第10話 夕食2

立ち上る白い湯気。辺りに広がる良い香り。

 

「「いただきます」」


ご飯と汁物、それに採りたての川魚の塩焼き。シンプルなメニューだけれど、今日はたくさん山を歩いたからかより美味しく感じる。


「はぁー。温まる」


川で冷えてしまった体には中でも汁がとても美味しい。味付けは塩だけなのに深みのある味なのは。いろいろな山菜ときのこの出汁のおかげだろうか?


「彩夜、そんなに美味しい?」


「うん。いつもの何倍も美味しい」


もちろん現代のものとは全然味が違う。山菜がたっぷり入っているせいで特有の癖もある。けれどそれはそれで美味しい。


「明日、食べたいものってある?」


こっちでも作れそうなもので食べたいもの。和食なら作れるだろうか?


「お味噌汁!」


こっちにきてから食べていない。私の大好物なのに。


「お・・みそしる? ごめん、わからない」


もしかしてまだ味噌が無い時代なの? 味噌まで無いなんてそういえば塩以外の味付けのものをこっちで食べていない。


「味噌が無いなら醤油も無いよね・・」


塩だけの味付けでも結が料理上手だからか十分おいしい。でも麹の味は欲しくなるものだ。


「そんなに美味しい物なの?」


「うん! 椎茸の出汁に具の野菜から出た出汁。そして味噌。すごく美味しいの」


まだまだお味噌汁のいいところはある。特に好きな具はえのきと冬の大根。玉ねぎも入れると甘くなって美味しい。白菜が入っているのも好きだ。

 

「結、味噌って存在しないの?」


「名前は・・聞いたことある気がする。多分食べたことはない」


味噌は高級品とか? 作るのには手間がかかるからその可能性も十分ある気がする。この時代はまだ調味料の種類が少ないのかな? それなら料理のレパートリーが少ないのも納得だ。

 

「結には色々食べさせたいなー」


現代にはこことは違い色々な食べ物がたくさんある。ここにはそもそも材料が無い物も多い。野菜だっていつも見ていたものはここに来てからほとんど見ていない。だから難しいのかな?

 

帰れるかもわからないのにそんなことを言っている場合では無いけれど。


そういえばあのことを気になったまま、聞くことも思いを無くすこともできていない。私はこのままでいいのかな?


「彩夜、どうした?」


「あー、町ってどんなとこだろうなって思っただけ。私、目立つだろうし大丈夫かなって」


結局こうやってはぐらかしてしまうのだ。明日、出かけながら歩きながら考えよう。何かわかるかもしれない。考えがまとまるかもしれないし勇気も出るかもしれない。


「彩夜、一つあるとすれば・・」


「なに?」


やっぱり目立つからどう隠そうか?なんて話だろうか。


「明日はすぐ起きてほしいな」


それは・・・


「努力はします」


一つだけ今でも覚えていることがある。はっきりと。それは手の暖かさだった。あれは・・・現実。あの人は私の冷えた手を握ってくれた。







横を向いて彩夜をみる。


今日もすぐに眠ってしまったらしい。


彩夜があの時のことを覚えていたなんて。何となくそうかもしれないとはここ数日で思っていたけれどそれが確信に変わった。でもどうしようか?


彩夜はあの日のことをほとんど覚えていないと思う。いっそ無かったことにしてしまおうか?


でもそれはなにかダメな気がする。


それに今日、彩夜に『さみしく無いの』と聞かれ、『さみしくない』と答えた。


さみしく無い、そう思えているのは・・・・・。


そのうち彩夜が帰る方法も探さないといけない。


けれど探したくない。


ここ数日とても楽しい。


いつもやっていたことを二人でできる。ただいまと言う人がいる。


それだけで全然違う。


彩夜は兄のことを楽しそうに話す。


それを見ると早く帰してあげたいとも思う。


けれど、彩夜が帰ってももう一度・・また会えるだろうか?




あの時のようにちゃんと彩夜の手を離すことができるだろうか?


 


 

 

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