5.始動

美加は、丸肥中学校で、バレーボール部に入部していない。

入学早々、事件に、巻き込まれた。からでは、ないらしい。


今は、新しい中学校に、慣れる事が先決だそうだ。

成程。確かに、その通りだ。


それに、もう来年は、高校受験だ。

だから、受験勉強を始めようと思っているそうだ。


凄い。

もう、すっかり立ち直っている。

しっかり、計画を立てている。


美加は、バレーボール部の下級生と会った。

小学校の、クラブの時から親しかった

そして、美加が、下級生と会った。


その状況は。

「大丈夫なんですか?」

その、下級生が云った。

言葉遣いは丁寧だが、親しみは無くなっていた。

壁を感じたそうだ。


小学校の頃は、随分と親しかった。

中学校でも、夏休みまでは、親しかった。


一体、何があったのか。

「私の何が、いけなかったの?」

美加は、最初の計画通り尋ねた。


「何がって。あんな事をして、悪かったと思わないんですか?」

美加を睨み付けて云った。


柚葉に云った言葉を思い出せ。

その言葉に、柚葉が、どれだけ傷付いたか、考えたことが無いのか。


美加は、柚葉に、イベントのチケット代を返金して欲しいと云った。

酷い事は云った覚えが無い。


しかし、その下級生は、美加が、柚葉に、どんな酷い事を云ったのかは、全く云わなかった。


何故か、興奮していて、云いたいように、罵るばかりだった。


その下級生は、云いたい事だけ云うと、二度と連絡しないで。

と念押しした。


美加が転校して、清々した。

と捨て台詞を吐いて、帰って行った。


美加は、意気消沈した。訳では、なかった。

返って闘志が湧いて来たそうだ。


そう。

もう、本来の美加が復活した。


美加が、どんな酷い事を柚葉に云ったのか。

内容には、一切触れなかった。


美加は、柚葉に酷い事を云った覚えが無い。

つまり、誰かが、虚言を云い触らしているのだと、思ったそうだ。


ただ、どのような事を云ったのか、不明だ。


「でも、後は、誰に聞くつもなん?」

千景は、心配になった。


美加が、次は、今の新入生を考えていると云った。

同じように、二学年下に、同じように、親しかった下級生がいる。

美加が、転校して入れ替りに入学した。


「でも、対立した当時を知らないから、分からないんやない?」

千景が云った。


「そっか」

美加が気付いた。


美加は、暫く考えた。

「しょうがない」

美加が、覚悟を決めたように云った。


「もう、決まったんやな」

千景が云った。


美加が、頷いて話し始めた。

美加と同じポジションの下級生が居た。

名前は、下村泰子。


新入生なのに、美加とポジションを争うライバルだった。


「ああ。下村さん」

千景も知っている。

常に、美加と競い合っていた。

春の球技大会で、美加のクラスを破った。


下村さんが話す内容は、美加を批判する事だけだった。


だから、自然と、お互いに、話す事も失くなった。


だから、美加と会う事は、ないと思う。

「そうかもしれん。でも、そうでないかもしれん」

美加が云った。


美加が、これから連絡してみると云った。


千景も行動派なのだが、美加は、桁違いに行動派だ。

しかも、手早く、きちんと計画を立てている。


美加が、下村泰子さんを呼び出し、すぐに会った。


「なんで、転校したんですか?」

美加より先に、下村さんが尋ねた。

その目は、美加を軽蔑しているようだったそうだ。


美加は、断られると思っていた。

断られた時は、奥の手を使うしか無い。


しかし、意外にあっさり、呼び出しに応じた。

そして、美加を詰った。


下村さんが、美加に云った。

あれくらいの批判で、負け犬のように、不登校になったり、転校したりするとは思わなかった。

と云う。


「そう。私も信じられなかった」

美加が頷いた。


「私は、柚葉に言うたんや」

そして、説明した。

確かに、バレーボール部の皆に、柚葉のアイドル活動を応援してほしいと云った。


だから、夏休みに、バレーボール部の皆が、柚葉の出演するイベントのチケットを購入した。


「だったら、夏休みだし、イベントへ行っても良いんじゃないですか」

下村さんが、やはり、非難した。


どうせ、新入生は、試合に出られないし、たった三日間のイベントくらい、行っても良いと思う。

と下村さんが云った。


しかし、三年生にとっては、最後の大会。

練習に協力するのが、それ程苦痛なのか。


「けど、もう皆、チケット、買ってたし」

下村さんが、云った。

柚葉から、払戻しは出来ないと聞いていた。

だから、三日間のイベントを皆で分散して購入していた。


「チケット代の返金は、柚葉が約束したんだけど」

美加は、柚葉にチケット代の返金交渉をした。


最後には、柚葉が返金を応じる。と約束した。


「知ってます」

下村さんが云った。

そして、下村さんが、意外な事を云った。


柚葉が美加に。

「どうせ、スポンサーの津和木から、得体の知れない金が、入るんだから」

と云った。

下村さんに限らず、下級生全員が、そう聞いたそうだ。


「ちょっと、待って」

美加は、感じた。

何か可怪しい。


美加は、そんな事を云っていない。

誰かが、そんな事を云ったのか。


「柚葉は、美加から、そう言われて、返金する事にした」

そう、下村さんは聞いていた。


ただ、金の出どころの事だから、皆、そんな事も、あるかもしれないと思った。


だから、何も云わなかった。


チケット代は、一枚三千円。

イベント会社が販売する。


しかし、イベントに出演する柚葉も、チケット販売をする事がある。

その場合、チケット一枚三千円の内、千円がイベント会社の儲け。

二千円が出演者、つまり柚葉の手に入る。


勿論、イベント会社は、広告費や会場費、設営費を負担する。


だから、イベント会社は、スポンサー会社が大切になる。

それが、地元の津和木だ。

その津和木から柚葉に金が入る?

どういう事なのか。


「ねえ。もう少し、詳しく教えてくれない」

美加が、下村さんに云った。


「良いけど、条件がある」

下村さんが云った。


もし、今日、下村さんに、会う事を拒否されたら、バレーボールで対決を申入れるつもりだった。

一対一のバレーボール対決だ。


下村さんは、対決と聞けば、必ず来る。

しかも、美加は、絶対に勝つ自信があった。

美加は、下村さんの弱点を見付けていた。


下村さんは、力強い、強烈なスパイクを打つが、強引過ぎて、バランスを崩す。

そこを攻撃すれば、必ず勝てる。

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