31st ミカクテイリンク
見返せば見返すほど、画面に映る少女の姿に違和感を覚える。恐らく、完全に無関係の人間であればこんな気持ちにはならなかっただろう。
――正確に言えば、「同じ高校」という手の届く範囲にいるはずの人間が、「ブランド物」という非現実的な装いに身を包んでいるという事実に違和感を覚えているのだ。
「それで、どうするんですか結局?」
オレは相言さんに最終確認を取った。相言さんは目線を下に落とし、小さく唸りながら結論を出す。
「俺が説得する……!それが、それが一番いいと思うから」
相言さんはここまで見たことがないようなキリッとした表情で答えた。さながら映画の重要シーンのようだ。
「――そうですね。間違いないと思います」
……いやしかし、よく考えたらあたりまえの事だ。大した関わりもなければ、歳も下。そんな男に説得されるよりは、同級生の彼氏に説得された方が数億倍マシだろう。
ただ、オレは一つ不安を抱えていた。それは、役炎相言という人間があまりにもヘタレである、という点だ。ここまでの行動を鑑みるに、この人が自分できちんと説得できるとは考えづらい。
「――説得、一人でできますか?」
「な、ナメすぎだろ!できるわ!」
「本当に?」
「えっ……?」
「オレたちがいる場所でやらなくて大丈夫ですか?」
「えっ、えっ??」
「何人かで見守りますよ?」
「……」
相言さんは黙り込んでしまった。ここで「いーや!できる!!」とでも言ってくれれば、オレも納得して送り出せるんだけどなぁ……
「はぁ……じゃあ、いつどこで説得するかぐらいは決めましょう。案はありますか?」
「――あ、うん……休み明けの学校でやろうと思ってるけど……」
「銀河さんの教室に乗り込むって解釈でいいですか?」
「そのつもり……」
「分かりました。自分たちもついて行きますからね」
「う、うん……」
――そんなこんなで、オレたちで説得を見守ることが決定したのだった。ほとんどオレが強引に決めちゃったけど……
◇ ◇ ◇
買ってきたジャンクフードをぱっぱと食べ、そろそろいい時間になってきた。
「それじゃあ休み明けに会いましょう」
「わかった……」
相言さんは終始歯切れ悪く答え、そのままトレーを持って帰ってしまった。オレは、なんだかその背中を直視できなかった。
◇ ◇ ◇
翌日。オレはここまでの経過を報告することも兼ねて、夏来とゲーセンにやってきていた。
――これはあくまで経過報告だ。決して女子と遊びたいからとか、
「まず何をやりますか!?」
夏来が元気に聞いた。オレは一瞬、施設の中央にドンと置かれたエアホッケーの台が目に入ったが、これは流石に夏来が可哀想だからやめておこう、と踏みとどまる。
「クレーンゲームでもしようか」
「いいですね!!」
オレと夏来は人気アニメのぬいぐるみが景品となった台の前に立ち、コインを一枚入れた。
まずはオレの番だ。コントロールパネルに置かれたスティックを上下左右に動かし、ぬいぐるみの上にアームを持っていく。
オレがそうやって遊んでいると、手持ち無沙汰になった夏来が今日最大の質問を投げかける。
「それで、どうなったんですか?役炎さんの話は」
オレはガチャガチャとクレーンを動かしながらそれに答える。
「ある程度ではあるんだけど、証拠が集まってしまったんだよね」
「ということは、それを突き出して辞めさせる、とかですかね」
「そのつもり……なんだけど、説得が上手くいくか微妙なんだよねぇ」
アームを細かく調整し、ここだと言うところでボタンを押す。すると、降りたアームがぬいぐるみを掴んだ……!
しかし、そう簡単には行ってくれない。掴んだ腕は上がれば上がるほど非力になり、最終的には元の場所にポトンと落ちてしまった。
「うわ、マジか……力弱いな」
「私がやってみせましょう!!」
オレはもう一枚コインを入れ、操縦者を夏来へ交代する。
夏来はオレよりも器用に機械に立ち向かう。オレのようにガチャガチャ動かすこともなく、ほぼ一発で目標の位置まで持っていった。
「ここだ!」
夏来がボタンを押すと、アームはサクッとぬいぐるみと床の隙間に入り、そのまま持ち上がった。そして、最終的に景品は取り出し口にポトリと落ちたのだ!!
「やった!!やりましたよ葛さん!」
「おお、凄いな」
「しばらく休戦していましたが、まだまだ勝負は続いていますからね!!これからはガンガン行きますよ!!楽しみにしておいて下さい!」
「――あ、まだ続いてるんだ。てっきり自然消滅したものだと思ってたわ……」
夏来は取り出したぬいぐるみを掲げながら、全力の笑顔でアピールした。
そして、近くにいた店員さんにビニール袋を一枚貰い、その中にぬいぐるみを入れる。夏来は上機嫌だ。――と思いきや、急に真面目な表情に変わる。こいつのギャップにはつくづく驚かされる。
「それで、説得はどうするんですか?その様子だと、一人でやらせる訳では無いのでしょう?」
「まあ、そうだな。一応、相言さんが銀河さんの教室に乗り込んで説得し、その様子をオレたちが見守るってことになってる」
夏来は次の獲物を探しながらオレの意見に半分同意する。
「そうですね……見守るのもいいかもしれませんが、私たちが介入しちゃうというのもアリでは無いですか?」
「いやいや、それじゃあ意味が無いだろ。本質的には相言さんと銀河さんの問題なんだから」
「た、確かに……」
どうやら夏来は納得してくれたようだ。夏来は次の台にコインを投入し、二つのボタンを操作する。
「それで、日時はどうされるんですか?」
「休み明けにするみたいだよ」
「休み明けですか……?もう少し詳細な時間は?」
「――うわ、決めてねぇ……」
「もう、葛さんはそういうところの詰めが甘いですよねぇ。もう少しシャッキリした方がいいですよ?ほらほら、クレーンゲームに熱中する私を殴って、ストレス発散、気分爽快になりましょう!」
「いや、それは逆にストレス溜まるわ……色んな不安とかで」
「ええ〜?殴りましょうよここは〜」
夏来は二個目の景品を取り出しながら口を膨らませ、抗議する姿勢を見せた。それにしても、夏来のこの姿勢は何だか安心するな。
――安心したらマズイか。いかん、感覚が麻痺してきている……
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