三回目のデート

鷹橋

三回目のデート

 北極星に導かれるまま歩んでいく。真上には星空が見えるし天の川さえも見える。 その下には湖が見えた。あれはきっと相模湖、だよね? ここら辺の土地勘がないからわかんないや。目的地はもうすぐそこ。やっとだ。やっと彼に会える。


 ――彼に逢えたらなんて言ってやろうかな。いいや、もう決まってるもん!


 それだけを考えていた。握っているナイフの柄に力が宿る。ちょっと奮発したバタフライナイフ。フリフリの迷彩服と防弾チョッキもまとってぜったい今日の私は最強。


 依然として坂道、もとい山道はつづく。きっと彼が幻覚を見せているのだろう。まったく山頂にはたどり着かない。


「あのさー! もー遊びはやめようよ~~~~~」


 しびれを切らして大きい声で天高く吠えた。かわいいなって阿修羅みたいだなって。


「震えたあなたの顔を、首を、その眼を切り取ってあげるよ!」


 伝えたいこと言えたじゃん! 今の私お腹から声出てるじゃん! そっか、ママも言ってた。彼とのデートは一族の因縁だって。DNAにだって刻まれてるんだから! 今日の私はやっぱり強いのよ!


 後ろのやぶが揺れる。その刹那の彼の仕草を私は見逃さない。デキる女っていうのは男の一挙手一投足に気を配るもの。斬るとやっぱりだ。彼がいた。切断された世界から攻撃してくるなんてまだまだね。今回はもらったよ!


「腕を上げたな」彼が亜空間でつぶやく。


「そんなのあなたに振り下ろすためだから!」


 えい! 私の左手に握られたピンク色の獲物は完全に亜空間にいる彼を捉えていた。もーぜったい解体しちゃうんだから。


「だがすこし遅かったな」


 私の左腕を彼の右手がつかむ。こうも、こうも簡単に。

まただめだったよ。お爺ちゃん、パパ。ママ。


「なによ」

 易々と彼に捕まってしまって顔を赤らめる私に彼は、

「おやすみ。お寝坊さん」

 とだけ吐き出すように言ってからデコピンした。きつめのウィンストンの匂いがした。この人、またたばこの銘柄変えたな?




 気づいたら自室にいた。ピンクのベッドに横になるだらしない私。大の字になって悔しがる。

「またやられちゃった。また約束しなきゃ」

 フリフリの迷彩服にはぐっしょりと私の汗がまとわりついていた。暑さのせいだ。防弾チョッキを脱ぐ。重装備から下着姿になっても熱は下がらなくて、いらいらしたから握ったナイフを振り下ろす。待ってましたと言わんばかりにベッドとベッドシーツには同じ傷跡があって。

 あーあ何度同じことを何回繰り返すのかなあ。


「逃げられちゃったよママ」


 すーっと息を吸って止める。ふうって一息つく。さっきと同じたばこのにおいがした。ボロボロの部屋にいるのは私だけ。今だけは愚痴ってもいいよね?


「もーあいつ本当に災厄」


 今日もまた彼に勝てなかった。また彼を殺せなかった。そしてまた彼の手にかかってしまった。でも、今度はそうはいかないよ。もっと強くならなくっちゃ。次は私が勝ってやるんだから。


 ――あれ、なんで私こんなこと考えてるんだろ。そんな必要ないはずなのに。どうして。

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三回目のデート 鷹橋 @whiterlycoris

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