8.朝会
「それでは、今回の事件に付いて、説明します」
挨拶も無く、オンライン朝会が始まった。
Web会議室に、どれくらいの生徒が、参加していたのか分からない。
オンライン授業の時は、クラスの出席生徒全員が、数名ずつ不規則に映る。
今日は、先生方だけしか映っていない。
内容は、お母さんから聞いた、保護者説明会と、全く同じだった。
明日から対面授業とオンライン授業を併用する。との事だ。
登校する場合は、集団登校、集団下校を実施する。
班分表を保護者メールで確認するように。との事だった。
生徒のケアとして、学校に、心理カウンセラーを常駐する。
何でも相談するように。
と付け加えて終わった。
何か、質問は無いかと尋ねられた。
誰からも質問が無い。
「それでは、朝会を」
校長先生が、朝会の終了を告げようとした時だった。
誰かが、挙手を押したようだ。
「三年四組の長野です」
千景は驚いた。
長野君とは、二年生の時、同じクラスだった。
スポーツは、苦手だが、主要五教科は、抜群の成績だった。
一年生から、毎年、何学期かで、学級委員長をしている。
しかし、生徒会の委員には就いていない。
目立つ事は、避けているようだ。
全校生徒?を前にして、発言するような男子ではない。
長野君の質問は。
少年Bが自首した。
少年Bを目撃した先生、生徒は居るのか。
また、防犯カメラに映っていたのか。
という質問だった。
校長先生が、先生方に少年Bの目撃を確認していた。
しかし、目撃した先生は、居なかった。
川口先生が、生徒に少年Bと特定せず、誰かを目撃したかと確認した。
しかし、誰も目撃していなかった。
長野君は、授業中に、発表する事も、質問する事もなかった。
周囲に対して無関心だった。
千景だけではなく、皆そう思っているだろう。
それとも、千景だけだろうか。
「分かりました」
長野君の質問は、皆が思っただろう、平凡な内容だった。
誰か、また挙手を押したようだ。
「先生が、Bを目撃したか。と確認した生徒は、誰ですか。私は、三年二組の高木です」
高木君が質問した。
高木君は、ほぼ毎日、遅刻ぎりぎりに登校している。
そんなに早朝から、登校している事が、信じられないと付け加えた。
少し笑いが起った。
岡野先生が、長野君の質問に答えようとした。
また、挙手が押された。
「三年一組の野上です。私が、川口先生から尋ねられました」
野上君は、野球部だ。
朝六時四十五分くらいから、野球部とサッカー部は、朝練をしている。
サッカー部も何人か朝練に来ていた。
挙手だ。
「二年二組の西山です。朝練には、何人参加していたのですか」
千景は、二年生の西山君を知らない。
朝練に参加していたのは、野球部で五名、サッカー部で四名だった。
全員、午前六時三十分頃、登校していた。
川口先生が説明した。
政木柚葉が登校したのと、ほぼ同時刻だ。
また、挙手。
質問は、朝練の参加者が登校した状況だった。
皆、同時刻に登校していた生徒に関心があった。
岡野先生が、防犯カメラの映像を元に、状況を説明した。
朝練に参加した男子のうち、四名は、正門から中央通路を通って運動場へ出ている。
三名は、東校門から、そのまま運動場へ出ている。
二名は、西の荷物搬入口から登校して、運動場へ出ている。
その直後、政木柚葉が西の搬入口から登校している。
朝練の生徒は、まだ、練習を開始してはいない。
各自ウォーミングアップの最中だった。
少女Aが、搬入口から校庭に入って来た。
岡野先生が、少女Aを発見した。
その十数分後、川口先生が、生徒に緊急事態を伝えた。
川口先生は、不審者を見ていないか確認した。
朝練に参加した男子は、少年Bどころか、政木柚葉さえ目撃していなかった。
事件にも気付いてはいかなかった。
午前七時に生徒全員、下校させた。
皆、練習着のまま、制服と通学バッグを抱えて帰宅した。
千景は、朝早くから登校している生徒がいる事は、知っている。
例えば、怜奈だ。
テストの一週間まえから朝七時に登校している。
だが、テストは、まだ先だ。
挙手キーを押した。
「三年二組の秋山千景です。自首した少年Bは、本当に犯人だと思いますか」
千景も、つい質問してしまった。
本当は、少年Bは、誰か?と質問したかった。
学校側が、答えられる訳がない。
だから。
学校側は、少年Bを犯人と思っているかどうか知りたかった。
校長先生が、犯人だとは思っていない。と答えた。
「政木柚葉さんが亡くなった事は、非常に残念だ」
しかし、本校生徒が、犯人で無いと信じている。と云った。
「ありがとうございました」
千景は、お礼を云って、質問を終えた。
長野君が、最初に平凡な質問してから、何人も発言するようになった。
誰も質問をしないと思っていた。
千景も、まさか、自分が質問するとは思ってもいなかった。
もしかしたら、長野君が仕向けたのかもしれないと思った。
しかし、そうだとすると、何が長野君を突き動かしたのだろうか。
あるいは、元々、好奇心旺盛な男子だったのかもしれない。
校長先生は、今、警察で防犯カメラの映像を確認、捜査している。と答えた。
それで、朝会は終了した。
政木柚葉が殺害された現場は、職員室近く。
西の中庭にある、うさぎの飼育ケージ前。
朝七時頃。
現場に少女Aが居た。
少女Aは美加。
防犯カメラには、柚葉が登校した後、美加が、来ているのが捉えられている。
その付近で、職員室の出入口の防犯カメラは、西の中庭に向いていない。
警察では、防犯カメラの映像を確認している最中だ。
それにしても、自首した少年Bが、誰なのだろうか。
朝練の男子ではない。
朝七時前に登校する男子は、限られている。
スマホに、怜奈から着信表示。
グループメッセージの通知が見えた。
「ええっ!」少年B判明。
今度は、スマホに着信音。お父さんから電話だ。
「おい。大西利信君。知っとるか」
お父さんが尋ねた。
既に、メッセージで情報が入っている。
自首したのは、大西君だった。
お父さんがその後、云った言葉に驚いた。
「大西君は、自宅に帰されたで」
どういう事だろう。
自首したのに、自宅に帰された。
「警察で、大目玉喰らって、追い返されたそうやで」
お父さんが云った。
千景は、もしかしたら、大西君が、美加を庇って、犯人だと名乗ったのではないかと思った。
しかし、どうして、大西君は、追い返されたのだろうか。
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