第32話 残された物
林間学校当日、二年生はバスに乗って学校を出発した
バンディットは今回の林間学校を欠席した瑠衣と数人の不登校を筆頭として任せた。バスは二時間ほど走るため俺と紫乃はスマホでゲームをして時間を潰していた
「しかし紫乃も来るとは思わなかった」
「いや、まあ僕が学校に行ってなかったのって単純に友達がいなかったからっすから……それに慎吾さんとかと同じ部屋なら別に大丈夫っすよ」
「ほえー、あ、敵スタンした援護お願い」
忙しなく画面をタップする俺の頭を後ろの座席に座る愛理がツンツンと突いてきたり沙奈が耳を触ってきたりとしながらも林間学校の校舎である桜山自然学習スクールへと到着した
ここは元々は普通の小学校だったが平成最初期の少子化により他の町の学校へと子供たちが移ってからは取り壊すのも勿体無いということで桜市の林間学校の行き先として使われている
後者はなんとも古く廃校と言われても違和感はない外装だ、しかし周辺に置かれた数十棟のコテージとBBQ場として使われる木組の古屋によりキャンプ場のような体裁も感じる
俺たちは先にコテージに荷物を下ろすことにした、他の生徒たちと離れ切り立った丘にある特別な3階建てのコテージ
他のコテージは2階建てだが各階に一班ずつ入るため一階も二階も広い、しかしこのコテージは一階はリビングと物置のみ、二階には寝室が三部屋あり三階は屋根裏となっている
「想像以上に綺麗だな」
温かみを感じる木組の内装、テレビなどはないがソファーや本棚、テーブルなどはありここで過ごすのは困らなそうだ
「荷物置いたらリビング集合な」
俺と玲、沙奈と紫乃、そしてクロエと愛理が同部屋となった。左右にベッドがあり枕側に勉強机と窓がある程度の小さい部屋で俺たちは必要な筆箱とスケジュールの書かれたプリントを手に取りビングに向かった
他のメンバーはまだきておらず玲はソファーに横になり俺は本棚を漁ることにした、閉じられたガラス戸の外から見てもどの本も誇りをかぶっているのだが一つ気がかりがあった
「鍵に何かついている?」
ガラス戸の中心部には簡単な鍵があるのだがそこに黒い液体が垂れていた、俺はそれを指で掬い取ると粘性を感じる
「オイルか?」
沙奈のパパさんがのガレージでよく見た機械用のオイル、古いオイルは黒くなり粘性も出てくる、俺はそれをポケットに入れていたウエットティッシュで拭い取り本棚を開いた
桜市の中で桜山脈は神話が多く語り継がれている、山中には祠道と呼ばれるお地蔵さんが祀られた祠が千を超えるほど並べられているが全てに話があるレベルだ、それについての本が数多く並べられているが子供向けの絵本からこの林間学校で配布されるパンフレット、歴史的価値のありそうな古書まで数多く並び全てを読み尽くすのは骨が折れそうだ
「桜市の誕生、桜山脈神話の上と下…面白そうなのはここら辺かな」
読もうと思った時には全員が揃ったので俺は諦めて校舎まで向かった、校舎の内部はコテージ同様に綺麗で多少の古臭さを感じるものの学び舎としては十分なレベルだ、俺たちはまず体育館に向かい入校式を待つことにした
渡り廊下に向かっていた俺たちの耳に二つの声色が聞超えた、2階だろうか木々の葉の音によりうまく聞き取れない
「……には後が…ない…に………した」
「で…が…こ……!」
男女二人の声であることは分かったがいまいち理解できず俺たちは体育館に入った、まだ林間学校の校長は来ておらず俺たちは適当に座って時間を潰した
十分が経った頃に五人の講師が体育館の壇上に現れる、中央のマイクを握ったのは小太りで髭を蓄えた男だった
「皆さん、こんにちは…私はこの桜山自然学習スクールの校長をしています。山田健一と申します、校長と言っていますが肩書きだけですので勉強を聞かれても分かりませんよ。わっははは」
ここは学校という体だが実際は公民館的なもので管理者の肩書きが校長なのだ、皆それは知っているためはははと白けた笑いが響く
「えーでは、この学校の先生方をご紹介します。まずは地域文学の先生、吉山梨子先生」
「皆さん、よろしくお願いします」
40代後半の化粧がきついおばさん……失礼、女性が挨拶をした
次に校長が紹介したのは地域社会学の先生である60代後半であろう白髪の倉西新之助、保険の先生である飯田幸助先生、そして最後には体育の先生として20代前半の舞口梨沙先生が挨拶をし入校式は終わり食堂に移動して昼食を食べることになった
林間学校は基本的には普通の学校と同じように6限目まで授業があるのだが普通の授業に混じって桜山脈の神話を解説する地域文学や桜山で行っている環境保護の解説をする地域社会学などがある
体育は森の内部に造られたアスレチックで遊ぶ程度なのでほぼ休み時間と言っていい
「新崎くん、少しいいかい?」
人混みに混じっていた俺の耳に生徒会長の声が聞こえそちらに向かう、やあと軽く挨拶しついてくるように促した
そうして連れてこられたのは地下にある倉庫、埃っぽい扉や壁に触りたくないなと思いつつ扉を開いた
「これを見てくれ」
「屏風?」
彼女が指差したのは巨大な屏風、どこかで見たことのある古臭い屏風だ
描かれているのは戦国時代の足軽や武将と鬼の頭を持った巨大な蜘蛛が戦っている図、桜山脈の神話だろうか
「見覚えはないかい?」
「えっと……」
見たことはある、これによく似たものを……
「ああ!桜市役所の!」
桜市役所は美術館のように昔の骨董品を飾っているコーナーがあり、そこでこれと似たような物を見たことがる
「そうだ、桜市の生まれる廃藩置県の少し前…この地に巣食う鬼蜘蛛を武将である桜花大右衛門が打ち取ったことにより桜藩が生まれた。しかしその後は周辺の藩と合体され桜市が生まれて県庁を置かれた……これは桜花大右衛門の活躍を綴った開花屏風と呼ばれるものだ、しかしこういった妖怪の類は異世界と違い想像上の物だろうがな」
桜花大右衛門は聞いたことがある、武将のゆな見た目の桜市のゆるキャラであるオウカンの元ネタだ
「でもなんでこんなところに?」
「第二次世界大戦の頃、この学校の地下に数々の桜市の貴重品を保管したと聞いた。開花屏風は上中下で構成されていて、桜市役所には下である桜花大右衛門が鬼蜘蛛を討ち取り藩を収めた物が飾られている…これは中の戦いの場だろう」
「じゃあ上はなんだ?」
「諸説あるが鬼蜘蛛の誕生、もしくは鬼蜘蛛の悪行が描かれていると聞いた」
しかしなんで回収しないのだろう、そんなことを考えているとチャイムがなった
「やば、昼飯食べ忘れた!」
昼飯は桜澱粉が乗ったご飯と焼肉が入った桜弁当、受け取る時間を過ぎれば昼飯は食べられない。すると生徒会長はバックの中から弁当と割り箸を取り出した
「ほら、あらかじめ弁当は受け取っていた。時間をとってすまない」
「別にいいさ、じゃ」
俺はそれを受け取り倉庫から出た
「……鬼蜘蛛は本当に想像の上の生物なのだろうか…そして本当に倒されたのだろうか」
ふとそんな彼女の言葉が聞こえた_______
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