第21話 名探偵もどきの憂鬱
「お帰り、事務所の飲み会どうだった?」
紫乃と愛理は事務所の飲み会に行っていたのだが想像以上に早く終わったようだ
「さ、最悪っす……」
「まーマウントだらけだった」
事務所に所属しているのは女性インフルエンサーが多い、愛理は個人の頃から有名だったが事務所に所属してからようやく知名度を得たものも多い__SNSで調べた範囲での話だが__
「どこどこのブランドを買ったとか、チャンネル登録者が増えたとか……ボクは興味がないのに……知らない人に話しかけられるのもつらいのに……興味ない物にマウント取られるの面倒くさいっす……」
ソファーでうなだれる紫乃に相手をする沙奈、愛理はカウンターキッチンの前に置かれたテーブルに来た
「お茶漬けちょうだい、脂っこいもの食べ過ぎて胃もたれしそう。帰りとか大学生くらいの彼氏と帰ったりとかして最後までマウント取ってたの面白かった」
「大変そうだな……」
二人とも相当疲れた様子だ……
生徒会は次の日はやはり俺を監視する者が多かった、流石に学校にいるずっと監視する訳にはいかないようで時折すれ違うと訝しげに俺を見ていた
「新崎慎吾、会長がお呼びだ」
「またか……お姉さんも大変っすね」
休み時間に紙パックに入ったいちご牛乳を飲んでいるとまたもや褐色の女が俺を呼び出し前と同様についていった
同じ様に扉を開けて俺は図々しく来客用のソファーに腰をかける
「で、今度は何のようだカイチョ―さん?」
「これを、見てくれ」
会長は俺の前にやってくると何やら事細かに文章が記された紙に写真が張り付けられた資料だった、てっきり先日の件で揉め事かと思い喧嘩腰で挑んだのだが何やら真面目な話そうなので体制を整えた
「ここ数週間、隣りの葉桜商業高校で怪物の目撃が相次いでいる。異世界から帰ってきた君ならばこの資料から何かわかるんじゃないかと思ってね、もしこれを解決すれば先日の生徒会の協力が容易くなるからね」
「そんな話を聞いて俺が喜んで解決するとでも?」
「ああ」
もしこの怪物がザアナから迷い込んできたモンスターだとしたら怪我人が出る、解決はしたい
ちいと舌打ちをしながら俺は資料に目を通す
怪物の姿は未だに目撃されておらず道路に鋭い爪痕が残されていた、怪我人は4人で病院に現在は入院している
羽と爪の破片はスキルについて警戒していた葉桜高校が保管していて生徒会役員はコチラの高校の役員を派遣し警備のため武装の供給をしているようだ
「どんなモンスターか判断材料はあるかい?」
「爪が気になるな、アスファルトに残された爪痕は三つだ。コレはザアナで飛び回っていたワイバーンやグリフィンの特徴だな。爪痕の間隔が2㎝で誰も視認していない、小柄で素早いモンスターだ。それに羽を残してるということは換毛期か極限進化だろう、ワイバーンは羽が生えていない……つまりはグリフィンだ……しかし小柄なグリフィンは子供だけだから相当まずい、雌なら繫殖のためにすぐにデカくなる……雄ならまだ猶予はあるが成長しきれば厄介だ。モンスターには生物の常識が通用しないからな、年単位の成長が僅か数日で起きる」
だがグリフィンにも幾つか種類がある、襲った原因を調べねば……
「調べたいなら今日は早退して構わない、私が弁明してごまかそう」
「いいのか?」
「ああ、人命の危機だ多少の悪事には手を染めよう」
「それで何でボクを連れて行くんすかー!」
制服のまま俺と紫乃は葉桜高校の学区に向かっていた
「アーチャーは痕跡を探すのに向いているからな、相手がグリフィンなら空を飛んだ時に狙撃ができるし」
そうっすか……とついてくる紫乃、実際連れてきたのはもう一つ理由がある
単純にクラスに馴染めていなかったからだ、愛理は陽キャグループと話していて沙奈と俺しか話相手がいなかったからすごく静かだった
いたたまれない気持ちになり俺は生徒会長に頼んで連れてきたのだ
「さて、先ずは最初に現れた駐車場だ……」
寂れた駐車場に停まっている三台の車があるばかりだ、一軒家に挟まれた空間に入った俺は地面についた爪痕を見る
爪痕はやはり写真で見た時と同じ2㎝間隔、それ以上の情報はつかめず俺達は生徒会長から伝えられた情報提供者との合流地点へと向かった
葉桜駅の隣にある家電量販店の立体駐車場で青いキャップを被った少年を見つけた
「アンタがアンタッチャブルか?」
「ああ」
「これが例の品だ、先にそっちのをよこせ」
俺はポケットから三枚のカードを取り出した、スマホのプリペイドカード3万円分だ会長の自腹で購入したこれとの交換を条件に葉桜高校の生徒会員を雇い情報などを仕入れているらしい
「今後ともご贔屓にって伝えてくれ」
「あいよ」
ジップロックに入った爪を受け取り俺は早速開ける、光沢感があり先端が少し右側に曲がっている
「羽は手に入らなかったのか?」
「爪はパクれたんだが羽は生徒会の直属チームが手に入れて盗めなかった、保管庫がかなり厳重で捕まるリスクの方が高かったからな。羽が欲しいんならそこを襲いな」
葉桜高校の生徒会はスキルを持っているのを見逃す代わりに手を貸せと言っているのだろう
助かったと言い俺たちは解散した
「羽が一番情報が多いから欲しいんだが……仕方ない、爪だけで何とかするか」
俺と紫乃はネットカフェの一室を借りて爪を見ることにした
「爪には幾つかの傷がある、コレは……攻撃の時じゃなくてじゃれた時の傷だ。この爪が取れたのは三日前の午前12時34分……怪我人が一人……背中に4針縫う傷を追って入院中か……相当深い傷、しかし仕留めきれなかったと言う事は狩りに慣れていない……」
爪と一緒に入っていたメモの情報を読みながら俺は唸る
「爪から見てグリードグリフィンか、キンググリフィン、ロイヤルグリフィンとかの強い種なんだよな……」
どれだけ強かろうが倒せるのだがやはり被害は抑えたい、それにもしパノプティコンが葉桜の生徒会にグリフィンの死体を交換条件を持ち掛けるのも頂けない
モンスターの死体は身体能力や魔法の強化に使える霊薬の作成に使える、グリフィンは特に脚力の強化の霊薬がつくれるためショッピングモールで出会ったパノプティコンの二刀流の様な素早い動きの奴がそれを使えば余計に厄介になる
それだけでなく葉桜の生徒会が桜河と同様に兵を持つのは避けたい、癪に障るが桜河の生徒会が実権を握り武装の状況がこちらで確認できる方が楽だ
「紫乃、保管庫の偵察をお願いできるか?この商業施設の屋上なら見えるはずだ、俺は少し見舞いに行く」
「はいっす」
俺は怪我人が入院している葉隠総合病院へと向かうことにした___
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