第3話 もう一つの世界2

 

なんだろう? 顔が熱い。熱気が・・ん? まあいいか。まだ眠い。


「彩夜! そこ・・」


誰かの声がする。うるさい。せっかく気持ちよく眠っているのに。


「彩夜芽、危ないから離れろ」


結に揺すられて仕方なく目を開けると目の前に火が・・。


「わあー!」


火から離れるようにして転がる。


どうりで熱いはずだ。火のすぐ前にいたのだから。


「・・・おはよう」


結理があきれた目で見てくる。でも寝ていたのだから仕方ない。


「おはよう。結」


びっくりしたおかげですぐに眠気が飛んでくれた。


「火に近づかないこと。いいか?」


料理中だったのか、お玉を持ったままの結がそう言った。


「・・・出来るだけ気をつけます」


寝ていたら周りの状況なんて見えないのだから仕方ないじゃないか。でもなんかとても子供扱いされている気がする。


「顔洗うのはそこの川がいいよ」


「川?」


「すぐそこで湧いているから井戸水と変わらないくらいきれいだし」


そうだった。ここは鎌倉時代の山の中。水道はないのだから川や井戸水を使うしかない。


「うん」


「あとそれ着て、その服は目立つ」


そこに着物が置いてあった。知ってる着物とは何か違う気がする。


「・・どうやって着るの?」


広げて眺めてみてもわからない。


「・・・そっか、知らないんだ。川に行くくらいなら誰にも会わないしいっか」


「なら、顔洗ってきていい?」


「これで拭いて」


タオルのようなものを投げられた。こっちではタオルは何て言うんだろう?


「ありがとう」


外に出て空を見上げるととてもきれいな青空が広がっていた。川に行ってみると水は透明で冷たかった。よく見ると泡がポコポコしている。ここから湧いているらしい。


「うわっ・・・冷たい」


指先を水につけるだけと、顔にかけるのは全然違う。


家に戻ると結は包丁を持って何か葉っぱを刻んでいる。


「それ何?」


「山菜取ってきたから汁物に入れようと思って」


昨日、部屋の中には山菜なんてなかった。朝から採ってきたのかな?


「何かすることない?」


ここまで面倒を見てもらっているのだからできる手伝いはしたい。


「えっと・・・洗濯?」


「どこでするの?」


多分外に出てするんだろう。まさかあの川で?


「さっきの川で」


「やっぱり・・・」


「洗濯物持って!」


「はい!」


洗濯する場所はさっきの所より下流のところだった。そこで結は慣れたように洗濯している。けれど、川で洗濯なんてしたことない私には難しい。


「出来そう? しようか?」


これ以上子供扱いされたくなくて・・・


「出来る」


時間がかかったけれどどうにかなった。洗濯機のありがたさもよくわかった。そして・・


頑張った後のごはんはとてもおいしかった。






「おはようございます」


食器を洗っていると誰かやってきた。声からして女の子だろう。


友梨ゆり、おはよう。とりあえず彩夜芽を着替えさせてくれない?」


「はい、この人が彩夜芽さんですよね」


親しい関係に見える。幼馴染のようなものなのかな?


「友梨の1歳下」


「はじめまして、友梨です」


「彩夜芽です」


友梨さんは大人しそうで長い髪はおろしていて、顔はまだ子供らしい。身長は私より低い。これくらいの歳の女子の平均くらいだろう。


私が160㎝無いくらいの身長で、結は目線が少し上な気がするけれどあまり気にならないから160㎝くらい? でも髪が短いからふわっとして本当より大きく見えてるかもしれない。平均よりも低めの身長? もちろん170㎝以上あるお兄ちゃんよりだいぶ低い。ちなみに私は中の下くらいだ。


「綺麗な目ですね」


「!」


考えていたら突然友梨さんの顔が目の前にあったのといきなり話しかけられて驚いた。


「早く着替えましょう。結理さんは外に出てください。勝手に入って来ないでくださいよ」


「わかってるって」


「なら女の子を家に泊めないでください」


友梨さんは結を追い出して戸を勢いよく閉めた。


「あの・・まずこれから着てください」


言われたようにしていく。慣れてないから難しい。


「友梨さんと結はどういう関係なんですか? 幼馴染とか?」


見ていて全くわからない。友達には見えないし、けれどお互いをよく知っているように見える。幼馴染にしては距離があるような?


「小さい頃からの知り合いです。彩夜芽さんは?」


「昨日、助けてもらいました」


「彩夜芽さんはどこの人ですか?」


「この辺なんですけど、帰れなくて」


「迷子ですか。結理さんと一緒ですね」


一緒ってなんだろう? 結も迷子っていうことなんだろうか?でもそんな風には見えない。


「結理さんは昔のこと覚えていないらしいです。記憶があるのはここで目を覚ました時からだって・・、家族とかいたんでしょうけど分かるのは自分の名前だけ」


昨日、兄弟のことを聞いて『さあ』と言っていたのは分からないからだったんだ。これからはうっかし聞かないように気をつけよう。


「私を見て何も思わないんですか?」


「結理さんで見慣れてますから」


「そうですか」


なんか少しホッとした。昔の時代なら外人も見慣れていないはず。とても異様なものに写るだろう。


「出来ましたよ」


「ありがとうございます」


「あの・・、彩夜芽さんは見える人ですか?」


「えっ!」


「あやかしとか」


見えるけど・・・正直に言って変な目で見られないだろうか。隠すべきか正直に言うべきか。


でもこの見た目を見られた以上変な目も何もないのかな?


「結理さんは見える人なんですよ」


友梨さんは穏やかにそう言った。


冷たい。雨。岩。誰かの声。


その時なぜかずいぶんと長く思い出すこともなく、忘れかけてあやふやになった景色が脳裏に浮かんだ。


「・・・結」


確かめたいと思った。何をなのか自分でもわからない。バタバタと靴を履き、外に出て・・・何か作業をしている結のその顔を覗き込んだ。


「!、彩夜・・・どうした?」


顔を見ても何もわからない。さっきまで頭に浮かんでいた光景も消えてしまった。


「彩夜芽さん?」


どうして結の話を聞いてあの光景が浮かんだのだろう? 


考えを飛ばすように頭を振る。


そうだと決まったわけじゃない。もし違ったら結を困らせるだけ。確信が持てないのだからまだ早い。私自身忘れかけている記憶なのだから確かめるのも難しい。


結を私は知っていた? もしあの人が結なら・・・





結は私を知っている。


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