3.外出

昨日、午後六時に、景子の携帯へ、学校から保護者メールが届いた。

内容は。

明日、学校を休校にする。

そして、明日、午後七時に、保護者説明会を開く。

場所は、中学校の体育館二階、講堂で実施する。

自動車で来る場合は、校庭東側の校門をそのまま通り、運動場へ自動車を駐車する。

という事だった。

つまり、今日の午後七時に、保護者説明会を開くという事だ。


景子が、弘に保護者メールを見せた。

早めに帰宅すると云って、仕事に出て行った。

今日の保護者説明会に、弘も出席する。


弘は、今日も仕事を休む事にした。

千景は、居間の食卓で、ココアを飲んでいる。

「大変な事になったな」

弘は、うっかり、千景に事件の事を話し掛けた。

昨日、政木柚葉さんが、亡くなった。

千景が、衝撃を受けた事は、分かっている。

だから、極力、事件の話題を避けようとしていた。

「そうなんや。それも、美加と柚葉が、仲が悪うなったからやと思うんや」

千景が云った。

弘は、千景が云っていた事を思い出した。

政木柚葉さんが、西田美加さんに、虐められていたという、噂があったらしい。

千景が、そう云って説明していたのを思い出した。

気を遣って、事件の話題を避けるより、寧ろ、事件について話し合った方が良いのかと思った。

西田美加さんと政木柚葉さんは、仲が良かった。

政木柚葉さんは、母子家庭だったが、明るく活発で綺麗だった。

将来、アイドルを目指していた。

西田美加さんは、学校の成績も良く、女子バレーボール部のキャプテンをしていた。


千景と、朝のニュース番組を見ていた。

午前八時の情報番組で、千景の学校で起こった事件が報道されていた。

千景が、スマホから目を離し、テレビの画面を凝視していた。


昨日、午後五時のニュースでは、政木柚葉さんが学校で、殺害されたというだけだった。

少女Aと少年Bに事情を聞いているとの事だった。


「少女Aは、西田の美加ちゃんやろ」

弘の言葉に千景が頷いた。

「少年Bって誰やろ」

弘は、呟いた。

「分からんけど」

千景が云って、スマホを見た。

「メッセージ、来とらんのか」

千景のスマホの情報が頼りだ。

千景が首を横に振った。


「美加ちゃんは、不登校になっとったんやな」

弘は状況を整理するように云った。

「そうや」

千景が頷く。

「それで、転校した」

不登校になった原因は、うさぎの死骸遺棄事件だ。


「柚葉ちゃんは、どこか、塾。ちゅうか、教室へ通っとったんか」

弘は、柚葉さんが、アイドルを目指していたと、千景から聞いている。

どこかの教室でレッスンを受けていたとも聞いている。

「そうなんやけど。えっと。なんとか教室やったわ」

千景もはっきりとは、覚えていない。

「そうか。なんとか教室か」

弘は、おうむ返しに云った。

「確か、彩乃が知ってた」

千景が云った。


「千景。お父さん。ちょっと出て来る」

弘は、千景に声を掛けた。

「うん」

千景が返事した。

「異常事態。分かっとるな」

弘が云った。

「分かっとるで」

千景が答えた。

以前から、自宅に一人で居る場合の対応を話し合っていた。


知らない人が、訪ねて来た場合、絶対に、インターホンに出ない事。

家の様子を窺っているようなら、警察に電話する事。

強引に侵入して来た時は、西の勝手口から、隣のツヨシ兄ちゃんの所へ、逃げ込む事。

西隣の岩田さんの次男、ツヨシ君は大学一年生。

柔道部に入っていて、身体は大きい。


「よっしゃ」

弘は、そう云って、外出した。

柚葉ちゃんの通っていたレッスン場の状況だ。

千景の話しでは、イベントの企画もしている。

トラブルがあったようだ。

美加ちゃんと柚葉ちゃんが仲違いした原因でもある。

それと、少年Bは誰なのか。

保護者説明会までに、どうしても、確認しておきたい。

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