第14話 桜の散り間際、ひと時の桜吹雪

『皆さん、本日は桜市設立120周年記念の桜祭りです!!』

数人の観客の鼓膜にそんな声が聞こえた、屋台が並び皆が進んでいく

葉桜テレビパーク、桜市のローカルテレビ局である葉桜TVと他の企業が出資し生まれた市内最大の公園だ

葉桜テレビタワーを中心に2つの円形広場を持っており一直線のストリートがある、桜市が生まれた時から始まった桜祭りではこのストリートに一直線に屋台が並んでいる

片方の円形広場ではローカルアイドルのライブや桜市出身の芸能人のトークショー、ローカル番組の公開収録などが開催されており、もう片方では市民の作った芸術作品や周辺の小学校が作ったアート作品が並べられており見たい芸能人などが出てくるまでアート作品を見たりして時間を潰すことができる

「お、もうすぐバンジージャンプの開始時間だし行こうぜ」

その言葉の主は大学生の4人組が屋台で買ったであろうタコ焼きやソフトクリームを食べながらテレビタワーへと向かっていった170メートルから飛び降りるバンジージャンプは10年前から始まった新たな伝統だ

展望台は桜市民なら一度は登った事がある、大抵は学校の行事だが。それ故に高さがわかっているためこのバンジージャンプは大盛況

限定100枚のチケットは毎回激戦なのだ

だがそんな祭りに一人の男が歩く、深くかぶった中折れ帽と裾が白い何かで汚れていおり整っていたであろう紳士服はボロボロ

コツン、コツン、そんな足音が賑やかな桜祭りで嫌に響いていた、一人の女性の肩にぶつかった男

女性は文句を言おうとした時に手が男の肩に届かなかった事に違和感を覚えた、しかし次第におぞましい快楽と苦々しい空腹感を覚えソレに囚われた

女性だった物は幾つものパーツを変えていき右足はヤギ、左足はそのまま。顔は犬、胴は人間、右腕は鋭利に尖った槍が刺さったトロールの腕、左手は蛇の脚へ____



愛理から連絡を受けた俺はスマホでニュースを流しながら街を走り抜ける

『平和だった桜祭りに突如として異形の生物が暴れ怪我人が出ています、付近の皆様は速やかに避難を!!』

「キメラ、効率的な強さじゃなくて醜悪な見た目にする……ラヴェンナ!!」

俺が倒し損ねた魔族の一人だ、人間の体に動物の体をくっつけてキメラにする魔法術式を赤の魔導書に与えられ魔王とは関係なしに人間を攻撃していた

魔王の討伐は俺しかできなかったため討伐できなかった魔族やモンスターと言うのはいる、イワンコフや赤の魔導書もそれに並ぶ

葉桜テレビパークの前にあるコンビニを集合地点にして俺と愛理は合流した、アイテムボックスから一振りの刀を取り出す、ラヴェンナは展望台の中で数体のキメラを見せつけながら逃げ遅れた人を襲っていた。報道ヘリがタワーの周辺を飛び回っている

「無斬と違ってコイツはキレる、扱いは気をつけろよ」

未だヴォルザが持っているため無斬しか使っていない愛理では心配だが今回は俺と共に動くため援護はできる

俺の渡した刀は焔とよばれるサラマンダーの血を練り込んだ鉄で作った刀、無斬と同時に特殊な力を持つ武器だ、一応は無斬にかなり近い戦い方ができる物を選んだがコレは物が切れる

「避難してる奴らにバレないように削っていく、シャドウヴェール!」

俺は愛理と共に認識阻害のスキルを使いテレビパークへと入っていく、犬とドラゴンを組み合わせた先兵としてよく使っている

愛理は焔の刃に炎を纏わせ鞘に納め先兵を一気に倒しテレビ塔へと向かった

「なんか……重苦しい」

「展望台全体が奴の魔力によって覆われてる、魔族の戦闘手段だな。戦闘エリアを自分の魔力で覆う、こうすれば自分の居場所をバレにくくする事もできるし魔法を使っても直ぐに魔力を回復できるからな」

売店やエレベーターの並んだテレビ塔下のロビーに入った俺たちはエレベーターに飛び乗った

「あいつは人間は殺さない、ただ人間に動物の体をつけて遊ぶ。最悪の趣味をしている、もう理性はないから動物部分だけを切れ。奴を倒せば身体も元に戻る」

「わかった」

エレベーターのドアが開くと毒で作られた刃の魔法が襲ってきた、俺はとっさに前に出て毒を受けた

深く突き刺さる刃は体に溶けていき何事もなく俺の肉体で吸収した、ガーディアンのスキルである毒無効化により毒は効かない

「あの毒はよけろ、お前の焔を振るえば毒が蒸発して気化する!」

毒の刃で傷ついた肉体を俺はエンチャンターの持っていた世界樹の枝で作られた短い杖を使い治癒魔法を使う、体内で毒を無効化できるのだが皮膚は無効化できず毒により皮膚が溶けるため防御ができない、エレベーターの壁にもたれかかり毒を放った主を見てみる。毒蛇の頭を付けられた人間が1人、両手以外オークの体で作られたキメラが二人ほどいた

「避ける……わかった」

愛理は駆け出し毒の刃を回避し続けた、一度跳躍し空中で一回転すると売店のカウンターに飛び乗り蛇頭の首を両断し背後から二匹のオークの腹を斬り伏せた

「ひゅう」

ガチでコイツはインフルエンサーよりザアナで兵士やった方が合うんじゃないか?

なんて思いつつ俺はメイジの長い杖を取り出した、エンチャンターの杖は世界樹の枝で出来ているのだがこの杖はその枝分かれしたもう一つの枝を使った双子、もしくは兄弟的な杖だ

本来の杖は魔法に必要な術式の構成は一度に一つしか使えないのだがこの杖は別れた枝を使っているため同時に2つの魔法を使うことが可能だ、ザアナでは多くても両手で2本の杖を持ち同時に2つが最大だった

しかしメイジの杖とエンチャンターの杖、両方を持てば魔法が4つ同時に使える

この四つ同時使用は1億ほどのザアナの歴史上4人しかおらず俺が魔法に適性があれば世界で最初にして最後の5つ同時使用が可能だったらしい

2つの杖を構えてエンチャンターの杖『子燕』で愛理に身体能力上昇と反射神経、メイジの杖『カラス』で風の刃と炎の槍を作り出す

魔法は8つの属性と5つの形式を持つ

属性には火、水、風、土、毒、雷、氷、七つの基本属性と最後の無属性魔法があり攻撃には基本属性がよく使われる。無属性魔法は術式の構築によって能力をかえる、治癒魔法や付与魔法はこの無属性魔法に分類されている

ラヴェンナのキメラ構築魔法も無属性だ、基本的に無属性魔法は魔法についての知識が深いほど新たな魔法や魔法の改造などが可能になるのだ

そして形式は、手のひらで操作する基礎となる発、攻撃として最も優れているが長距離には向かない刃、遠距離での攻撃や牽制などに用いる槍、魔力の量によって威力や飛距離が変わる球、そして武器や防具に魔法を纏わせる纏

「野をかける風、今我の力をもって敵を切り裂け!ウインドブレード!!」

「全てを焼き尽くす炎、今我の力を持って敵を貫け!フレイムランス!!」

俺の口からまるで腹話術のように2つの言葉が放たれた、これがカラスの同時使用の能力だ

高温の火球を俺は先に放ち風の刃でそれを引き裂く、すると火が周囲に巻き散らされドブネズミと犬のキメラを倒す

「行くぞ、愛理!!」

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