第8話 不穏の始まり

シャワーの音が少しだけ聞こえる、俺はリビングのソファーを占領して横になっていたのだが帰ってきた愛理が背もたれから顔を出して話しかけてきた

「家賃?」

「うん、流石にタダで住ませてもらうのは忍びないし」

俺が沙奈の家に行っている間、愛理は先日のインフルエンサー事務所で契約の云々をおこなっていたらしい

茶封筒をピラピラと見せる愛理、俺はスマホで愛理が住み始めての水道料金やらを調べてみる

料金プラン的にはそこまで負担はないし……

「前の家はいくらだった?」

「月二万くらい」

俺と同じくらいか、と言ってもなぁ……

「じゃあ水道代、ガス代、食費で4千円。ソレでサムライの力のレンタル代として千円。毎月五千円」

まあこれくらいなら文句も出ないだろう。愛理もサムライが冗談だと気づいたのかクスクスと笑いながら茶封筒から五千円札を取り出しわたしてきた

「はい」

「あい、受け取りましたと」

受け取った俺はお休みと言い残して部屋に戻った、部屋には統一感のない家具がゾロリと揃っていた

特撮ヒーローの変身アイテムだったりゲームのキャラクターフィギュア、ぬいぐるみ、ライトノベルから洋書などが並ぶ本棚

俺はロフトベッドに登りスマホを充電コードにつなぎSNSを開いて適当にネットサーフィンしていると沙奈が入ってきた

「慎くん、服どうしよう」

「あ!そうだった、服とか持ってくるの忘れてたな。明日愛理と服買いに行ってこいよ。金出すから」

明日は土曜日、メッセージの表にも愛理は何も書いていない。俺はバイトだから同行できないが有名インフルエンサーとなれば流行りくらいは当然知ってるだろう

「愛理ちゃんと、服……」

俺のクローゼットから自分の服を取り出して部屋に持っていった、沙奈には愛理と同じ両親の寝室を渡したのだが割と楽しそうでよかったなと思いつつ俺は眠りについた___


「お久しぶり〜新崎君〜!!」

「お久しぶりです、真子さん」

バイト復帰1日目、俺は時間まで休憩室でスマホを操作していたところに同僚の真子さんがやってきた

俺のバイト先はファミレス『家族宮殿』、仕事は厨房で料理を作るだけ。接客より何倍も楽だしメニューさえ覚えておけばゲーム感覚で終わらせられるのもいいところだ

この家族宮殿は家族とは名ばかりで俺と同じ学校の生徒がよく集まる、朝から勉強のために集まる迷惑な勤勉学生やアミューズメント施設で遊んだ帰りの交友関係ひろめの学生、夜にはなんかいい雰囲気の恋仲の学生。まあ開店当時からこうだったらしいから特に問題視はされてないようだ

「最近治安が悪くてね〜嫌になるわ〜」

「春先は毎回っすね。高校デビューで浮かれてるだけですよ」

「それならいんだけどね…」

そろそろバイトの時間だと俺はエプロンを締め直して厨房に立った。仕事の流れは簡単で、ホールからの注文が各場所に設置されたタブレットに流れてくるのでその注文を調理してホールスタッフに渡すだけだ

早速きていたフライドポテトをフライヤーに入れてタイマーをスタートさせる。すると客席の方から机を大きく叩く音が聞こえた、なんだなんだと真子さんと一緒に顔を厨房の影から顔を出すと明らかヤンキーと言うふうな顔ぶれの連中が10人ほど集まっていた

