7.保護者メール

今日、午後七時から保護者説明会があった。

お父さんとお母さんが帰宅したのは、午後十一時過ぎだった。

柚葉が、殺害された事件についての説明会にしては、随分と時間が短いと思った。


お母さんの説明では、まだ詳細が不明なので、事実だけの報告だったそうだ。

午後九時頃、保護者からの質問時間になった。

驚いたのは、お父さんが、説明会で質問したそうだ。


最初に、以前、うさぎの死骸が教室に遺棄された事件の事だ。

再発防止のため、防犯カメラを増設した事は、連絡があった。


学校側は、今回の事件と、うさぎの死骸事件の関連についても考えている。との説明だった。

その件について、詳しく警察に説明している。との事だ。

防犯カメラについて、それらしい映像は、捉えられていなかった。


次に、第一発見者の少女Aは、殺害された政木柚葉さんとトラブルがあったと聞いている。

少女Aが、政木柚葉さんを苛めていたそうだが、本当なのか。

少女Aは、今年の四月から隣町の中学に転校した。

状況だけを聞くと、逆、とまでは云わないが、少女Aが苛められていたように思える。

学校は、詳細を把握していたのか。


学校側は、当時、少女Aからも、政木柚葉さんからも事情を聞いている。

また、関係者からも事情を聞いている。

不自然ではあったが、双方の説明は、一致しているように思えた。

しかし、関係者からは、詳しい状況の説明が無かった。

学校としては、徹底的に調査すべきだったと反省している。

お詫びして、済む事ではないが、申し訳なかった。と謝罪した。


少女Aは、政木柚葉さんから呼出された。と聞いている。

どういう事情で、早朝に校内に入る事が出来たのか。

誰かの立ち合いで放課後にしても、良かったのではないか。


学校側は、それも、ご指摘の通りだ。と謝罪した。

三月まで、本校の生徒だったし、前日に政木柚葉さんから申し出があった。

忘れ物を少女Aに渡す、という事だったので、警戒していなかった。

今、考えると軽率だった。


第三に、少年Bが、自首したとの報道もあった。

しかし、少年Bは、犯行時刻に学校へ到着していなかった。

先生方は、少年Bを犯人だと思っているのか。


学校側としては、全面的に、警察の捜査に協力する。

犯人で無い事を祈るばかりだ。

この場で、先生方個人の考えを述べる事は、差し控える。


最後に、政木柚葉さんは、市内のあるレッスン教室へ通っていた。

地方でアイドルを目指す子供が活動するイベント会社やレッスン教室などは、限られている。

その教室の先生は、地元で有名な先生だった。

ただ、その教室の直接ではないが、関係者が、少し前に殺害されているのを知っているか。


少し会場が、動揺したように、ざわついた。


勿論、学習塾などへ、通っている生徒はたくさんいる。

全部を把握する事は、困難だと思う。

現在の保護者メールは、学校側からの一方通行だ。

保護者側から情報提供の出来るツールを検討して欲しい。


学校側からは、現在、情報提供されても、対応できる人員はいない。

情報の真偽も不明なまま、それを保護者へ情報提供する事は出来ない。

また、誹謗中傷の対処ばかりになってしまっても困る。

検討はするが、期待はしないでほしい。と云う事だった。


それで、お父さんの質問は、終わった。

後は、他の誰からも、質問が無かった。

また、学校側を非難するような、発言もなかった。


「学校も大変やなあ」

校長先生は、大丈夫だろうか。

お父さんが心配している。

何か手伝えないかなあ。

お父さんが、そう云って居間から出て行った。

もう、眠るのだろう。


その後、お母さんの携帯に学校からメールが次々に届いた。


まず、最初に届いたメールは、明日も休校になるという内容だった。

次に、明後日、全校生徒に、現在、判明している情報を可能な限り伝えるというメールが届いた。


明後日、午前八時三十分までに、全校朝会に出席する生徒は、登校するように、という内容のメールが追加で届いた。


当初、全校生徒と表現していたが、全校朝会に出席する生徒と表現が変わった。

その後、全校生徒とメールを受けたが、全校朝会に出席を希望する生徒に変更する。というメールが届いた。


学校で、先生方が、まだ会議をしているだろう状況が窺える。

お母さんの携帯に響くメールの着信音が気になって、眠れない。


日付をまたいで、メールが届いた。

登校する場合、極力、自動車に乗り合わせて登校するようにとの要請だった。


午前二時に保護者メールが届いた。

本日、正午に、再度、文書をまとめて保護者メールを送信する旨のメールが届いた。

やっとメールの着信音から解放された。


眠れないまま、午前四時まで起きていた。

早朝のニュース番組を見ていた。

いつの間にか、眠っていた。

午前十一時、情報番組で、千景の学校で起こった事件が報道されていた。

千景は、飛び起きて、テレビの画面を凝視していた。


正午、学校から保護者メールが届いた。


内容は―

明日、午前八時半から、全校生徒にオンラインで今回の事件について、現在、判明している範囲で説明する。

ただし、精神的に苦痛を受ける場合がある。あるいは、その可能性がある。

その場合、Web会議室での朝会に参加する必要はない。

また、オンライン朝会の途中で切断して、Web会議室から退室しても良い。

変更がある場合には、保護者メールで連絡する。

という事だ。


お父さんは、また、どこかへ出掛けて行った。

決して、仕事に出掛けた訳ではない。

どうやら、今度の事件に首を突っ込む気でいるのだろう。

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