第2話 これが通勤

 アスペンの中心部へ向かう魔動車へ乗り込んだタナカは一息ついて開けっ放しの窓の外を眺める。


 涼しぃー。

 

 電車のようにぐんぐん進んでいくほどのスピードは無く程よい風が車内の空気を入れ替えていく。


 あっちの世界と違って電波も電気も通ってないこの世界では『魔力』とともに文明は緩やかに発達してきた。


 アスペンの街中と他都市を繋ぐ線路の上を魔動車が走っているのも魔力のお陰なのだ。


 木製の窓枠から眺める田舎風景はビルばかりが立ち並ぶ都会で生きてきたタナカにとっては新鮮なものだ。

 この風景もあと数十分すると商業区の賑わいに変わる。


 まだ先にあるアスペン支部の方から運ばれてくる風は頑張れと肌を優しく撫でていく。


 日本で就職してたらこんなに気持ちのいい通勤なんてできないよなー。


 先に仕事に就いていた仲間は皆「仕事は楽しい」と口にする。


 勿論、楽しいの定義は人それぞれなんだろうけど、アイツらの仕事の話を聞くとこっちまでウズウズしてくる。


 中にはアスペン以外の都市に仕事で行くこともあるみたいで、その話を聞くのが俺は好きだ。

 アスペンの街以外に行ったことはないが、仲間や魔動車で遠方からやってくる人達に聞くと、王都は深夜になっても街の灯りが消えることはなく朝まで人の声が止まないらしい。

 

 仕事で行くこともあるのだろうか・・・。

 出張とかあったらその土地の美味いもの食べたりしたいなー。


 これからのことを考えると、足元がふわふわして落ち着かない。


 そんな妄想を繰り返しているうちに気がつけば賑わいが窓枠の向こうにある。


 いかんいかん!

 今日からあっち側の人間なんだ!浮ついてちゃだめだろ俺!


 宿屋バイト時代にギルドの受付にはよく行っていた。

 行き慣れた場所と勘違いしてはいけない。

 今日からはカウンターの向こう側なのだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る