第15話 選択肢

展望台2階、高級料理店『十六夜』

桜市を見渡せるこのテレビタワーにある料理店、桜市で採れた高級食品を用いた三つ星シェフの手料理を振る舞われるこの料理店

いくつものテーブルを重ねて作られたものにこの事件の主犯、ラヴェンナはいた

肉でできた根っこのようなものが張っていて気持ちが悪い

「やあやあ、聖者様」

「ラヴェンナ……!今すぐ術式を解け!」

聖者、ザアナでの俺の役職だ

七人の魔王に対抗するための7人の英雄、そしてその英雄を率いる勇者と英雄の意志を継ぎ魔王を倒し損ねた時に呼ばれる聖者

「お断りします、クーベルト王国の借りがありますからね」

「クーベルト王国?」

愛理が焔を構えながら訪ねてきた

「人間軍の生命線の鉱山を持つ国のことだ、奴は鉱山にある魔力を蓄えた鉱石を使ってクーベルトの人間をロボットみたいに命令だけを聞く使い捨ての兵にしようとしていたんだ」

魔力が蓄えられた鉱石を使った武器や防具には薄い層のようなものがつくられ柔軟な魔力による防御と硬い鉄の防御を持つ

肉体に魔力を蓄えた鉱石を埋め込むことで人間離れした防御力を持ち突撃が可能となるのだ

体に鉱石の生えた人間を捕らえるのは骨が折れた、比喩抜きで

苦々しい記憶を思い出していると鋭利に尖った触手が俺を襲った、しまった油断した

「クソっ!」

杖を使い先ほどと同じ風の刃、ウインドブレードにより触手を真っ向から切断し俺の体を通りすぎる

しかし二つに分かれた触手は背後からの奇襲に切り替えた

「ゲノム……素晴らしいですよねえ、いくつもの世代を超えて作られた遺伝子達…しかしそれを踏み潰し生物としての尊厳に唾を吐きかけるような組み替えたキメラも美しさがありますからねぇ…」

「異常者が…待てよ、遺伝子ゲノムについて誰から聞いた!?いつからこの世界に来たんだ!?」

遺伝子学についてザアナは全くの未開の領域だった、血がつながっていると属性の適性やスキルが継承される可能性がある程度だったり両親の面影があるなという程度の認識だ、ゲノムや遺伝子組み換えのような単語は存在しない

つまりラヴェンナはヴォルザと同様にこの世界の技術を学んでいるということ

「鑑定!」

触手に向かって鑑定を使う

『名称未定。クラーケン、ゾンビ、スライムの遺伝子組み換えにより生まれた触手』

触手はタコ型のモンスターであるクラーケン、肉肉しい見た目はゾンビのように肉を食べることで皮膚以外の欠損した肉体を治せることを利用してだろう、そしてスライム

グチャあ、にちゃ……汚らしく悍ましい擬音がふさわしいその音と共に触手は治っていく

スライムは複数の種類がいる、地上で動物を食べることで筋肉を吸収しどこぞのゲームのようにぷるぷるとし一定の硬さを保った切るだけで倒せる弱いスライムや洞窟の歪みに潜み液体に近い体を使って人間や他の生物を襲い魔法以外では倒せないスライムなどがいて、触手には両方が取り込まれている

