8.ペットショップ
丸肥町の大通りから、国道へ出ると向かいに、大型ペットショップがある。
歩道橋を渡ると、空地を挟んで、ペットショップの駐車場がある。
駐車場の出入口から入り、駐輪場へ自転車を置いて、ペットショップに入った。
風徐室に売場案内パネルがある。
パネルを見ると、奥の突き当たりに、犬のコーナーがある。
「うさぎ」の表示はない。
店内に入ると、目の前に、沢山の種類のペットフードが、左右のレーンの奥まで続いている。
ペットフードのレーンを真っ直ぐ奥へ向かった。
石木葛原小学校から、譲り受けた、うさぎは三羽。
そのうち、二羽は、石木中学校で、飼育している。
今も二羽とも、飼育している。
もう一羽は、政木柚葉が、飼っている。
石木葛原小学校から、譲り受けた、うさぎ三羽は、揃っている。
教室に遺棄された、うさぎの遺骸が一羽。
誰が、何のために、教室へ、うさぎの死骸を遺棄したのか。
四羽目の、うさぎが居た。
四羽目のうさぎは、どこから来たのか。
石木葛原小学校に、確かめてみた。
残っていた三羽のうち、一羽が死んでいた。
しかし、今も二羽、飼育されている。
数は揃っている。
後、ペットショップしか、思い付かなかった。
勿論、野生の穴うさぎを捕まえた。という事も考えた。
そうなると、もう、お手上げだ。
突き当たりは、一面が犬コーナー。
犬コーナーから左へ行くと、その奥は、犬小屋やケージ売場。
引き返して、反対側の奥へ向かった。
奥に小さな部屋があった。
うさぎは、小さな部屋の、小さな売場にあった。
端から、ずっと見て行ったが、穴うさぎは、見えなかった。
よく似たうさぎは、居たのだが、名前が違っている。
ネザーランドドワーフとなっている。
学校で飼育している穴うさぎは、もう少し、耳が大きい。
「穴うさぎ」は居ない。
店員さんを探して、犬のコーナーへ戻った。
「あのう。穴うさぎは、居ませんか」
男性の店員さんに、尋ねた。
「穴うさぎ」
そう云って、店員さんは、小動物のコーナーの部屋へ向かった。
店員さんは、うさぎのエリアを探して「居ないようですね。係の者を呼びます」と云って、トランシーバーで、主任を呼び出した。
すぐに、主任がやって来た。
「お待たせしました」主任が云うと「こちらのお客さまが、穴うさぎは、居ないのかと、お尋ねです」と店員が、主任に伝えた。
「穴うさぎですか」主任が確認した。
この店舗では、取り扱っていないそうだ。
本店では、取り扱っているので、今日の午後には、お渡し出来る。との回答だった。
「いいえ。要りません」慌てて断った。
うさぎを飼うつもりは無い。
西入浜の本店まで行けば、穴うさぎを取扱っている。
自転車で行けば一時間、いや一時間半くらいかかる。
往復三時間。
「最近、穴うさぎを見に来た人は、いますか」
ふと、主任さんに尋ねてみた。
「ああ。居ました。見には、来ていないんですけど、問い合わせがありました」
主任さんが答えた。
「今、人気なんかなぁ。と思ったんやけど」主任が、喋り始めた。
四人、問い合わせが、あったそうだ。
「それで、本店から取り寄せたんですか」期待した。
「それが、四 人とも、本店へ直接行くから」と云って、取り寄せを断られた。
ちょっと、気不味かった。
「本店では、穴うさぎ、購入した人、いましたか」
厚かましく、主任に聞いてみた。
「ええ。穴うさぎ、購入した人は、いましたねぇ」
主任が答えた。
「ただ、何人か問い合わせが、あったんやけど、購入したお客さんは、一人でした」
四人から、問い合わせがあったので、主任は、興味を持っていた。
丸肥店でも取り扱ってみようかと思ったそうだ。
販売管理システムで「穴うさぎ」の実績を確認したそうだ。
ところが、西入浜の本店で、穴うさぎを購入したのは、一人だった。
「どんな人だったのですか」
尋ねた。
「ごめんなさい。顧客情報は言えません」
という、主任の回答だった。
そうか。
本店へ行っても、購入した人の事は、教えてもらえないのか。
「千景。何してるんや?」
お父さんの声だ。
振り向くと、お父さんだ。
