3.タッグ
「ラブが逃げた時。覚えてる?」
美加が、尋ねた。
千景は、頷いた。
久しぶりに会った美加は、血の気の引いた、青白い顔をしていた。
柚葉と仲違いしたのは、その時からだ。
昼休み、ラブが逃げた。
千景と彩乃は、ラブを探した。
昼休みが、終了して、うさぎの飼育ケージを見ると、うさぎは、二羽居た。
元々、飼育していた、うさぎは二羽だった。
「ラブ」と「ミミ」だ。
だから、千景と彩乃も、美加か、あるいは、他の誰かが捕まえて、ケージに戻したのだろうと思った。
「でも、戻ったのは、違う、うさぎだったの」
小学校から美加は、二羽、譲り受けた。
柚葉も一羽譲り受けていた。
美加は、あの日、ケージに戻っていたのは、「ラヴ」ではないかと思った。
「ラヴ」は、柚葉が譲り受けた、うさぎだ。
柚葉は、自宅で飼育していた。
だから、柚葉が「ラブ」と「ラヴ」をすり替えたのではないかと思った。
誰も、うさぎに関心が無い。
だから、誰も見分けが付かない。
美加にしても、「ラブ」と「ミミ」は、見分けられる。
しかし、今、飼育ケージに居る、うさぎが「ラヴ」だとは、断言出来ない。
直接、柚葉に確認出来なかった。
以来、美加は、「ラヴ」らしい、うさぎの世話をしていた。
その頃から、柚葉の態度が変わった。
勿論、美加の疑心を柚葉が感じ取ったからなのかもしれない。
そして、その頃から、一年生のバレーボール部員とも、折り合いが付かなくなった。
直接の原因は、柚葉が出演するイベントのチケットの購入代金の返金だった。
夏休みの終りに、バレーボール大会があった。
バレーボール部員は、夏休みも練習する事になっている。
これは、毎年の事だ。
だから、皆、知っている筈だ。
そして、夏休みに、柚葉の出演するイベントと重なった。
何故、一年生のバレーボール部員が、チケットを購入したのか理解出来ない。
更に、一年生の反発し始めたのが、美加が、キャプテンになってからだ。
千景は、どう考えても、誰かが、扇動しているとしか思えなかった。
そんな問題を抱えて、更に、美加は、心配していた。
「ラブ」はどうなったのか。
「ラヴ」かもしれない、うさぎは、学校の飼育ケージで、暫く落ち着かない様子だった。
元「ラブ」のケージを掃除して、「ラブ」の臭いを消した。
暫く、「ラヴ」かもしれない、うさぎのケージにシートを掛けて、環境に慣らした。
「美加。ペットショップで、何故、うさぎを購入しようとしてたの?」
千景は、尋ねた。
「ラヴだと思うんだけど、保たないかもしれないと思ったの」
ラヴらしい、うさぎが、死ぬかもしれないと、美加は思った。
美加は、うさぎが、何か中毒を起こしているように思ったそうだ。
だが、暫くして、症状は改善した。
そして、落ち着いたと思った頃。
教室で「ラブ」の死骸を見付けた。
紛れもなく「ラブ」だった。
もう、これ以上、この学校では居られないと思った。
そして、転校を決めた。
「実は、美加がペットショップで、うさぎを購入しようとしていた、同じ時期に、うさぎを購入した男がいたのよ」
千景は、美加に伝えた。
柚葉が、殺害される前日。
柚葉から連絡があった。
「忘れ物があるから、明日、いつもの時間に来て」
というメッセージだった。
時間も場所も、指定していない。
いつもの時間と云われて、思い当たるのは、午前六時四十五分頃。
場所は、勿論、西の中庭、うさぎの飼育ケージ前、だった。
そうすると、忘れ物は、二羽のうさぎだろうと思った。
ただし、「ラブ」は死んでしまった。
だから、「ミミ」と「ラヴ」なのかと思った。
もし、そうなら、自宅で飼育しようと思っていた。
ただ、二羽の、うさぎは、学校が責任を持って飼育すると聞いている。
だから、少し可怪しいと思った。
午前六時五十分前に、うさぎの飼育ケージ前へ行った。
柚葉が倒れていた。
後は、皆の知っている通りだ。
柚葉が、当日、その時間、その場所へ行く事を知っていたと思われる。
しかも、当日、野球部とサッカー部の朝練がある事も、知っていたと思われる。
だから、朝練に参加する、野球部員になりすまして、校庭に侵入出来た。
事前に準備していたのだ。
これは、学校の情報を詳しく知っている事になる。
つまり、犯人は、学校の教師、生徒を含めて、学校関係者かもしれない。
あるいは、学校関係者に、犯人の協力者が居るのかもしれない。
警察は、謎の野球部員を追っている。
防犯カメラ映像も残っている。
しかし、捜査に進展はない。
「もしかしたら、うさぎを購入した男が、柚葉を殺害した、犯人やないかなあ」
千景は、想像した事を打ち明けた。
えっ!
美加が驚いている。
「なあ。美加。タッグ組まない?」
千景の、思いもよらない提案に、美加が唖然としている。
「こんな、やられっぱなしで、黙ってられんやろ」
千景は、更に焚き付けた。
美加が、満更でもない表情で、千景を見ている。
やっと、昔から知っている、美加の表情に戻った。
明るく活発で、自信に満ちた表情だ。
顔に血の気が戻ったようだ。
だから、ちょっと、意地悪を云ってみたくなった。
「それはそうと、大西君。大胆な事したわね」
千景は、澄まして云った。
美加も、大西君が、警察へ出頭した事を聞いて、知っていた。
美加の顔が、薄っすらと、赤くなった。
が、まだ、足りない。
「思い込むと、何するか分かんないね。特に、美加の事になると」
千景は、追討ちを掛けた。
今度こそ、美加は、正真正銘、顔を真っ赤にした。
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