6.証言

林刑事は。「川村」に居た。

川村社長に事情聴取していた。


ところが、何を勘違いしたのか、循環取引の内容を喋り出した。


「それで、和木副社長が、承諾したんですか」

三好刑事が、尋ねている。

何か、世間話をしているようだ。。

縁側で、お茶でも飲みながら、世間話をしているようだ。


林刑事は、三好刑事の顔を見た。

三好刑事は、間の抜けた顔で、川村社長の証言をメモしている。

こいつは、出世すると思った。


しかし、臨海公園殺人事件の事情聴取には、なっていない。


川村社長の話しは続く。

以前から、津和木の循環取引はあった。

最初は、川村社長から持ち掛けた。

売上至上主義の津和木だった。

和木副社長は、数字だけの取引に、のめり込んだ。


それからは、和木副社長から、循環取引を持ち掛けられるようになった。

勿論、以後は、和木副社長の主導だ。


今回、新型コロナの影響や、東欧の侵略戦争で「川村」の業績が、著しく悪化した。

川村社長は、資金繰りに困った。

和木副社長に融資の相談をした。


しかし、なかなか、話しがまとまらない。

和木副社長は、当時、川村社長の訴えをさほど気にしていなかった。


川村社長は、切羽詰まった。

循環取引で回ってきた手形を銀行で割引き、資金調達した。


「川村」が、架空売上を計上したのが、津和木だ。

「川村」が、架空仕入をしたのが、大阪の中堅商社「三橋」だ。

「川村」は、津和木から受けた手形を割引して、資金調達した。

調達した資金は、事業の運転資金に充てた。


しかし、「三橋」への手形決済が出来ない。

もう、既に、崖っぷちだった。


川村社長は、和木副社長に、その事を話した。

和木副社長は、慌てた。

そうなると、確実に、不正取引が暴かれる。


和木副社長は、取締役会に、「川村」への融資を提案した。


和木副社長は、「川村」に融資して、割引手形で資金調達した現金の、穴埋めをしようとしたそうだ。


しかし、「川村」との取引規模は、さほど大きくない。

津和木への影響は、限定的だと否決された。

そして、取締役会で否決された。


以来、遠藤常務と和木副社長は、対立していると噂された。

しかし、遠藤常務が、反対して、融資を阻止した訳ではない。


遠藤常務も、まさか、和木副社長が、不正取引をしているとは思ってもいなかったようだ。

だから、遠藤常務は、和木副社長と、対立するつもりなど、なかったようだ。


「川村」の経営状況は、取締役会で、報告を受けていた。

津和木が、大口の取引先である事も記載されている。

提出された財務内容からは、危機的状況が認められない。

それで、否決されただけだ。


そんな時に、政木柚葉が、葛西の事務所を訪ねた。


一人の少女を連れて来ていた。

たまたま、川村社長が居合わせた。


「これは凄い!」

川村社長は、この娘は、絶対売れると思ったそうだ。

それが辻倉彩乃だった。


葛西に尋ねると、以前、柚葉の出演するイベントへ彩乃が来ていたそうだ。

葛西は、柚葉に彩乃を事務所で、スカウトしたいと、相談していたそうだ。


川村社長は、思い付いた。

和木副社長に相談を持ち掛けた。

和木副社長が了承した。


葛西の事務所を支援しているのは、和木副社長だった。

勿論、津和木の広告のため、イベントに協賛している。

従来、それは、イベントが開催される場合に限られていた。

ただ、今回の協賛には、別の意味があった。

和木副社長から、販売促進課の井端課長に、葛西へ資金援助の指示があった。

名目は、イベントの協賛だった。


大型新人アイドルの発掘と称して、多額の協賛金を準備した。

それが、彩乃だった。


彩乃を大々的に売り出すと云う名目で、葛西に資金を提供した。

実は、葛西から、「川村」に資金を横流しするためだった。

金額にすると数千万円だが、手形を決済するには充分だ。


販売促進課の井端課長から遠藤常務へ情報があった。

こんな多額の資金を販売促進費に、使用しても良いのかと確認した。

それで、遠藤常務は、和木副社長と葛西の関係を知った。

更に、葛西から川村社長へ資金が流れていると伝えた。

これは、井端課長が、葛西から直接聞いたそうだ。


遠藤常務は、和木副社長と、川村社長の関係と葛西の関係も分かった。


葛西は、イベントを開催して、アイドルの発掘を目指してした。

何人かタレントを抱えて、東京進出を目論でいた。

最初の頃は、真剣に取り組んでいた。

ただ、彩乃は、歌のレッスンを受けた事が無い。

だから、葛西が、平野を紹介しようとした。

一度、レッスンを受けるように助言していた。


葛西は、色んな音楽教室を回って、スカウトをしていた。


その一つが、平野スタジオだった。

平野から、アイドルを目指している少女を紹介してもらっていた。


平野は、スタジオで音楽のレッスンをしている。

平野スタジオで、才能ある新人が見付かるかもしれない。

平野に声を掛けていれば、伝えてもらえる。


「ちょっと、待ってください」

林刑事は、業を煮やした。


「あんたが、葛西を殺したんではないんか」

余りも、直球過ぎる質問をした。


「まさか、あの娘を育てたら、いくらでも稼げる」

川村社長が云った。

それには、葛西が、絶対に必要だ。

殺す訳がない。


葛西が殺されて、津和木の広告で、デビューする大型新人の話しも、立ち消えになった。

しかも、葛西に彩乃を紹介した、柚葉まで殺害された。


もう手形の期日が迫っている。

手形が不渡になれば、会社は倒産する。

覚悟は決めている。

津和木には申し訳ないが、もう、終わりにする。


だから、もうこれ以上、関わりたくない。

早く、犯人を捕まえてくれ。


それじゃあ、一体誰が。

後は、うさぎを購入した、平野に当たるしかない。


柚葉の飼育していた、うさぎが死んだ。

その代わりの、うさぎを調達したのが、平野だ。


「平野音楽教室へ行くか」

林刑事は、三好刑事に云った。

そして、気付いた。


そうじゃない。

「平野スタジオ」

二人は同時に云った。

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