キャリーケージを持って、立っている。
この店で、ケージを購入したようだ。
黄色いサンキューテープが貼られている。
「なんで」
何故、お父さんが、ケージを持っているのか。
「何か、見に来たんか?」
お父さんが尋ねる。
「穴うさぎを探してるんやけど」千景が答えると。「穴うさぎ?」お父さんが、不安そうに聞き返した。
「あっ。いや。飼うんやないんや」
お父さんの心配は、ペットを飼いたいと云い出される事だ。
お父さんが千景に、何故、ペットショップに居るのか、理由を云うように促す。
「誰か。穴うさぎを購入していないか、知りたかったんや」
これも、質問の答えに、なっていないのは、分かっている。
「それで。分かったんかいな」
お父さんが、気にせず、尋ねた。
お客さんの情報は、教えられないと云われた。と説明した。
「成程」
お父さんは、頷いた。
お父さんは、主任に向き直して、また、頷いた。
「ああ。今、こんなご時世で、ペットを飼う人が増えとるそうですね?」
お父さんが、主任に尋ねた。
「はい」主任が返事をした。
「ああ。成程。こんな田舎でも、増えてるんですか」
お父さんが、主任と世間話を始めた。
「そうですねぇ。三割から四割くらい、増えてますね」
主任が応えた。
「やっぱり。外出の自粛が、原因ですかね」
お父さんが云った。
「そうだと思います」
主任が応じた。
「犬や猫を飼う人が、やっぱり多いんですか?」
お父さんが尋ねた。
「そうです。犬なんかも、室内犬が人気ですね。女性は、百パーセント室内犬か、猫をお求めです」
主任が応えた。
「やはり、お客さんは、主婦の方が多いんですか」
お父さんが尋ねた。
「そうですねぇ。以前は、年配の女性が多かったんですが、男の人も増えましたね」
主任が応えた。
「こんな田舎でも、やっぱり、テレワークが増えているから」
お父さんが云った。
「そうですね。ペットを飼う会社員の方も増えたんでしょうね」
主任が云った。
「やはり、犬や猫ですか」
お父さんは、会社員が購入するのは、犬や猫が多いのか。と尋ねた。
「そうです。でも、男の人は、大抵、中型犬です」
主任が云った。
なんでも、犬と散歩して、運動不足を解消しょうと、考えているそうだ。
「蛇とか、蜥蜴なんか爬虫類は、女性の方が、多いのですか?」
お父さんが尋ねる。
「そうですねぇ。一概に、そうとも言えません」
主任が応えた。
「ああ。成程。学生なんかは、変わったペットを欲しがったりしますよね」
お父さんが尋ねた。
「そうかも、しれません」
主任の答えは曖昧だ。
「そうですか。オンライン授業になったりして、ペットを飼う学生が増えてるんですかね」
お父さんが、更に尋ねる。
「じゃあ。変わったペットを飼ったりするのは、男の方が多いんですか?それこそ、その、ウサギを買ったのは、学生だったんですか」
お父さんが云った。
「いいえ。穴うさぎを購入したんは、学生さんではないです」
主任が答えた。
主任さん。云っちゃった。
「ああ。じゃあ、サラリーマンですか?」
お父さんが確認した。
「いえ、四十代の男性でしたけど、サラリーマンでは、なかったです」
主任が応えた。
千景の知りたかった事が、ぼんやりと分かった。
「ああ。そうですか。ごめんなさい。無駄話に付き合わせました」
お父さんが云った。
主任は、「はあ」と云うと、一礼して、バックヤードへ戻って行った。
「自転車か?」
お父さんが、千景に尋ねた。
「うん」
千景は、頷いた。
「まだ、どっか、行くんか?」
お父さんが尋ねる。
「いや。もう帰る」
千景は、答えた。
「お父さんは、車やから、先に帰るで」
お父さんが云った。
「うん」
千景は返事をした。
「どういう事か、帰ったら、説明してよね」
お父さんが、嬉しそうに、笑って云った。
キャリーケージを手にぶら下げて、店から出て行った。
お父さんの、好奇心が始まったようだ。
あの、手にぶら下げた、キャリーケージ。
お父さんは、一言も触れなかった。
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