第29話 一鬼刀千

「骸骨達が消えない!?」

俺の前に転がる女の腕には確かに魔法を遮断する手錠がある、しかし後方で銃撃してくる骸骨達は一向に消える様子はない

永続的に発動する魔法と言うのは存在する、しかしそれは発動者が死ぬか魔法を使えなくなれば消滅するのだがその様子は一切ない

驚愕していた俺の寸前のところを銃弾が掠め一旦後方に下がる、しかしバイクから下り自動車の裏に隠れていた骸骨達による制圧射撃で俺は後ろに下がる

脳みそを必死に動かし俺は打開策を考えていた

「まさか……あれがスキルなのか?」

スキルはあまり難解な事はできない、大抵のスキルは所謂『技』で師匠や自身の動きがスキルとなり保存されるような感じだ

特例としてアイテムボックスがあるが、コレは魔力を流し別空間に通じる扉を作るのだがコレは魔法ではなく一定の魔力を肉体外に排出させるため一応はスキルだ

しかしこれ以上をスキルに求めるとなると英雄並みの力が必要なのだ、無斬の空間を削るスキルもソレを研ぎ澄ませた物だ……

もしあの骸骨達がスキルだとしても、何故独立して動けるのかしかもあの数を同時に操作

自問自答を繰り返す俺の鼓膜の中に鉄が落ちる音が響く、それが女の手錠を外す音だと理解した俺は顔をだす

「……イッキトウセン」

骸骨達は女を取り囲むとまるで電池の切れた人形のようにうなだれる、すると泥と代わり女にへばりついていき段々と骸骨は巨大化していく

「おいおい……マジかよ……!!!」

骸骨の体は武者の様な鎧にライダースジャケットの様な意匠が施され頭部には2つの角をもった鬼へと変貌した。

背骨に当たる部分には数十程の腕が生え、後ろ足は獣と同じ逆関節で二足歩行している。しかし前足は図鑑で見たティラノサウルスのように細く短い

遠くで玲と戦っていた骸骨とバイクは泥に代わり刀へと変貌した

百本近くの刀が駐車村全土に行きわたる、玲はバイクから放り出された物の剣を地面に突き刺すことで大した怪我をせずに済んだようだ

「おい、新崎!!アレどうする!!」

「わからん!!」

「お前なあ!」

と言われても俺も困る、だがこう言うデカい怪物には難度も相対したことがある

故に一つだけ言えることがある

それは

「死ぬまで切りつければ相手は死ぬ!!」

「アホみてえだぁ……!」

骸骨は背中の腕を使い刀を引き抜くと嵐のごとく斬りつけてきた、俺は聖剣でそれを防ぐ

だが強い一撃を何度も受けたせいで刃がかけ始める、それと同時に聖剣が折れた

「くっ!!」

聖剣を放り俺は自動車のボンネットに向かって飛び、天井を蹴って距離をとる

アイテムボックスから普通の鉄の剣を取り出し力を込める、幾つもの高度で繊細な魔法の術式が刃に移されていき何の装飾もない剣は先程壊されたばかりの聖剣へと作り替わった

次は折れないように俺は刃を魔法の剣で覆う

俺と玲は一度に斬りかかる、纏により俺と玲は切り傷は抑えられる。玲の肩を蹴り俺は奴の肩めがけて剣を振り下ろす

だが鎧は想像以上に固く弾かれた、だが俺は弾かれた衝撃を活かして体を一回転し腹部のライダースジャケットの部分に向けて切りつけた

狙い通り体は切り裂かれ泥が噴射しアスファルトを汚す、ソレを見た玲は真似して鎧ではない場所を狙って切りつける

泥は肉体を回復するのではなく刀として再度形成され奴の武器となっていき攻撃の回数が増えていく、だがあの連続攻撃は一度避ければ奴はすぐには止まれず隙となる

俺は攻撃ではなく玲の援護を主として動き奴の攻撃を追加で出現させた魔法の剣で隙を稼ぐ

これで動体視力が普通の人間の玲でも避ける事ができる

しかしそれは長くは続かなかった

やせ細った奴の動きは段々と力強く、そして早くなり全ての腕が刀を持ち人間としての腕を獣の前足のようにして素早く俺たちを翻弄していく

悠の爆撃により何とか回避は出来ているがそれも弾が切れれば無くなる……

そして遂に玲は足を挫き攻撃を受けそうになった、俺は咄嗟に玲の首を掴んで投げ背中にダメージを食らった