つまり、一本が切断されれば二本に増え表面を補い一本に収束する時に筋肉を再現し結合する

「マジか……」

地面に転がる肉の根っこはたぶん切り落とされた触手を吸収しまた新たな触手として再利用するためだろう

「もう、この展望台自体が奴の罠だったんだ!!」

俺がラヴェンナを倒そうと咄嗟に飛び出したのだが天井に隠れていた巨大な肉塊により阻まれた

「大量の魔力……こいつを隠すためにも魔力を展望台で覆ったのか!!」

肉塊による触手攻撃に俺と愛理は________



同時刻

ボクの前に置かれたキーボードは意味もなく1万7600色の発光を続ける、ゲーム内ではちょうど1500連勝したことを祝うテンプレウインドウが表示されている

「休憩しよ……」

引きこもりだろうが、不登校だろうが、結果を出せば相応の付加価値が与えられる。株トレーダー然り社長然り、プロゲーマー然り

逆に言えば結果の出せない不登校というのは哀れな存在に成り下がるのだが

たまたまゲームの才能があったボクと今のeスポーツ市場の相性が良かった、それゆえに所詮ボクがいるのは砂上の城

『見えているでしょうか、桜祭りを突如襲った怪物は展望台に入ると誰かと戦っています!』

中継ヘリに乗った男性アナウンサーは右手にマイク、左手でヘリに取り付けられた鉄棒を握りしめている

展望台のガラスにカメラが注視すると肉の塊と誰かが戦っているのが見える

「ニイザキさんとイチカワさん…?」

自分の異変を感じた、目が良くなった

4Kテレビで少し画質の荒い中継ヘリのカメラを見ているのだが細かい影すらも見える

カーテンを開けて久しぶりに外を見る、すると遠くまで見えた

本来ならば電車で15分ほどの距離の桜港に停泊中のコンテナ船からコンテナを降ろしているのが見える

心当たりは一つ、あの時の弓

スキルや魔法が本当に使えるなら、ボクもアレに参加した方が……

だが思考が止まる、戦う

その単語が脳内で反芻する


『正解なんて答えは戦いの場にはないからな』

正解じゃない答えとはなんた

「ボクが、選ぶしかない」

目の前にある選択肢は、知らんふりをして逃げる選択肢と弓をとる正解じゃない選択肢

ならば_____


「クソっ!!捌ききれねえ!!」

「無斬があれば!」

無斬があれば空間ごと切り裂き触手や根を切除できる、だがないものねだりはできない

無数の触手を捌ききれなくなった俺は聖剣を取り出し全属性の刃を呼び出し愛理を援護するように操る、焔の一閃に合わせて炎の剣が追従し連続攻撃

それだけでなく氷と水の刃によって作り出された硬い氷の足場や壁を使って愛理は自身の移動範囲を増やす

壁蹴りでアクロバティックに触手を避けるとそれを触手がおう、風の刃を操作しそれを防ごうとしたのだが先に愛理がアイテムボックスから出した拳銃から放たれた雷の弾丸に先を越された

あの時、ショッピングモールでちゃっかりいただいたであろう杖として使える拳銃、道具を介しての魔法には基本属性だろうと無属性同様に術式の構成が必要でこの拳銃は全ての属性のために術式は基本の魔力を粘土のように捏ね上げて弾丸に形成する術式とそれを射出する術式しかない

だが今愛理は雷の術式を練り上げた、雷属性の適性があったのだ

「ホントに撃てた!」

バンバンと連射する愛理、だが途中でふらつき始めた

「バカっ!魔力の使いすぎだ!!」

魔力は血液と結合しているため使いすぎると貧血を起こす、魔力までサムライと同等だとしたら魔力量は相当少ない

愛理を俵のように担ぎ上げて厨房のカウンター裏に隠れた、拳銃を奪い風魔法を構築し迫り来る触手を迎撃していく

防衛線で最も重要なのは背後を取られないことだ、膠着状態に痺れを切らしたのかラヴェンナは触手で窓ガラスを突き破ると外を飛び回っていた中継ヘリに狙いをつけた

「まずい!!」

拳銃でそれを狙うも射程が届かずガラスに傷がつくのみだった、アーチャーの弓を取り出し矢をつがえ、弦を引き、狙いをつけるにはあまりにも時間が足りない

だが

シュっ

触手を切断したのは一つの矢だった、俺はアーチャーのスキルである千里眼でその矢を放った主人を見つけた

「紫乃!」

2キロほど離れた立体駐車場の屋上にいた紫乃が弓を構えていた、そして紫乃は飛び降りると炎龍の姿に戻ったヴォルザの背に乗りこちらに近づいてくる

「それがお前の選択か…!」

展望台の周りを飛び回る紫乃は俺と愛理に向けて何かを飛ばした、それは二振りの無斬と愛理のために造られた鞘型の補助アイテム

「いいね、それじゃ…」

「ああ、片をつけるぞ!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る