第24話 時は満ちた

『右の角に一人っす』

夕日が街に染み渡るような時間、黄昏時なんて洒落た名前の時間帯

一番人が少ないこの時間帯に俺たちは侵入していた、俺の手には拳銃だけが握られている

上に取り付けられた監視カメラは紫乃に任せており、俺が近づくとコードを矢が貫く

寮の壁面を駆け上り最短ルートで目的の倉庫に到着した、幸にして前回と同じように見張りが一人だけ。首に腕を回し頭部に拳銃を当てる

「喋るな、ゴム弾だがこの距離で撃たれたら脳出血で死ぬぞ。下手な真似はせずに扉を開けろ」

倉庫はカードリーダーが取り付けられており見張りの持っていたカードで開いた、両手を上げて無抵抗を表す見張りの後頭部を拳銃のグリップで殴り気絶させて倉庫の内部に引き摺り込む

「紫乃、中に侵入した。見張りを頼む」

指示を出して俺は内部を探索する、棚にはライフルやショットガンなどが並べられており軍の保管庫を思わせる。しかし剣や槍などがまるで中世の城のようで相容れない二つがこの倉庫を支配している

そしてようやく目的のグリフィンの羽を見つけた、茶色の羽には細かい白の斑点がある

「キンググリフィンのオスか……早めに仕留めなきゃな」

キンググリフィンは俺がザアナで初めて倒したモンスターだ

引き継ぎのスキルは英雄たちの強力な力を使うことができるが、引き継ぐには死体か武器を手に入れなければならない

そのため英雄たちの武器の場所が判別できるまで俺は王国で逃亡術と追跡術を学んだ

逃亡術があれば大抵の敵からは逃れることができるし、追跡術があれば敵の大まかな位置はわかるため力を持たない状態では多いに役立った

アーノルド王国の偵察大隊の隊長であるイーサンに俺は教わりながら実力をつけていた

しかしある日、訓練場として使っていた森林でキンググリフィンの羽が見つかった。実践経験を積めと言うことで俺は森の内部に残された糞尿や食い残し、爪痕などを徹底的に調べ王国の書庫にあったモンスター図鑑で弱点と誘き寄せるための罠の作り方を調べた

キンググリフィンは雄、雌問わず強靭な肉体を持ち普通の剣では傷一つつかず、翼は強靭で素早くそして空高くを何日も飛び続けることができる

そのため誘き寄せるためにアネモネと蒸留酒、そしてゴブリンの血を煮た液体を肉にふりかけ誘き寄せる罠にし蒸留酒で酔ったところに翼を潰す方法を使った

今度もこれを使うとしよう、アーチャーの力もあるからすぐに倒せるはず

倉庫にようはない、しかし一つだけ問題がある。地下へと続く階段があるのだ

静かに拳銃を握りしめ顔を覗かせると内部には円形の会議室があった、壁面などは全てザアナ産の魔力が含んだ鉄で地下に施設を作っても土やアスファルトを魔力によって強化している

この鉄の出どころはなんとなくわかる、イワンコフの大隊の補給部隊にいたものだろう

アイテムボックスを用いることで武器や防具の修復に必要な鉄や設備を持ち運ぶことは時折あった

しかしこの学生たちの思いつきで提供できるほどはなかったはずだ、奴らの住んでいた雪山は俺が鉱山を崩落せたことで補給線を断ったはず……

ザアナに行き来できる方法があるのか?

とりあえず行き来についてはヴォルザに話を聞くとして、俺は会議室にいる連中に視線を向けた


「それで?アタシたちになんの用?」

会議室には12人が椅子に座り、一人は前に出されたホワイトボードに貼られた写真や地図を指している

俺が最初に聞いた声は一人の少女だった、フリルの多い黒のゴスロリを着て髪が全体的にもふもふしてそうな背の低い少女、巨大な大剣を後ろの壁にかけている以外はSNSによくいそうなゴスロリだ

「キャンサー、敷いては事を仕損じると言います…まずは話を聞きましょう」

キャンサー…そして12人、つまりは12星座がコードネームってことか

ゴスロリを諌めたのはメガネの男だった、武器は見えないが理知的な雰囲気的に魔法系だろうか

「…では話を続けます、現在の四校は拮抗状態と言えます。桜河高校は先人として我々に物資や技術を提供していますが今は学区内の不良チームの対応に追われています、そして桜木工業高校はモンスターたちの討伐により兵器を作っているとの情報があり一番警戒する必要があるかと、一番厄介そうな桜スプリングスクールはパノプティコンの試験品を下ろしてもらっているそうで警備が厳重で動きは読めません」

桜市内の全ての高校がパノプティコンによる支援を受けている……しかしなぜここまで用意ができる?もしかして俺がこの世界に戻って来るより前にこちらにきたのか?

ザアナとこちらの世界は時間の流れが一緒で二年過ごしたが俺は元の世界に戻る際に過去にタイムリップして行方不明から二ヶ月後にたどり着いた…

それならばイワンコフがカテドラルの企業する前にタイムスリップしパノプティコンの創設も可能だろう

「我々は校内の全てのスキル持ち生徒を雇い、全ての高校に宣戦布告を行います」

俺の思考はその一言で遮られた、宣戦布告?正気か?

俺以外の者たちも初耳だったようでどよめく、ヤンキー漫画か戦国時代か…

「桜市は育児や子供の育成に力を入れています、しかしそれ故に学校内での生徒会による癒着などがあり腐っています。それを我々による武力を持った統治でただします…これは正義の戦争です」

「はは…いいね、面白い」

「さーんせーい」

「ぼ、僕もいいと…思います…」

12人も賛成している、俺はただ呆然とするだけだった____



俺は葉桜高校から脱出し紫乃と合流した

「やばい、葉桜高校の奴らは他の学校に戦争仕掛ける気だ!」

「ブゥっ!?えホッ…ゲホっ!マジすか!?」

コーラを飲んでいた紫乃は俺の言葉に吹き出し口元を拭う

「明日、グリフィンを倒すつもりだったが時間がない。今日仕留めるぞ」

幸にして花屋でアネモネを買えたので俺はアイテムボックスから酒樽ゴーレムの蒸留酒を取り出した

ザアナでは酒樽をゴーレムに埋め込んだ酒を王族などは飲んでいた、魔力で動くゴーレムの余剰な魔力により酒の発酵が進み旨味が増すのだ。それに自動で動くから警備としても役立つ

それをバケツに見たしアネモネの花弁をひたす、アサシンのナイフを取り出し俺はゴブリンの血を取り出す

このナイフには血を吸収し毒に変換し貯蔵するスキルがある、生物によって毒の効力が違いゴブリンの毒は即効性の麻痺毒で便利だったため多めに溜まっている

それを逆の手順で毒を解除し血としてナイフから垂らす、バケツの色とりどりの花弁が血で汚されお玉で潰される

赤い血液が少しづつ攪拌されていき花弁に色が移っていく、それを持って俺は付近の丘にきた

スーパーで買った安い肉を掴んで液体に揉み込む、紫乃は鼻を摘んでいる

強い芳香剤のような匂いはきついようだ

「よし、あとは火をつけるだけだな」

「いつでもいけるっす!」

ようやく準備が終わった頃にはスマホの時計は九時を移していた、グリフィンを倒す手順は俺が気を引き紫乃が翼を撃ち抜く。そして俺が止めをさす、簡単だ

「ファイアボール!」

地面に置いた肉に火球を放つとゆっくりと焼き肉の匂いが漂ってきた___

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