第26話 裁判

5月10日

「新崎慎吾、お前が生徒会の連中と組んでいたと聞いた。一体なぜだ?」

バンディットのアジトであるライブハウス、いつもならば適当に並べられているパイプ椅子が今日ばかりは裁判所の傍聴席のように並べられていた。俺は椅子に座り無抵抗を表すため結束バンドで両腕を後ろで拘束されている

緑髪の男、名を黒館健介といいバンティットの切り込み隊長である。黒館はスマホにまとめられた情報をカンペのようにしながら俺の周りを歩む、玲ともう一人の双子__名前は瑠衣らしい__がステージ上で裁判官のように状況を見ている

「葉桜高校の付近に現れた怪物の討伐を依頼された、生徒会との関係はそれだけだ」

「本当か?お前が葉桜の商業施設で副会長との会話をしている姿と武器の受け渡しを見た者もいる。まずは怪物について説明してもらおうか」

嫌なやつだな……

「怪物については黙秘権を行使させてもらう。だが、俺はお前らの敵じゃない」

ザアナの情報はできるだけ抑えたい、パノプティコンの耳に入れば俺の周りに迷惑がかかる

これで信じてくれるとは思ってもいないが…

「では、なぜ葉桜の学区にいた?そしてなぜ生徒会から武器を渡された?お前のもつスキルも生徒会から譲渡されたものでは?お前は送り込まれたスパイじゃないのか!?」

俺の耳元で怒鳴る黒館、本当ならば耳を覆いたいが腕を拘束しているため叶わない。ポーカーフェイスを保つが状況の打開策を考える俺は額の汗を抑えることはできなかった

「落ち着け、黒舘」

「ボス、アンタはどう思う。コイツをそれでも置くのか!?」

「…俺たちは他の不良連中みたく、誰かを踏み台にする商売の才はないし犯罪を犯す度胸もない。だが生徒会連中のように誰かを切り捨てることもできない……俺たちはどこまでも不利だ、もしコイツがスパイでも捨てるほどの余裕はな…あ、おい瑠衣!」

玲の言葉を遮り、双子の弟である瑠衣はステージから降りると俺の結束バンドを折りたたみナイフで切った

「バンディットの皆さん、新崎慎吾は私の班で管理をします。もしものことがあればこちらで処理することもできますし……異論はありますか?」

「いや……それは…」

「異論はありますか?」

有無を言わさない瑠衣の圧で裁判は閉廷した_____


「それでアンタは俺をどうする?」

「まあ、そう気構えないでください。私はあくまでバンディットの存続のためにあの場を収めただけです。多少のスパイは許しますよ」

「スパイじゃねえよ……」

俺はあの後ライブハウスの楽屋に連れて行かれた、ここは瑠衣が率いる作戦の立案や情報収集班用の部屋として使われているようだ

「一応貴方は私の部下です、情報の閲覧は許可しましょう」

渡された資料を見た俺は絶句する、情報の周りが遅い

「……ほらこれ」

俺は生徒会の情報が入ったファイルを見せた

「良いんですか?私たちに情報を見せても」

「ああ、これは怪物退治の報酬でもらったものだからな。それより次の作戦は?」

「こちらです、今週の土曜日にアナーキーたちによる暴走行為があると見られるのでこの十字路で袋叩きにする予定です」

桜市は5つの町がある、桜市の中心である俺たちの住む育児や学校が多く商業施設の多い桜中央町、東部にあるグリフィンを倒したビルの立ち並ぶ葉桜町、北部にある畑や田んぼが並ぶ農業の中心の桜枝町、南部の昭和の頃から変わらない古い街並みの桜根町、そして紫乃のマンションがあった高級住宅街である桜花町

その内、2週間程に一度アナーキーたちは桜中央町の巨大な駐車場__通称、駐車村__を目的地とし。道中で他の車のガラスを鉄パイプで叩き割ったり、家の窓に石を投げたりと本当に日本かと疑うような行為をおこなっている

百人近くの連中がバイクに乗り複数のグループに分かれ、今写っている十字路にはどうやら重要な人物がいるようだ

「この暴走についてはかなり不思議でして、逮捕者が全く出ていないんですよね」

「駐車村に毎回行ってるんだろ?警察もそこで待ち構えてたら良いじゃないのか?」

「そうしていたんですが、途中で消えたんです。警察がいくつかバイクに乗ったアナーキーたちを捉えようとしても毎回どこかに逃げられ、押収したバイクもいつの間にか消えている……」

「スキルが絡んでいるだろうな……」

だがスキルで人を隠すものには心当たりがない、アイテムボックスの内部は宇宙空間のようなもので酸素と重力がないため人間が内部に入るのは危険すぎる。魔法で宇宙服のようなものを作って一時的に内部にいることは可能だが体温の急激な低下による低体温症や魔力の消費が多く現実的ではない

「今回の目標は100人中の23名の確保、その後に警察に身柄を渡します…そしてこちらの人物……前回我々を撤退にまで追い込んだこの暴走行為の主犯格でアナーキーの幹部である女、吉崎茉里を確保し情報を吐かせます。こちらを確保できれば暴走行為は押さえることができるでしょう」

「てか、スキルについて警察はどう言う反応しているんだ?」

スキルが多く出回っているにも関わらず警察がパトロールを強化している様子もなく昨日のあの大騒動や葉桜テレビタワーもテロ行為ですまされていた

「薬物によるドーピング、反社会組織からの武器の横流しにより手を焼いていると報道されています」

「自衛隊とか他の動きは?」

「一つだけ、製薬会社のカテドラルが医療機関と提携し民間人が受けた不良による暴行の治療や賠償金を払っています。また逮捕された不良達から薬物の副作用を抜き取る治療を行なっていて心身ともに健康な状態で罪を償える状態にしていると明言しています」

怪しすぎる……なんでそんなに一企業が賠償金払ったり治療してるんだよ……しかも薬物の副作用を抜くとか絶対魔法とスキルを回収してるだろ……

「それでこの十字路に何を仕掛ける?」

「一応ホームセンターで作成したバリケードと煙幕弾、そして少しだけですがバイヤーからテーザー銃を購入しています」

「こちらも兵器を提供しよう、罠の設置する時にでも呼んでくれ」

俺たちはスマホでメッセージアプリのIDを交換してその場は終わった

まさか、この作戦が大きなモノにつながるとは思いもしなかった____

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る