6.入団

「バレーボール対決や、なかったんや」

千景は、拍子抜けした。


ずっと、美加の話しに、聞き入っていた。

美加と下村さんの、一対一のバレーボール対決。

話しは、佳境に入った。


対決は、どうなったのか。

と心躍った。


そして、下村泰子さんから、意外な申入れがあった。


「私も、政木さんを殺した犯人を探す」

下村さんが云った。


下村さんは、美加が、柚葉を辱めるような事を云うと、思っていない。

だから、不登校になって、転校する理由が解らなかった。


こんな事になってしまつて、悪かったと、思い悩んでいた。

そんな時に、美加から連絡があった。


柚葉の事だろうと分かった。

だから、下村さんは、美加に協力する。

柚葉を殺害した犯人を美加と一緒に、突き止めようと思った。


それでは、千景も始動だ。

まずは、柚葉の自宅で飼っている、うさぎだ。


お父さんから助言された。

一つずつ、調べて行けば、必ず、謎の野球部員に辿り着くと。


そこで、千景は、うさぎの方面から調査する。


男が西入浜のペットショップで、穴うさぎを購入している。

時期的には、うさぎの死骸遺棄事件の前後だ。


その穴うさぎが、柚葉の自宅で飼っている、うさぎだとすると、男と関係している事になる。

その男が、謎の野球部員なのかもしれない。


しかし、柚葉が、亡くなったので、自宅へ訪問し辛い。

もう、病院から戻って、葬儀も終わっている。


事情が、事情なだけに、生徒で、葬儀に参列したのは、ごく、親しかった数名だけだった。


本来、美加も参列する筈だった。

美加も柚葉と親しい生徒なのだが。


柚葉の殺害現場に、美加が居た。

警察に解放されたとはいえ、両親は、どのように思うか分からない。


だから、美加は、遺族の事を慮って、弔問を控えた。

千景にしても、今更、弔問するのも可怪しな話しだ。


でも、考えていても事は始まらない。

また、学年主任の川口先生に協力をお願いしようと思っている。


川口先生に連絡を取った。

川口先生は、柚葉の葬儀に参列している。


今回の事件について、保護者説明会で話した内容を直接、柚葉の両親にも説明した。


両親は、怒りや憤りの、持って行き場が無かった。

だから、川口先生に、矛先を向けた。

確かに、謎の野球部員が校庭内に侵入している。

転校した美加も校庭内に入っている。


学校側に、決して落ち度が無かった訳でもない。

だから、柚葉の両親が怒るのも、無理はない。


そこへ、また、川口先生に柚葉の自宅を訪問するように、依頼するのは、気が引ける。


だったら、千景が直接自分で訪ねれば良い。

そんな事は、分かっている。

自分で動け。と云う事くらい、分かっている。


千景は、美加と違って、手早く行動出来ないでいた。


川口先生は、それでも引き受けてくれた。

柚葉の両親を訪ると云ってくれた。


ところが、意外な所から意外な話しが、持ち上がって来た。


「おい。チカ。政木さんの家、知っとるか」

お父さんが、千景に尋ねた。


お父さんは、柚葉が殺害された事件の後、情報を求めていた。

石木中学校の校区内を「何でもするゾウ」のチラシを配って歩いた。


そのチラシを柚葉の両親が見ていたのだ。

柚葉が、大切にしていた、うさぎ。

両親は、うさぎの処分に困った。


そして、水曜日。

柚葉の両親は、チラシの電話番号に、連絡を入れた。


電話で対応したのが、「何でもするゾウ」に出勤していた、お父さんだった。


柚葉が飼育していた、うさぎ。

新しい、飼い主を探して欲しいという依頼だったそうだ。


それで、お父さんが引き受けた。

勿論、「何でもするゾウ」の寺井社長には、報告している。


少し怪しんでいるのを横目に、事務所を飛び出した。

そして、柚葉の両親を訪問する前に、帰って来た。


お父さんは、校区内を歩いたが、肝心の柚葉の自宅を確認していなかった。

それで、千景に柚葉の自宅を尋ねた。


千景は、お父さんに、柚葉の自宅を説明して云った。

「そしたら、お父さん。お願いします」

千景は、お父さんに頼んだ。


お父さんの云う、地道な調査をお父さんが担当する羽目になった。

お父さんは、柚葉の自宅へ向かった。


お父さんは、とても、役に立つ。

「行って来たぞ」

お父さんが帰って来た。


お父さんが、柚葉の両親から聞いた話しを説明した。


柚葉は、石木葛原小学校から、うさぎの「ラヴ」譲り受けた。

すぐに、もう一羽、同じ、穴うさぎを購入した。

柚葉は、「ロン」と名付けていた。


「えっ!」

驚いた。

柚葉は、二羽の穴うさぎを飼っていた。


小学校の卒業式前から、学校は一斉休校になっていた。

皆、外出を自粛していた。


外出を自粛していなくても、千景は、柚葉の家へ遊びに行く事は無いだろう。

しかし、美加は、柚葉の家を訪れてはいないのだろうか。


彩乃は、どうも、柚葉の家を訪ねていたようだった。

以前、彩乃を誘って、柚葉の家を訪れた事がある。


その時、柚葉は、歌のレッスンで自宅に居なかった。

帰宅するのは、午後八時を過ぎるとの事だった。

彩乃も知っている筈だと、云わんばかりに、柚葉の母親が云っていた。


勿論、彩乃が、忘れていたのかもしれない。

しかし、彩乃が、よく柚葉の自宅を訪れていたからこそ、母親は、怪訝な表情をしていたのだろう。


つまり、彩乃は、柚葉の家に、うさぎが二羽居た事を知っていた。


ただ、千景が柚葉の自宅を訪れた時には、うさぎは、一羽しか居なかった。


だから、どうだ。と云われれば、云い返しようが無いのだが。


お父さんが、柚葉の母親から聞いた話しは続く。


ある日、二羽のうさぎを庭に放して、遊ばせていた。


突然、一羽が逃げ出した。

玄関から庭に、直接出入り出来る門扉の隙間から逃げたのだ。

柚葉が、慌てて探したが見付からなかった。

その日、逃げたうさぎは、戻って来なかった。

家の周囲は田畑だから、危険は無いと思っていた。

翌日、柚葉が学校から帰宅すると、逃げたうさぎが戻っていた。


以来、庭に、うさぎを放す時は、門扉の隙間を板で囲っていた。


ところが、また、ケージから、一羽のうさぎが逃げ出した。


うさぎを放して、遊ばせていた訳でもない。

今度は、何日か後に、戻って来た。


「それでなあ」

お父さんが、思考を誘導するように云った。


最初に、うさぎが逃走したのは、中学校で飼っていた「ラブ」が逃走した時期と重なる。


「それじゃあ。二度目の」

千景は、釣られて、尋ねようとした。


「その通り」

千景は、まだ、先を云っていないのだが、お父さんが、話した。


二度目にうさぎが逃走したのは、西入浜のペットショップで、男が、穴うさぎを購入した時期だと云った。


やはり、何か関係があるんだ。


着信音。

スマホを見てみると、メッセージだ。


「今日の夕方、六時に、カクヤのイートインでお話しがあります」

下村さんからだ。

カクヤは、丸肥町の大型商業施設に入っているスーパーだ。


そうか、美加さんが、下村さんを入団させたのだ。


「美少女探偵団」

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