第12話 町2

「まあ、ただの噂だ。変わった見た目の奴を色持ちって呼んで重宝されてる地区もある。将来はそんな場所に住むのもありなんじゃないか?」


おじさんは作業しながらそんなことを言った。場所によって見られ方が変わると言うことだろうか?


「都会の方が目は優しいと思うぞ。珍しがられることには変わらないけどな」

 

「いつかはあの村も出て行こうと思ってるからそれもいいかもな。あ、おじさん、今年は安くなりそう?」


次は何の話だろう? 主語が無いから私にはさっぱりわからないけれどおじさんが悩んでいるところを見ると通じているのだろう。


「今のところは安くなりそうだけど・・夏に台風でやられる可能性もあるからな」


台風? 天気と値段になんの関係が?


私が首を傾げていることに気づいて結が教えてくれた。


「彩夜、物価かな・・えっと、米とかの値段の話だよ。台風で米がだめになると高くなるから」


お金のことってことかな? こう言う話は難しい。よくわからない。


「変わってるな。金髪」


 金髪? 私のこと?


「そうですか?」


「世間知らずみたいだし、その見た目」


世間知らずは認めよう。でも見た目は何かおかしいかな? 髪と瞳のことでは無いだろう。着物は朝から結に確認してもらった。それに友梨さんに教えてもらったように着たよ。


「まず、色が白い。毎日外に出てたらそうはならない。あと手。普通はどっかに傷のあとくらいある。仕事をしている手じゃない」


「確かに」


自分の手と結の手を見比べる。私は外は好きでは無いからあまり日に焼けてない。結もそこまで焼けているわけではないけれどそれよりも私の方が白い。


「姫たちの手みたいだ」


「姫?」


「姫はそんなに外に出ないから色が白いし、部屋にいるだけだから怪我もしない」


現代の生活はこの時代のお姫様並みと言うことだろうか?


「もうその話はいいから、早くお金ちょうだい」


「はいはい」


おじさんは重そうな小さな袋をポイっと結に投げた。

なんかいっぱい入っていそう。まさか全部お金?


「これだけあれば足りるかな。おじさん、塩ある?」


「一袋でいいか?」


「うん。これに入れて」


結は持ってきていた容器に塩を入れてもらう。この時代の買い物はそういう仕組みらしい。


「少しおまけしとくよ」


「ありがとう」


「・・・おじさんはいい人ですよね?」


怖いのは見た目だけの人な気がする。結とおじさんのやりとりと見ていてそう思った。


「そうか? でも俺は悪い人だ」


おじさんはふわっと笑った。

悪い人はこんな顔はしない気がする、それにこんな風に自分を悪い人だって言わない。


「私はいい人だと思いますよ」


「俺は罪人だ」


「?」


罪人、それは

悪いことをした人のことだろう。そうは見えないけれど、昔に悪いことをしたのだろうか?