「ここ最近ずっときてるのよ…怖いわ〜」

「殴り合いが始まったら止めに行きます」

「大丈夫なの?」

「まあ鍛えたんで」

ヤンキーたちはどうやら別チームのようで、金髪の男とフードを被った男が敵対しその部下が机を叩いて威嚇しているようだ

他の客たちはそれにビビり視線を合わせないように机のほうを向いたりイヤホンで聞こえないふりをしている

「あのーお客様…ご迷惑になりますので、これ以上は警察に…」

「うるせえジジイ!」

店長が止めに入ろうとしたところに部下の男が机に倒れていたコップをぶつけようとし俺が寸前で止めた

「んだてめえ!!」

俺はコップを持った男の腕を掴んだまま引き寄せ地面に倒して拘束した

「これ以上は警察を呼びます、警告はしました」

「っちい、じゃあ表でろ。こっちが勝ったらケツにスピリタス入れて死ね」

「…店長、すいませんちょっと抜けます」


レンタル駐車場でエプロン姿の俺を囲うように10人が集まる

さっきまでのは仲間割れかよと思いながら構える

「これ使う時がきたな!おらっ!!」

リーダー格の男が何かを持ったと思うとそれは素早く俺の首元目掛けてとんできた

「キラースロー!?」

投げナイフ用のスキル、投げる速さ強さ距離命中制度が上がるスキルだ。なぜこいつがこんなものを

俺は咄嗟に風魔法により障壁をはる、ナイフは風によって止まりからんとアスファルトへ落ちた

「聞くことができたな、ライトニングバインド」

雷の最上級魔法、スキルを使ったものたちを一気に雷で捕縛し電気ショックで気絶させる

「お前もアレから買った口か!」

ナイフは薄く安っぽい物で鋭くもない、俺は防御するのもバカらしくなり両腕を広げて見せた

「ははっ!バカかよ!!」

キラースローによる鋭い投擲は服を突き破り俺の肉体に傷ひとつつかず地面に落ちた

「化け物かよ!!」

「本物を見せてやるよ」

俺はナイフが落ちた衝撃でかけたアスファルトの小石を拾い同じキラースローで返してやった。弾丸に等しい速度でそれは奴の手にあたりナイフを弾いた

「クソっ!!いてえ!!ああ、クソっクソっ!!」

手首の骨を折ったため痛みに悶える男に俺は近づいてしゃがみ込む

「どこでそれを買った」

「売人だっ!最近俺たちや他のグループに宝石を売りつける奴がいるんだ!そいつが売ってくれたんだよ!その宝石を持ったらすげえ力が手に入ったんだ!!それ以上は知らねえ!」

宝石…スキルオーブのことだな。スキルの取得は基本的に経験を積むといつの間にか手にいている方法と、ダンジョンで手に入る丸い宝石、スキルオーブを使いゲットする方法だ

「その宝石ってビー玉みたいにカラフルで丸いやつか?ほら、怪我は治してやる」

「ふぅふぅ…どんだけ金持ってんだよ…確かに丸いが俺たちみたいな下っ端は凸凹したやつだ。傷がついてたり凹んでたり、幹部とかになりゃあそのレベルの綺麗なものが渡されるんだ。綺麗なやつは竜巻起こしたり瞬間移動できたり人間離れしたことができるらしいが…俺は見たことねえな」

なるほど、もしかするとスキルオーブを生成しているのかもしれない。だがこれが漏れたらまずいことになる、早めに回収せねば

「アンタ名前は?ウチのチームに入らねえか?」

「遠慮しとく。だが二度とウチの店で暴れるなよ、次はさっき以上のことをしてやるからな」

俺はそう言い残してバイトに戻った____



『ふむ、売人か…わしの方でも探しておく』

バイトが終わった俺はスマホでヴォルザと通話していた

「スキルオーブの生成は可能なのか?」

『ザアナの兵器的な歴史でいくとスキルオーブ作成機の構想はかなり昔からあった。お主も知っておるじゃろう七英雄のスキルが兵士全員に使えればその国は最強…ゆえにお主の引き継ぎのスキルは最強と言われておった。しかし繊細な技術が必要で実用は見送りになった、じゃがこの世界ならば機械によるコンマ1のズレもない繊細な作業も可能となる。もしザアナからこの技術を知ってるものがやってきたとするならありえん話ではない』

「厄介だなぁ…」

自販機の前で俺は項垂れる、元々ダンジョンの件も転移の件も解決していない

「一難去って…ないな、一難溜まってまた一難ってか」

一気にエナジードリンクを飲み干して空き缶をゴミ箱に捨てた、ガラガラとゴミ箱の中の音がやかましく響いた

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