9.振出し

「先程、大西君と話しました」

教頭先生が校長先生に報告した。

二人に、会いに行く訳にもいかず、電話で話しをするだけに留めた。


大西君は、西田さんを庇って、自分が犯人だと名乗り出たのだった。

理由は、話さない。


弘には、ある程度、察しが付いている。

大西君は、西田さんに、好意を抱いていると考えている。


千景が話していた。

うさぎが、飼育ケージから逃げた時の話だ。

大西君は、うさぎを捕まえて、西田さんに、渡したそうだ。

その時に、西田さんは、大西君に好意を持っていると思ったそうだ。

そして、大西君も、西田さんに。と思ったそうだ。

千景が、燥ぐように話していた。

燥いでいるが、嬉しそうでは、なかった。

弘としては、ちょっと複雑な気持ちになる。


大西君は、事件当日の犯行時刻に、どの防犯カメラにも、映っていなかった。

午前八時二十分過ぎに、西の搬入口に現れている。


警察は大西君について聞込み捜査した。

大西君は、毎日、塚本を見守り登校していたのではないかと考えている。

ただ、これも理由は、分からない。


実は、保護者説明会の後、二人とも、自宅へ戻っている。

警察は、報道関係者に見付からないように、苦労したようだ。

ちょうど、保護者説明会が、あったので、報道関係者は、そちらに注目していた。


四十八時間には、まだ十二時間あった。

詳しい状況は、明かされていない。


学校は、オンライン朝会の翌日から、オンライン授業を開始する。

新型コロナの影響で、オンライン授業の準備は、出来ている。


警察は、校内の防犯カメラ映像を確認していた。


事件発生当初から、警察は、西田美加が犯人だという事に、疑問を持っていた。

凶器を持っていなかったからだ。

現場にも凶器は、無かった。

犯人が凶器を持ち去ったと考えている。


勿論、西田美加が、政木柚葉を殺害して、共犯者に凶器を渡した可能性もあるが。

しかし、それらしい共犯者はいない。


警察が注目しているのは、西の搬入口だ。

西の搬入口から、校庭に入った者だけに限ると、次のようになる。

午前六時三十分頃、サッカー部員が、西の搬入口から登校した。

午前六時三十三分、野球部員と思われる生徒が登校した。

午前六時三十五分頃、政木柚葉が登校した。

午前六時四十四分、西田美加が校庭に入った。


そのすぐ後、岡野先生が現場で西田美加を見ている。

政木柚葉がうさぎの飼育ケージの前で、倒れていた。


警察は、一旦、西田美加を保護した。

事件前日、メッセージアプリで、政木柚葉から呼出された。

うさぎの飼育ケージの前で待っている。

という内容だった。

午前六時四十五分頃、西の搬入口から校庭へ入った。

これは、防犯カメラに映っている。

約束の場所へ行った。

政木柚葉が倒れていた。


警察は、朝練に登校していた野球部員とサッカー部員に事情聴取した。

野球部員の中に、正体不明の生徒がいた。

防犯カメラに、野球部員は、五名映っている。

警察が、事情聴取をしたのは、四名だけだ。

一人足りない。

野球部員本人が、映像で確認した。

それぞれ、自分はこれだ。と、自分の映っている映像を特定した。


西の搬入口から最初に登校した生徒は、サッカー部の須本君だった。

その後、登校した生徒が、特定出来なかった。

つまり、正体不明の生徒の存在が判明した。


須本君は、運動場の西側を南から、搬入口へ向かって登校している。

須本君は、少し後から、登校している正体不明の生徒を見ている。


中学のジャージを着用していた。

野球のキャップを被り、バットケースを肩に掛けていた。

それで、須本君は、正体不明の生徒を野球部員だと思った。


普段、朝練に参加する生徒は、ユニフォーム姿で登校する。

しかし、新年度が始まったばかりだ。

ユニフォームが間に合っていない部員もいる。

だからジャージ姿でも、不自然では、なかった。

須本君は、その生徒を野球部の一年生だと思った。


朝練に来ていた生徒は、川口先生から、帰宅するように云われた。

野球部員は、その時、初めて野球部員らしき生徒に気付いた。


キャップを被り、マスクしているので、誰だか分からなかった。

「一年生だと思った」

皆、そう云った。


野球部に入部する新入部員は、大抵、地域のスポーツ少年団に入っている。

石木葛原小学校の生徒も石木竹原小学校の生徒も入っている。

だから、中学校に入学しても、殆どが顔見知りだ。

しかし、キャップを被り、マスクをしていると、誰だか分からない部員もいる。

だから、皆、野球部の新入部員だと思っていたのだ。


警察が考えたのは。

須本君が搬入口から校庭に入った。

直後、正体不明の生徒が校庭に入った。

次に、政木柚葉が、校庭に入った。

正体不明の生徒が、政木柚葉を殺害した。

西田美加が校庭に入った。

岡野先生が、現場を見た。

生徒は、川口先生から臨時休校を告げられ、帰宅した。

正体不明の生徒は、登校時と同じく、西の搬入口から下校した。

須本君は、搬入口から出て、運動場脇を真っ直ぐ、ストンウッド通りへ出て帰った。

正体不明の生徒は、運動場の角から東へ向かった。

その後の消息は不明だ。

警察は、正体不明の生徒を探した。

だから西田美加は、自宅へ戻された。

 

運動場の角から、東に向かうと医療センターがある。

医療センターの、北側の道路を更に東へ向かうと、丸肥町の大型商業施設へ出る。

そこまで出れば、防犯カメラもある。

追跡可能だが、途中の脇道へ逸れると、もう分からない。


事件当日、午前七時頃、臨時休校の保護者メールがあった。

だから、野球部員は、朝練に参加した四名以外、誰も学校へは、来ていない。

野球部員全員に、防犯カメラ映像を確認してもらって、正体不明の生徒について尋ねた。

全員、野球部員、本人では無かった。

誰も見覚えは無かった。


午前七時前に登校した生徒は、野球部員の四名とサッカー部員の四名。

それと被害者の政木柚葉。

元生徒の西田美加。

先生方では、岡野先生、川口先生、教頭先生の三名。


そして、正体不明の生徒だ。

凶器は、鈍器。

金属バット。

正体不明の生徒は、バットケースを肩に掛けていた。

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