30th デキナイプルーフ
「それで、銀河さんはどこに行ったんだよ」
「ひへへ……なんか知らないけどおじさんとどこか行ったよ」
「その『どこか』が重要なんだろ!?」
時間も時間だ。銀河さんは実家に住む
と考えると、まだ見つけるチャンスは大いにあるわけだ。
とはいえ、先程までのデパート内捜索とは訳が違う。この近辺に宿泊施設がどれだけあるか……
しかも、未成年は銀河さんだけではない。オレたち三人も揃って未成年なのだ。しかも、オレに彼女が出来たことは当然ない。なりたての高一だし。つまりそういう店に行ったこともないわけだ。
それに、よくよく考えてみればそういう施設は未成年を入れてくれるのか?
ということは……?あるとすればおじさんの家でってこと……?
――考えれば考えるほどに探したくなくなる。見つからなさそうだし……逃した魚は大きいとはこのことだな。
「はぁ、じゃあ今日はここで打ち止めにしておく?」
「ひへへ……そうだね」
――ここは諦めも一つの手だ。証拠も少しはあるわけだし。
オレは二人と共に家路についた。明日からは連休。この二人と会うのは少し先だ。
◇ ◇ ◇
翌日。オレはとあるファストフード店にやってきていた。世間はいわゆるゴールデンウィーク。人々が浮かれた表情をしながら踊るように歩いているが、オレはそんな場合ではない。
席に座ってしばらく待つと、当事者が姿を現した。
「よっ、どうだった?」
彼は、なんだか演技をするようなぎこちない動きを見せながらオレの目の前の席に座った。
◇ ◇ ◇
「そうか……やっぱりな」
「相言さんはどうするつもりですか?」
オレが訊くと、彼は俯きながら答えを探す。
「うーん……ここはもうちょっと様子見を……」
「また逃げるんですか?」
「えっ?」
オレが食い気味に返した言葉に、相言さんは戸惑いを見せる。
「逃げるだなんて……」
「逃げてるじゃないですか。今やらずにいつやるんです?」
「そ、それは来週とかに……」
「来週はゴールデンウィーク真っ只中ですよ?休みですよ?稼ぎ時ですよ?その時期にやらないだなんて手立てはないでしょう?」
「か、関係ないだろ葛には!オレと銀河の問題なんだから」
「そっちから話しかけておいて今更『関係ない』はないでしょう?」
全く。この人はどれだけヘタレなのだろうか。彼氏として不安なら「やめろ」くらい言ってくれないと困る。
「というか、変な格好になってたあの時のオレに話しかける勇気はあるのに彼女にガツンと言う勇気はないんですね」
「は、はぁ……!?それは……あるし!」
「あるならやりましょうよ」
「う……わ、わかった……」
オレは相言さんの意思表示をしっかりと確認し、スマホを取り出した。
「それじゃ、今から証拠を見せていきます。なんとか正気を保ってくださいね」
オレは手始めに待ち合わせのシーンを突き出してみた。
「うっ……」
相言さんは唸るだけだ。オレはスワイプし、次の動画を突きつける。今度はデパートの中に入る様子。
「ぐっ……」
さらには寿司屋で仲良く食事をする様子。
「うわぁぁ……!!」
「まだまだありますよ」
「も、もういいだろ!?」
ありゃ、これ以上はまずかったか。でも、これで相言さんが本気になってくれたなら本望だ。
オレはスマホのサイドボタンを一回押し、ポケットの中にしまおうとする。しかし、相言さんはオレの手を止めるように掴んだ。
「――これで終わりってことは無いよなぁ……!」
「終わりですけど」
「えっ」
相言さんはなにやら必死な表情をしている。先程までとは一線を画すほどの目だ。
「そんなわけないだろ……!ほら、二人でなんかこう……アレなことしたりさぁ!」
「――ないですよ」
「ない……!?なんだ、やってないのか……!!」
「いえ、撮ってないんです」
「――はい?」
「だから、やってるかやってないとかは知りませんって言ってるんです。このおじさんと銀河さんが食事後に何をやったかは三人とも知らないんですよ」
「え、えぇー!?」
相言さんの真剣な瞳が一転、濁りを持った混乱の目に変わった。
「それじゃあやってるかもしれねぇってことじゃねぇか!!」
「ええ、まあ、そうですね」
有名な思考実験にシュレディンガーの猫とかいうものがある。オレは量子力学については疎いので説明などはすっ飛ばすが、この実験は今回の案件と重なるものがある。
箱を開けるまでは猫が生きてるか死んでるかはわからない。観測するまでは銀河さんがヤッたのかヤッてないのかはわからない。本家と比べるととんでもなく下品だが、まあだいたい同じだろう。
いや、本家は生死の確率が五十パーセントであることを考えると、片方の確率が高い本件はそれとは少し異なるか……?
――あまりにもどーでもいいなこの議論。結局大事なのは行くとこまで言ったかどうかって話なのだから。
「ど、どうすんだよやってたら!!」
「――それ前提の調査だったのでは?」
「そ、それは……」
それにしても、あまりにも闇が深すぎるな……一歳年上と言うだけでここまで変わるのだろうか。
オレは焦りに焦りまくっている情けない先輩を見ながら、スマホの中に残った動画をもう一度見返すのだった。
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