4.聴取

六十歳くらいの紳士と、葛西の事務所を訪れていた十五、六歳の少女が居た。

その少女というのが、辻倉彩乃だった。


林刑事は、辻倉彩乃から聞き取りをした。

まず、葛西の事務所で、一緒に居た男は、誰なのか尋ねた。


彩乃が、食品輸入会社「川村」の川村社長だと答えた。


来た!

林刑事は、心の中で叫んだ。

津和木が、不正取引を実行する原因になった会社だ。


林刑事は、彩乃に、どうして知り合ったのか尋ねた。


彩乃が応えた。

その日、柚葉の自宅を訪ねた。


柚葉というのは、先日、殺害された政木柚葉だ。

と云った。


ええっ!

これは、慎重に事情聴取をしないといけない。


彩乃は、柚葉に、チケット代を返金するように、頼んでいた。

バレーボール部員で、イベントへ参加した部員がいた。

イベントへ参加したのだから、チケット代金の返金を頼むのも筋違いだ。


だが、イベントへ参加しても良いように、云ったのが、彩乃だった。

だから、彩乃は、責任を感じていた。


柚葉が、庭に居た。

彩乃は、庭へ入ろうとして、門扉を開けた。


途端、うさぎが外へ逃げた。

辺りは、民家が点在する竹原地区だ。

周りは、田畑ばかり。


暫く探していた。

すると、逃げた、すぐ南隣の畑に居るのを見付けた。

昼間なので、うさぎの動作が鈍く、すぐに捕まえた。

その日は、それで帰った。


数日後、彩乃は、柚葉から呼び出された。

うさぎの「コロ」が死んだと聞いた。

先日、「コロ 」が逃げた時、畑の葱を食べたようだ。


柚葉が、中学校へ入学した時、母親から買ってもらった大切な、うさぎだ。

柚葉は、「ラヴ」だけでは、寂しいだろうと、「コロ」を一緒に飼っていた。

実際は、相性が悪く、喧嘩が絶えなかったようた。


その「コロ」が、葱を食べて、死んでしまった。

葱を食べると、死ぬとは知らなかった。

確かに、葱畑だった。


彩乃に、どうしてくれるんだ。と詰め寄った。

彩乃は、謝った。


「ラヴ」が一羽では、寂しいようで、元気がない。


それでは、どうしたら良いのか。

彩乃が尋ねた。


それじゃあ。と云って、葛西広告事務所へ連れて行かれた。


葛西の事務所は、当時、丸肥町にあった。

柚葉が、外階段を二階に上がって、手招きする。


事務所へ入ると、応接テーブルに男が二人居た。


その一人男が、葛西だった。

葛西から、「タレントにならないか」と云われた。

広告用のモデルを勧められた。

決して、いかがわしいものではないと云う。

大手食品会社の広告だと云う。

内容は、気持ちが決まったら話す、という事だった。


林刑事は、津和木だろうと思った。

彩乃は、津和木の販売促進課、井端課長に紹介するつもりだった、大型新人だ。


どうも、葛西は、彩乃を以前から見知っていたような節がある。

林刑事は思った。

確か、葛西は、津和木で営業担当をしていた。

営業成績も、優秀だったと聞いている。

こんな所で、営業だった技術を発揮してるのか。


そして、もう一人が、食品輸入会社「川村」の川村社長だった。 


何故、川村社長が、同席したのか、分からない。


状況が良く解らない。

ただ、彩乃が、その広告に出演すれば、「コロ」の死んだことは忘れる。

ただし、新しく、うさぎは購入してもらう。

柚葉が、そう云って約束した。


彩乃は、少し、考えたい。

と云って、その日は帰った。


翌日、学校の教室に、うさぎの死骸が遺棄されていた。

美加が、教室へ入って見付けた。

学校は、大騒ぎになった。


彩乃が咄嗟に思ったのは、「コロ」だ。

前日、柚葉が、死んだと云った「コロ」だ。


だから、教室に、うさぎの死骸を遺棄したのは、柚葉だと確信した。

そして、うさぎの死骸は、「コロ」だと思った。


更に、イベントに参加したバレーボール部員の一人から話しを聞いた。

チケット代金の一部を返金されたそうだ。

柚葉に礼を云うと、早く決めて。と云われた。

勿論。広告に出演する事だ。

彩乃は、これは、脅しだと思った。


うさぎの死骸を見付けた美加は、衝撃が大きかったのか、不登校、学校へ登校出来なくなった。


早く解決しないといけない。

そして、葛西広告事務所を訪ねた。

川村社長も一緒だった。


彩乃は、広告出演を承諾した。

川村社長から、柚葉との関係を尋ねられた。


おそらく。その時だ。

「殺したのか」と弘田が聞いていたのは。


「その、殺したのか。と云うのは」

林刑事が、彩乃に尋ねた。

それは、うさぎの事だった。


えっ。

拍子抜けした。

弘田が聞いた「殺した」と云うのは、うさぎの事か。


その後、どうしたのか、柚葉の所に、もう一羽うさぎが、やって来ていた。


どういう事だ?

西入浜のペットショップで、うさぎを購入したのは平野だ。

秋山が、目撃者を見付けたそうだ。


平野は、音楽教室ではなく、平野スタジオで、生徒にレッスンをしている。

そして、発表会として、イベントを設定しているのが、葛西の葛西広告事務所。


葛西と平野は、かなり親しい仲だ。

だから、葛西が平野に、うさぎの購入を依頼したのか。

川村社長が、平野に、うさぎを手配するように、指示したのだ。


「川村」へ行こう。

三好刑事が頷いた。


「それで、その友達に、許してもらったのか」

林刑事は「コロ」が死んだ事を許してもらえたのか尋ねた。

ふと、気になったからだ。


「いいえ。でも、死んだ、うさぎは、コロではなく、ラブでした」

彩乃が云った。


林刑事は、辛抱強く、彩乃の話しを聞いた。

課長から、相手は、中学生だ。

くれぐれも慎重に。と指示されていた。


しかし、さすがに、痺れが切れた。

「ラブ」でも「コロ」でも、うさぎが死んだ事に、変わりはない。

そう、林刑事は、云った。


彩乃は、堪えない。

「実は、下級生の部員から聞いたんです」

美加が、教室へ遺棄された、うさぎの死骸は、「ラブ」だと云った。


「ラヴ」でも、「コロ」でもない。

柚葉が、「ラヴ」とすり替えた、「ラブ」だった。


美加は、小学校で飼育していた、うさぎを全部見分ける事が出来る。


美加が、二羽を譲り受け、中学校で、飼育していた。

中学校で飼育してい二羽は、「ラブ」と「ミミ」だ。

ところが、学校の「ラブ」が柚葉の「ラヴ」に、すり替わっていた。


だか、林刑事には理解、出来ない。

「それが、何か」


柚葉は、「コロ」が、彩乃に殺されたと云った。


柚葉が、美加に返そうとしたのだろう、うさぎは、見付かった。

千景の父親が見付けた。


その、うさぎは、栗林南警察署に、届けている。

美加に、うさぎを見てもらえば、その、うさぎが、どこで飼われて居た、うさぎか、分かる筈だ。


だから、南警察署に届けている、うさぎを美加に確認してほしい。

と云った。


「許してもらう前に、柚葉は、殺されました」

だから、あの、うさぎが、「コロ」かどうか知りたい。

彩乃が、そう訴えた。


不思議だ。

娘は、一体、どこに関心を持っているのだろう。

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