「優しそうに見えて悪い奴も世の中山ほどいるからな。青髪、気をつけろよ」


「わかってる。彩夜、他に回るところもある。行こう」


「うん」


さっきのように髪が見えてしまわないように髪を綺麗に結び直す。


「結、これでいいかな?」


「うん。見えそうになったら言うから」


「ありがとう」


軽くなったかごを背負う。


「じゃあ、また」


「あぁ」


私も一応頭をペコっと下げてから店を後にした。


「結、おじさん何者?」


「さぁ、何でも知ってるし噂も色々と聞くけど。・・実際のところどうなのかは知らないんだよな」


唯一わかることはあの店は始めて十年も経っていないことだけ、と結は続けた。それがどういうことなのか、こちらの事情に疎い私にはわからなかった。




       • • •




「はぁー、青髪また大きくなってたな」


2人が並んで歩いて行く姿を見ていたらため息を一緒に言葉がこぼれた。


昔はあんなに小さかったのに。子供は少し見ないとすごく成長していて驚かされる。今日なんて金髪の娘を連れていた。


少しからかってみたが、あの否定の仕方だと本当にそういう関係ではないんだろう。でも今まであいつが一緒に来ていた桜とか友梨とか言うやつとは接し方が違う気がする。


これはもしや・・・本人が自分の気持ちに気づいていないだけでは? そうなったら面白い。


金髪の娘にその気があるかはわからないけれど青髪を信頼しているようには見えたから可能性はあるだろう。


それに2人はとてもお似合いだった。


「さっきの子にいつもおまけしてますよね。何か理由でもあるんですか?」


話しかけてくるのは色々と首を突っ込んでくるめんどくさい部下だ。


「あいつが幼い頃から知ってるからな」


「でもその小さい頃からおまけしてるじゃないですか」


この部下にはその理由がわからないだろう。若いこの部下はそれくらいの時にまだ子供だった。


「そう言う意味じゃないんだよ」


「ならどういう意味ですか?」

 

「さぁ」


こいつは意味なんか知らなくていい。世の中知らなくていいこともある。


「教えてくださいよ」


めんどくさい。適当にあしらっておこう。


「あいつは将来偉くなるかもしれないからよくしてた方がいいんだよ」

 

「さすが。わかるんですね」


あいつの歳を思い出す。確か今年で16歳だったはずだ。もう成人してていい年齢。


「おい」


「はい。何ですか?」


「また仕事を頼む」


その仕事は裏の仕事。


「わかりました。任せてください」

 


     • • •



「彩夜、こっち」


連れて行かれた通りはさっきよりも人が多い。ぶつかりそう。


「結、どこまで行くの?」


「もう少し。そこの店」


どの店にも看板が無いから商品を見るまでなんの店なのかはわからない。


「何屋さん?」


なんか生地がいっぱいある。生地屋さん? 服屋さん?


「彩夜、どれが良い? この中から選んで」


「私が好きなの選んでいいの?」


「うん」


目の前に布の山があるからこの中からって言うことだろう。どうしよう? 色が色々あるし、模様も色々ある。


「えっと、これかな? これもいいなー。どうかな・・あっ、これも可愛い」


「これは?」


「良い。んー、どうしよう?」


あれこれ悩んだ結果・・・


「これ」


シンプルだけれど可愛さもある物を選んだ。


「きっと似合うよ。・・じゃあこれを」


結は店の人に声をかけその布を買っていた。


「?」


「さすがにずっと桜と友梨の服を借りるわけにはいかないだろ」


これで服を作るということらしい。


「でも」


これだけ色々してもらっているのに買ってもらうのは・・・ずっと友梨の服を借りっぱなしなのもどうしようかと思っていたけれど。


「ここのは安いし、彩夜の稼ぎだから」


「そうなの?」


「彩夜が見つけた薬草分で十分買える。だから気にしなくていいよ」


「うん。・・・ありがとう」


「あっ、これも追加で」


「2つか・・・一つおまけするよ」


「ならこれを」


結はお金をお店の人に渡して、結果3つになった布をもらった。


「結、これは?」


聞いたのは2つ目の布のこと。


「もう小さくなってきたんだ。これ。」


今着ている服を結は見せる。確かに少し袖が短いような?


「自分で縫うの?」


「もちろん。彩夜はできる?」


「少しは」


裁縫自体はできるけれど着物を縫うなんてできるかな? ミシンなんてないだろうし手縫で着物一つなんてとても時間がかかるだろう。


「なら帰ったらしようか」


「あとは帰るだけ?」


「あと2件。桜にお使い頼まれたんだ。最近はついでにお願いって・・ちょっと分けてくれるからまあいいけど。重いものも買わないと行けないから布持っててくれない?」


「それくらいいいよ」


私の背負っているカゴに布をポイポイと入れられる。重いものを運ぶのはきっと私には厳しい。だから代わりにできることはしよう。


「でも、私のかごにも荷物入れていいからね? そんなひ弱じゃないよ?」


「うん。じゃあ遠慮なく持ってもらおうか。桜がおれにおつかいさせるのって重いものばっかりだから」


「・・ほどほどにね?」


駄弁りながら次の店へ移動する。気づかないうちにゆっくりと空には雲が増えていっていた。




 

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