1.クラス

朝会の後、クラスのグループメッセージで、学校へ行くかどうかを書込みし合った。


学校へ行く。と答えたのは、二名だけだった。


オンライン授業にすると答えたのが、二十二名だった。


残りの十一名は、まだ決めていないとの回答だった。


千景は、まだ、決めていないと書込んだ。


そして、今日、千景は、学校へ登校した。

お父さんの車で、送ってもらった。

学校から、保護者へ極力、送迎するように、要請していたからだ。


到着すると、学校の要請通り、東校門から運動場に入ってから、車を降りた。


校門の周囲を報道関係者が、カメラを抱えて待ち構えている。


三年生の教室がある新館へ向かった。

「おはよう」

怜奈が居た。


「今日。奥の空き教室やなあ」

千景が云った。


「それに、給食が無いから、昼までやし」

怜奈が云った。


しかし、事件の事については、一切会話しなかった。


三組で登校して来たのは、千景を含めて四名だった。

怜奈の他は、男子二名だ。

さすがに、大西君は、来ていなかった。


三年生、全体で二十三名だった。

三年生は、五組の隣の空き教室に、全員集合した。


時間割は、特別に組まれている。

クラスによって、若干、授業の進捗度合が違う。

既に受けた授業については、復習のつもりで受けるように注意があった。


二限目、川口先生の国語の授業だった。

普段と違い、淡々と授業は、進行して終わった。

十分間の休憩時間に、廊下で話しをした。


「美加。西田さんを訪ねても良いでしょうか」

千景は、川口先生に相談した。


「行っても良いけと、会えないと思うよ」

川口先生が云った。

「教頭先生が訪ねけど、会えなかったし」

川口先生は、状況を伝えた。


「でも、このままやったら、美加が」

千景は、云いかけて、言葉が出て来ない。

「可哀想」でも「悔しい思い」でもない。

どれも表現が違うと思った。

でも、このままでは、千景自身が治まらない。


学校での授業は、四時限で終了した。

給食が無いからだ。

意外と静かに、授業は終わった。

授業中、事件に関する発言は無かったからだ。


午後の五時眼、六時限は、オンライン授業になる。


それなら、最初からオンライン授業にすれば良いのに。


午後零時三十分に下校した。

勿論、お父さんに連絡して、迎えに来てもらった。

他の登校した生徒も、全員、保護者が送迎した。


本来、学校へスマホの持ち込みは、禁止されている。

持ち込んでしまった場合は、担任教師に預ける事になっている。


現在は、特殊な状況なので、マナーモードか、電源を切って、スマホの持ち込みが許可されている。


オンライン授業が終わった。

最後まで、大西君は、授業に出席しなかった。


「大西君。何で、出頭したんかな」

既読数が、書込んだ生徒以外の全員になった。


それから、グループメッセージの際限の無い書込みが始まった。


「謎の野球部員って、誰だろ」

「美加が犯人か?」

「美加が謎の野球部員かな」

「バットが凶器なんやろ」

あっと云う間に、次々と書込まれる。


最初は、皆、疑問の書込みばかりだった。

そして、皆がその疑問に対する考えを書込み始めた。

「大西君は、美加が好きだった」

「大西君が、塚本君を支援教室まで、見守っていたんや」

「だから、いつも八時半、ぎりぎりやったんやなあ」

「私は、今回の事件が起こるまで、塚本君を。いや、支援学級の人を知らなかった」

「高木君や薮内君は、途中で塚本君を放置していたのは、無責任だ」

「考えてみて、毎日よ。それをただ、家が近所だからといって毎日は、酷い」

「そうやな、皆で交替に付き添うべきだったな」

「謎の野球部員は、美加ではない」

「多分、バットが凶器やな」

「そう言えば、死因を知らんな。誰か知ってる?」

「知らない。でも、警察が、バットを持った、謎の野球部員を探しているのだから、バットじゃないかな」

「バットじゃなくて、バットケースね」

「失礼しました」

「そもそも、野球部員なのか?」

「それを言うなら、そもそも、この学校の生徒なのか?」


正体不明の生徒が校庭に入っていた。

それ自体、大問題なのだが。

正体不明の生徒が、柚葉を殺害した犯人だと思われている。


ジャージの上下に、野球キャップを目深に被っていた。

バットケースを肩に掛けていれば、野球部員だと思っても仕方が無い。


更に、新型コロナ感染拡大以降、マスクは必須だ。

決して不自然ではない。

マスクを着けていれば、誰だか判らない。


だから、正体不明の生徒は、生徒とは限らない。

「それにしても、謎の野球部員は、何で、柚葉を殺害したのか」


同じような内容の書込ばかりだが、気になる書込みがあった。

「柚葉の言っていた、美加の忘れ物って何かな」

「うさぎじゃないかな」

「うさぎの死骸事件に、関係あるんかな」

二年の三学期、中間テスト直前の事件だ。

確かに、美加が不登校になった時期だ。


いや、もっと前だ。

美加と柚葉が、仲違いした時からだ。

理由は、柚葉が、夏休み開催イベントのチケットをバレーボール部員に販売していた。

夏休みには、バレーボール部員は、大会に出場する練習のため、イベントに行けない。

だから、チケット代を返金するように交渉した。

と云う事だった。

それ以来、美加と下級生のバレーボール部員から、反発されるようになった。


本当に、それが原因なのか。


その後、美加は、ペットショップで、うさぎを購入しようとしていた。

何のためか、分からない。


確かに、穴うさぎを購入した男が居る。

美加ではなく男だ。


その男か。

「謎の野球部員」

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