。
「そう。だから上の人には逆らえない。おれなんてきっと三角の天辺の人からすれば虫とも変わらない。多分・・今ここにいるのは桜のおかげかな?」
子供が1人で生活なんてできるはずは無い。12歳の私だってそうなのだから。ならば結にとって桜さんは・・。
「あっ、あれだよ。良い場所」
「?・・あっ、そうだったね」
話に夢中で忘れていた。そうだった。良いところがあるからそこで休憩しようっていう話だったんだ。
「どうかな?」
そこは少し開けた場所で中心に大きな木がありその周りにはたくさんの花が咲いている。良い天気で風もちょうどいいくらいに吹いていて葉を揺らしている。葉は光できらきらしていて空気が美味しい。
まるで絵本の1ページだ。
「こんなところあるんだね」
「桜とか友梨も気に入ってるんだ」
綺麗・・というか・・なんというか・・・とにかくなんかすごい! 私の語彙力では表せないけれどとにかくすごい。
「一緒に来てた時はいつもここに寄り道してた」
「わかる。なんか良いもん」
大きな花は咲いていないけれど小さな野花がたくさん咲いている。荷物を置いて地面の方へ駆け出した。
「私ね、大きな花も綺麗だとは思うけどこういう小さな可愛い花のほうが好きなんだー」
結はぼーっとしているのかこっちを見ているのに返事がない。
「結?」
「・・水筒が空になったから水を汲んでくる。すぐ戻るから」
くるっと背を向けて走っていった結の耳が赤くなってのに花に夢中になっていた私は気づかなかった。
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