5.確認

「質問です」

千景は挙手した。

まだオンライン朝会は、続いている。


彩乃が、告白するように、話し終えた。

緊張して、いるのは分かる。

話しが前後して理解し辛かった。


千景は、驚いていた。

まさか、朝会で、彩乃が発言するとは、思わなかった。


「どうぞ」

西川先生が、許可した。

もう、先生は、覚悟を決めたようだ。


「ラブとラヴが、すり替えられていたのを知ってたんですか」

千景は、尋ねた。

全ては、ここから始まっている。


彩乃は、知らなかったと答えた。

学校で飼育していた「ラブ」と、柚葉の飼育していた「ラヴ」が、すり替えられていたのは、知らなかった。


もう、今となっては、分からない。

うさぎをすり替えたのは、柚葉だろう。


「ちょっと。良いですか」

大西君が挙手した。


「うさぎをすり替えたのは、塚本君です」

えっ

大西君が、意外な事を云った。

皆、理解出来ないでいる。


学校の、うさぎが逃亡した日、塚本君が、鞄に、うさぎを抱いて登校していた。


大西君は、いつもの通り、塚本君の後を付けて、登校していた。


塚本君が、搬入口から校庭に入り、西の中庭の、うさぎの飼育ケージ前で、立ち止まった。

大西君は、搬入口から見ていた。


塚本君は、抱いていた、うさぎをケージを開けて中へ入れた。


しかし、うさぎは跳ねて外へ逃げた。

大西君は、うさぎを追い掛けて捕まえた。


どうしようか。と思った。

塚本君が、大西君から、うさぎを奪い取り、驚いたことに、鞄へ押し込んだ。


うさぎが、すり替わっていたのなら、その時だろう。


大西君は、帰宅して、塚本君を訪ねた。

うさぎは、どうしたのか聞いた。

塚本君が、政木さんの自宅へ連れて行ってくれた。

玄関脇の門扉から庭を覗くと、うさぎが二羽いた。


大西君が。塚本君に、ゆっくり尋ねた。

時々、政木さんの庭から、塚本君の畑に、うさぎが逃げ込むらしい。


農道を通って、柚葉の自宅から、塚本君の自宅まで行くのは、結構、距離がある。

しかし、畑を横切れば、すぐ隣た。


そうか。

柚葉を疑って、悪かった。

意外な事実が判明した。


千景は、気を取り直して、彩乃に質問した。

「柚葉が、教室へ、うさぎの、ラブの死骸を遺棄した。と云うのは、直接、聞いたんですか」

「ラブ」の死骸の遺棄が、美加の不登校になった直接原因だ。

憶測なのか、直接聞いたのか知りたかった。


「聞いていません」

彩乃が答えた。


直接聞いてはいないが、ラブが死んでいるのを柚葉から、見せられている。

ラブの死骸は、柚葉の自宅の庭のケージに放置されていた。


当時、柚葉から「コロ」だと聞いていた。

「ラブ」だとは、最近になって知った。

それで、美加が、あんなにも大きな衝撃を受けたのだ。と分かった。


美加と千景が、柚葉を殺害した犯人を見付けようとしている事が分かった。

バレーボール部員の何人かが、美加に、呼び出されて、色々と聞かれたようだ。


その過程で、下級生部員が、教えてくれた。

ただ、何故、美加がそれを云わなかったのか、分からない。

彩乃は、釈然としない顔をしている。


「確認して良いですか」

千景は、再度、挙手した。

西川先生が許可した。

千景は、一つずつ、確認する事にした。


「彩乃は、誰かに相談した?」

千景は尋ねた。

彩乃は、何か気付いたようだ。


彩乃は、三年生と交渉すると、下級生部員に云った。

下級生部員に、柚葉の出演するイベントへ参加しても良いようにすると云った。


バレーボール部の下村さんが、確認している。

柚葉出演のイベントに参加した、板井さんと上川さんから、聞き出している。


「何故、板井さんと上川さんの対応が、違ったのですか」

千景が質問した。


「そんな、つもりは無かった」

彩乃が会話していたのは、同じポジションの部員だけだった。


「分かったわ」

千景は、納得した。


その後、彩乃は、イベントに参加した二人に付いても、チケット代の返金を交渉した。


そんな時。

彩乃が、柚葉の飼っていた、うさぎを逃がしてしまった。

それが原因で、うさぎが死んでしまった。


柚葉に、脅されて、広告事務所へ行った。

そこで、広告用のモデルにならないか。と誘われた。


そこ頃、美加がバレーボール部を辞めた。

そして、彩乃が、キャプテンになった。

彩乃は、美加に遠慮があった。


また、美加が、バレーボール部へ戻って来ると思っていた。

彩乃は、いつの間にか、バレーボール部員と会話が無くなった。


「間違い無いですか」

千景の確認は終わった。


「間違いないです」

彩乃が云った。


千景としては、はっきりと、何故、誰にも相談しなかったのか。

そう云いたかった。

何故、千景に相談してくれなかったのか。

悔しかった。


また、気を取り直して、尋ねた。

「偽野球部員は、誰ですか」

本当は、柚葉を殺害したのは、誰ですか。と尋ねたかった。


その偽野球部員が、柚葉を殺害した犯人だと、考えられている。

クラス全員が出席している。

だから、刺激の強い表現を止めた。


彩乃は、黙ったままだ。

「じゃあ、誰だと思いますか」

千景は、尋ねた。

事件に、一番近いのが彩乃だ。


「判らない。不確かな事は、もう言いたくない」

彩乃は、慎重に答えた。


「それじゃ、あくまでも、想像だという事で、話してくれませんか」

千景は、食い下がった。


「でも…」

彩乃が、躊躇している。


「名前は、言わずに、何をしている人なのか。それだけでも」

西川先生が、尋ねた。

先生も本気になったようだ。


彩乃は、躊躇いながら、しかし、力強く額を上げた。

「あくまでも、私の憶測です」

彩乃が、話し始めた。


そうだ。

それでこそ、信頼する、幼馴染だ。

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