第3話 同期ちゃん
魔動車を降りて5分くらい歩くとギルド支部はその姿を見せる。
いつも来ているはずなんだけどな・・・。
ギルドの正面玄関の前でタナカは立ち止まる。
早朝で人通りも通勤する人のみ、昼間に来る際はもっと人で溢れかえっていて緊張なんてしない。
うわ、やべぇなこんなに建物大きかったっけ?
改めて首を上と横に動かしてギルド本部の全体を視界に入れてみる。
二階建ての奥と横に広い建物の各署に見える入り口には各部署の部署名が刻まれたプレートがぶら下がり、タナカが立ち止まっている間にも各部署入り口から制服を着こなした職員達がまばらに入っていく。
「あ、あの。今日付で採用の方でしょう・・・か?」
後ろから声がして振り向くとタナカと同じ新品で皺のない制服を着た女性が鞄を胸の前に抱えてこちらを見上げていた。
「ええ、そうです」
「よ、良かった」
可愛らしい見た目の少女は肩でそろえた後ろ髪を揺らしながらタナカのとなりに立つ。
「私・・・一人で入るの緊張して誰か来るの待ってたんです」
苦笑いになりながらも笑顔をみせる女性に同情するタナカは頷く。
「確かにいつも見てるとはいえ、この時間に来てみるとなんだか余計に大きく見えますよねー」
「よ、よかったらっ、ご、一緒させて、いただいても、い、いいでしょうか?」
同年代に見える女性は持つ鞄を抱える腕に力が入っているようで、肩をキュッと締めながら尋ねてくる。
そうだよなぁ、俺もこの建物に一人で入るのは心細いというかなんというか・・・。
「こちらこそ。一緒に頑張りましょう」
「はいっ」
同期ちゃんは少しだけ砕けた笑顔を見せると「ささっ、行きましょう」とぎこちないながらも先を歩こうとしてくれる。
かわいい女子が隣りにいるのに何で俺は落ち着いてられるんだろうか。
日本にいるときはクラスの女子が近くにいただけでソワソワしてたのを思い出しながら、少し先を歩く同期ちゃんの隣に追いつく。
ふとしたどうでもいい疑問が頭の中にぽんと浮かんだが、「まぁいいか」と振り払う。
二人は正面玄関の敷居を超えて目の前にある総合案内のプレートがぶら下がるカウンターへ向かう。
なにやら奥の方で作業してしていた職員は手を止め、カウンターの方へやってくる。
「今日付で採用のタナカと言います」
「わ、私はガーベラですっ」
二人の名前を聞いた職員は「少々お待ち下さい」と言うとカウンターの下から紙を取り出す。
「お待たせしました。本日付で採用のタナカ様とガーベラ様ですね。こちら辞令交付式の案内になっておりますので、ご一読ください」
聞き取りやすい柔らかい声色で話す職員から数枚が束ねられた紙を手渡しされ頷く。
「辞令交付式は二階上がって右手の大会議室となっております。部屋の前に職員がおりますので案内に従ってご着席ください」
「はいっ」
「ありがとうございます」
最後に職員から「御就職おめでとうございます」と言葉をもらった二人は総合案内を後にし、総合案内のすぐ脇にあった階段を上る。
「あの職員さんいい人だったね」
「そうだなー」
尚も同期ちゃんことガーベラさんの隣でタナカはウンウンと頷く。
ギルドに来て最初に話す人があぁいう人だと緊張もなくなるし、職場のイメージも良くなる。
「やっぱり最初にちゃんと話ができる人がいると安心するよねっ」
「うん」
ガーベラもそのことに気がついたようで、目をキラキラと輝かせている。
今まではどこの部署に行けばいいのかわからないときだけ総合案内でこっちの要件を伝えて答えてもらうだけだった。
それぞれの部署を訪れる前に総合案内を経由してもらうだけでかなり対応がしやすくなる。
あのカウンターより内側で仕事をすると考えれば窓口対応ってめっちゃ大事じゃん。
職員、皆がそのことを自覚して働いているのだろう。
やっぱりすげーな。
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