3話:ネコと相田さん

僕は相田さんに頼まれて、ネコを連れて行くことになった。僕の腕の中で、ソイツが満足そうな顔をしているのが少し気に食わない。

「ねぇ、相田さん。このネコの名前なんて言うの?」

「クロ。黒猫だからね」

あまりにも分かり易い名付け方に少し面食らった僕の目は、何度か前にいるクラスメイトと腕の中のネコの顔を行き来する。

「クロ…かぁ。クロ、満足そうな顔してるね」

「なんで〜!?私の時は威嚇すらしてくるのに!」

とてもそうには見えない。

…まぁ、ネコどころかペットを飼ったことすらない僕にはわからない話ではあるのだけど。

「ここが私の家だよ」

「クロ…どうしたらいいの?」

「家の中にまで連れて来て欲しいな…できそう?」

「大丈夫だよ。暴れそうな気配もないし」

相田さんにドアを開けてもらう。入った途端に、優しい香りがする。

「美香、クロは連れて来たの?」

「そのことなんだけど…友達が抱っこしてたの。だから連れて来て貰っちゃった」

そんな話の後、少し慌てながら1人の女性がやって来た。相田さんと似た雰囲気を感じ、なんとなく誰か察する。

「お邪魔してます…」

「全然いいのよ?むしろこっちこそごめんね〜?クロ、美香には懐かないものだから…」

手を出され、ネコを預ける。

ネコは、相田さんの母親の腕の中でもやはり満足そうな顔。僕の腕の中でした顔と大差ない。

「ほんとごめんね〜…ほら、美香も謝りなさい」

「山野くんごめんね…マジで懐いてくれなくてさ…」

相田さんは両手を顔の前で合わせ、申し訳なさそうな表情をした。

「そのことなんだけど…キミがもし良かったらお茶でも飲んでいく?」

「あ、それはちょっと…一応学校の帰りだったので」

「じゃあ今度もし良かったら寄ってくれない?お礼しておきたいし、美香にもクロの触り方教えてあげて欲しいし」

「それについてはよく分からないんですよね…まぁ次来る時までに少し考えておきます」

会釈をし、僕は相田さんの家を後にした。

ネコが僕に懐く理由、相田さんが威嚇される理由。

それらの答えは簡単な気がする。

漠然とした考えだし、根拠も何もない。

でも、そんな気がした。

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