4.探偵団

「そうか」

お父さんが頷いた。


お父さんに、美加と協力して、丸肥町のペットショップで、うさぎを購入した男を探し出す事を話した。


お父さんは、月曜日の朝、七時半頃、アルバイトから帰宅した。

アルバイト先のスーパーで、惣菜の鯖の棒鮨を買って帰った。


鯖の棒鮨は、アルバイトの時給単価よりは、安いそうだ。

だが、千景が頼んでいた、ミックスサンドを買うと、時給単価を超えるそうだ。


お父さんが、帰って来たので、少し遅い朝食のため、居間へ降りて行った。


今日と明日が、お父さんの休日だ。

だから、千景は、オンライン授業の始まるまでの間、土曜、日曜日の行動を話している。

千景は、ミックスサンドを噛りながら、お父さんに、話しをしている。


「けど、危険な事は、するなよ」

お父さんに釘を刺された。

危険を察知したら、走って逃げる。

お父さんの口癖だ。


お父さんは、鯖の棒鮨を肴に、缶ビールを飲んでいる。


「それで、何から始めるんや?」

お父さんが聞いた。


「謎の野球部員から」

千景が答えた。

美加と二人で、土曜、日曜日の二日、調べる事にした。


謎の野球部員は、西の搬入口から、川沿いの道を南に向かって行った。

そして、東に向かって歩いて行った。

後は消息不明だ。


「けど、それは、警察が追ってるやろ」

だから、美加が帰されたと、お父さんが云う。


「でも、他に」

千景は、反論しようと思った。

そう、他に、手掛かりが無い。


「だから、出来る事をやれば良いんや」

先ずは、柚葉の自宅で飼っている、うさぎの状況を確認する事。


今回の事件の始まりは、うさぎの逃亡からだ。

関係しているのは、柚葉が飼っていた、うさぎだ。

柚葉は、小学校から譲り受けた、うさぎ「ラヴ」を自宅で飼っていた。


美加は、中学校で飼育している、うさぎ「ラブ」が、柚葉が自宅で飼っている「ラヴ」とすり替わったと疑っている。

「ラブ」が飼育ケージから逃亡した時からだ。

確証は無い。


次に、美加と対立した、下級生のバレーボール部員の件だ。

何故、対立したのか。

これは、大人数だから、中には、口を滑らせる生徒もいる筈だ。


お父さんが、そうやって、少しずつ解明出来れば、謎の野球部員に辿り着く筈だと云った。


「でも、美加は転校したし、今更、下級生のバレーボール部員とは、会えないでしょう」

千景は、美加の事を心配して云った。


「そうかなあ」

お父さんは、否定した。


多分、当時、美加は、一人で悩んでいたのだろう。

しかし、今、千景が味方に付いた。

転校しても、一緒に、柚葉を殺害した犯人を捕まえようとしている。

もう、自信を取り戻した筈だ。

と、お父さんの見解。


千景は、美加が立ち直ったと云う見解に、少し、誇らしく思った。


「もう一つ。相談」

千景は、お父さんに云った。


「美少女探偵団」に、彩乃を誘おうと思っている。

「美少女探偵団」は、千景と美加、二人のグループ名称だ。


彩乃は、バレーボール部の新キャプテンになった。

元キャプテンの美加と一緒には、し辛いかもしれない。


「おお。随分と成長したんやなあ」

何故が、お父さんが感心して、助言した。

良く分からない。


お父さんの提案は。

千景は、柚葉の、うさぎを担当する。

美加が、バレーボール部と対立した原因の調査を担当する。


美加が、バレーボール部と接触していれば、嫌でも、彩乃の耳に入るだろう。


それで、彩乃から、協力の申入れがあれば、「何とか探偵団」に誘えば良い。

そう云って、お父さんは、寝床へ向かった。


もうすぐ、オンライン授業の時間だ。

千景も、紅茶を飲み干して、勉強部屋へ戻った。


今日から、当分の間、オンライン授業だけになる。

当分の間と云うのは、柚葉を殺害した犯人が、捕まるまでという意味だと思っている。


授業は、主要五教科だけ。

だから、五時限までだ。

クラス毎の授業になっている。


昼休み。

居間に降りて行くと、お父さんが、昼食を作っていた。


ご飯と油揚げの味噌汁、玉葱とキャベツのスライスサラダ、豚の生姜焼きだ。


キャベツは、まあ、良いのだが、玉葱のスライスは、辛くて食べられない。

一度、辛すぎると、文句を云った。


だか、それからは、いつも、お父さんが食事の支度をすると、もれなく、必ず、玉葱のスライスが付く。

きっと、文句を云った事に対する、嫌がらせだ。

千景は、呪いの言葉を呟きながら、昼食を完食した。

えっ。玉葱のスライスは、どうしたのかって?

勿論、食べた。

豚の生姜焼きの、タレに浸して完食した。


昼食の後、美加にメッセージを送った。


丸肥中学校は、対面授業だ。

しかも、石木中学校と同じく、スマホの持ち込み禁止だ。

だから、当然、下校するまで、既読にならない。


オンライン授業が終わって、二時間後、千景から美加のメッセージが既読になった。

そして、美加から、メッセージの書込みがあった。


美加には、小学校の頃、石木スポーツクラブで、一緒だった下級生がいる。


昨年、夏の大会までは、仲が良かったそうだ。


今、連絡を取っている。

一度、会って、話しを聞いてみるとの内容だった。


千景は、美加が、行動を起こした事をお父さんに伝えた。


「良かったのお」

お父さんは、喜んでいる。


そして、その下級生も「何とか探偵団」に誘って、入団してもらえば良い。

と、お父さんは、都合の良い事を云う。


そして。

「何とか探偵団」では、ない。

「美少女探偵団」。

千景は、云い切った。


「まあ、西田さんや辻倉さんなら、そうかもしれんけど」

お父さんが、少し考えてから云った。


お父さんが、千景の膨れっ面を見て云った。

「あ。いや、チカが、美少女じゃないって言うとる訳やないで」

ただ、美少女というより、まだあどけないと云うか、可愛らしい、と云う表現の方が、似合うかなと言い訳した。


自分の娘に、千景に対して、随分と、失礼な事を云った。


だから、千景は、誓った。

何を誓ったかは、秘密だ。

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