第4話 再会
都営に引越して半年後、ナヌカの弟から連絡があった。遊びに行きたいと言うから「いいよ」と返事した。ナヌカと弟は俺のアパートにやって来た。二人とも前と同じ洋服を着ていた。また、ここが外国人のたまり場になるんじゃないか。俺は心配だった。
「今、どうしてるの?」
俺は尋ねた。
「仕事してる」
「へえ。どんな?」
「薬を売ってる」
弟が答えた。
「何の?」
「覚せい剤、ヘロイン、大麻」
「え?」
「みんな高いね。お金いっぱい稼げる。でも、欲しい人あんまりいない」
「大丈夫?捕まらない?」
「まだ、大丈夫。日本はそんなに罪重くならない。私の国だと死刑」
「ああ・・・そう。やめれば?」
この年になって、麻薬とお近づきになるとは思わなかった。
麻薬関連で死刑になる可能性がある南アジアの国は意外と多い。中国、インドネシア、ベトナム。特にタイやマレーシアは罪が重い。中東の国も死刑のある国が多いのだが、彼らは当てはまらないと思う。どう見ても、東南アジア人だ。
彼らは多分、タイ人だったのかもしれないと思う。食事でトムヤムクンが出たことはないが。元々俺がトムヤムクンを食べたことがなく、知らないうちに出されていたのかもしれない。
「お金貸して」
ナヌカが言った。
「え?」
貸すと言ったって戻ってくるはずない。俺は42年働いて、退職金ももらい、1200万ほど貯金があった。それは絶対に使いたくなかった。老後、働けなくなったら、切り崩して生活するか、施設に入るために使うつもりでいた。
「お金ないよ」
「お金出さなかったら、覚せい剤打つよ」
ナヌカが注射器をちらつかせた。あんなに尽くしたのに。俺は切なくなった。
「今は4,000円くらいしかないよ」
「もっと持ってる。貯金ある!」
「貯金ないよ」
「絶対持ってる!早く出して」
その日から俺はしゃぶ漬けにされてしまった。2人に監禁されてしまい、会社には行かなくなった。
薬が欲しくて、貯金をすべて下ろした。銀行には2人が付いて来た。その頃の俺は、目がくぼんでいて、妙なテンションだったと思う。落ち着きなくおどおどしていたから、窓口の女の人が「大丈夫ですか?警察呼びましょうか?」と小声で聞いてくれた。俺は何でもないと言った。
「これが最後だ」
そう言って、俺は弟に現金を渡した。
「すぐに金を渡せば、シャブ漬けにならなくて済んだのに」
ナヌカは馬鹿にしたように言った。俺は悔しかった。俺の10年を返して欲しい。
「実はまだ家にあるんだ・・・隠してあったけど」
俺たちはまたアパートに戻った。俺は冷蔵庫に隠してあると言って、台所に行った。シンクの下から、包丁を取り出した。
俺は部屋に戻ると、まず弟を刺して、殺した。ナヌカが叫び声をあげた。この辺はよく悲鳴が聞こえるから、多分、誰も通報しない。俺はナヌカを縛りあげた。そんな手荒な真似はしなくなかったのに。君が悪いんだよ。俺はつぶやいた。
弟の死体は風呂場に放置した。ナヌカはガクガクと震えていた。
「俺にはわかってる。お前は脅されてたんだろう」
「違う。彼は私のボーイフレンド」
彼女は泣きながら言った。
その時、俺の中の何かが弾けた。同じ包丁でナヌカを刺して殺した。
2人殺したら大体死刑だ。俺の場合なら、無期懲役だろうか。死ぬ前に楽しいことを何かしたい。しかし、俺は金が全くないのだ。シャバにいる間にやりたいことだってあるのに。
とにかく、俺は2人の遺体を解体した。
そのままだと重いから、肉をそぎ落として冷凍し、骨や着ていた服は、ゴミの日に捨てた。人骨が出て来たというニュースも聞かないし、もう焼却炉で焼かれたみたいだ。肉は毎日少しづつ食べているが、鶏肉みたいでけっこう美味しい。食費も節約できるし、一挙両得だ。
********
俺は働けなくなったから、生活保護を受給するようになった。
そして、覚醒剤もなぜかやめることができ、普通に生活している。警察も来ない。あの2人は日本にいてはいけない人たちだからだ。外国人と暮らした日々は、まるで夢だったみたいに、俺は平穏に暮らしている。
近所のおばさんが尋ねて来て、うちの冷蔵庫に入っている食材でご飯を作ってくれる。随分たくさんありますね、と言われたから、少しお裾分けした。
おばさんは精神疾患を患っているふりをして、生活保護を受給している。若い頃は水商売をしていたそうで、よく見ると綺麗な顔をしてる気がする。そろそろ彼女に結婚を申し込もうかと思う。
*******
俺たちはHIVに感染していた。
どこからウイルスをもらったかわならない。
もう、年だから受け入れることにした。
医療費は無料だ。
外国人妻 連喜 @toushikibu
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