うめき声を漏らし玲に怪我がない事を確認し何とか立ち上がるが想像以上にダメージが激しかったのかぐらついた

「大丈夫か!?」

「気にすんな」

鼻血を手で乱雑に拭い髪を搔き上げる、汗が風に晒されゆっくりと思考が落ち着いていき俺は冷静だった。奴はその場で俺たちの動きを観察しているように動かない

「でも!」

「でもじゃねえ、今俺が立たなきゃ後がねえ」

痛みはまだある、つまり俺は生きてる……メンヘラみたいだが戦っている時は、痛みだけが生きている証だ。この傷は治癒魔法でも時間がかかるため治す時間はない

指をゴキゴキと鳴らして俺は言う

「ヒーローってもんは後ろに誰かがいるから立ってるんだ」

玲は落ちた剣を拾い上げると俺の隣にたった

「……ヒーローってもんは、相棒がいるもんだぜ」

「はっ、相棒かいいねえ……痛たた……行くぜ、相棒!!」

俺は右拳を挙げ玲は拳をコツンとぶつけた、するとまたもや光が放たれた

「おいおい……次はなんだ?」

もう慣れた英雄の力が渡される瞬間だ、双剣を使っていたからてっきりソードマンかと思いきや玲が持っていたのはエンチャンターの二本の杖だった

「コレ……お前が持ってた」

「ああ、ちょっと時間稼げ」

杖を取り出し玲に渡す、すると素早く幻覚魔法の術式を展開し

玲の二本の剣を借りて俺はザアナでよく使っていた柄に魔法の杖を仕込んだ片手剣を予備を含めて二本取り出す

柄の下のネジを外して中に収まった杖を収まるようにナイフで小さくしたエンチャンターの杖に取り替え玲に向かって投げた、すると奴は持っていた杖で高難度の重力魔法を使い柄を持ちやすい位置に動かして掴んだ

「行くぜ、相棒!」

動きは前と同じ玲が主導し俺が隙を作る、だが先程違い玲は自身と俺に強化魔法を与え逆に相手には移動速度低下や弱体化のデバフをかける事により幾分も楽になる

衝撃魔法を俺の足裏に向けて放ち大きく跳躍し奴の剣戟を搔い潜りながら背中を切り裂く

そして少し骸骨が薄い場所を見つけた、俺はそこに刃を突き刺し女の姿を視界に捉え引きずりだそうとしたが唐突に生えてきた腕により俺の顔面はぶん殴られた

「だああ!!ぐどッ!ぶぅう!……しまっ!」

脳震盪で感情のコントロールがうまくできず呂律が回らないにもかかわらず俺は悪態をついたしかし奴の腕が迫っていることに気づき聖剣を構えたが刀は届かなかった

眼前にはいつも見た二人が

「ちょっとー私たち置いて楽しそうなことしてるじゃん」

「大丈夫っすか?!」

愛理と紫乃、二人は武器を構えて俺の前に立つ

「何で……」

「生徒会長さんから聞いた、せっかく英雄さんの力が増えたんだから私たち頼ればよかったのに」

愛理は迫りくる腕を無斬と鞘のレールガンを用いて退ける、紫乃はその隙にヴォルザが作っていたライフルを構え愛理の援護をしつつ俺を車の陰まで引きずった

「弱点がある、奴の弱点は背中だ……愛理と一緒に奴の気を引いてくれ……俺と玲で一気に片をつける」

「わかったっす」

ライフルの上部の窪みに背負っていたアーチャーの弓をはめ込みデコッキングレバーを引いた、ライフルは一瞬でボウガンへと代わり紫乃は愛理の元に向かった

俺は玲に手を借りて治癒魔法を四重にかけることで何とか全快し共に駆けだした

奴の背後は数秒隙があった、骸骨達は自律思考していたが一体化したことにより思考は全て腕などの補助に回されているのだろう。それに肉が薄いとは言え数度切り裂かないと届かない厚さだ

「相棒」

「おう」

「「行くぞ!!」」

俺は大きく跳躍する、玲が初撃を喰らわせ肉が大きく削れた

そして俺の肉体に強い重力魔法をかけて素早く女の元まで俺の腕が届き引きずり出すことに成功した

骸骨は主を失い溶け始めゆっくりと泥に代わり消えていった____


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